↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/66

第3話:王国最強の騎士団長は、平和な日用品の買い物を許さない

勘違い過保護ラブコメ、第3話をお届けします。

今回は外での戦闘(?)ではなく、街の中での「平和な日用品の買い物」が舞台です。フライパンを買いに行くだけなのに、なぜか国家機密の防衛作戦のようになってしまう不憫なライルと、全力で勘違いを爆発させるシルヴィアのドタバタをお楽しみください!

それでは、第3話の幕開けです!

「……よし。今日は外に出ない。絶対に、街の安全な店で、フライパンを1つ買うだけだ」

辺境の街の一角にある古びた雑貨屋の軒先。

ライル・フォン・ヴェルナーは、自分に言い聞かせるように呟きながら、固く拳を握りしめていた。

前回の薬草採取では、ただの道端の草むしりのはずが、シルヴィアの神速の一撃によって平原ごと更地と化し、しばらくの間、外での作業はしないと心に誓ったのだった。ならば、人がたくさんいて衛兵も巡回している街の中なら、さすがに安全なはずだ。自炊用のフライパンとマグカップを新調するだけなのだから、事件の起きようがない。

ライルはゴクリと生唾を飲み込み、軋む木の扉をそっと開けて店内に足を踏み入れる。

薄暗い店内には、鍋やほうき、食器やクロスなどの生活雑貨が所狭しと並んでおり、店主である初老のおじさんがカウンターでのんびりと居眠りをしていた。

「あ、すみません。フライパンを一枚――」

「――お待たせいたしましたライル殿!! 本日も貴方様の身辺警護、しかと承りました!」

ガシャァァァン!! と、店内の空気を一瞬で凍らせるような重厚な金属音が響き渡った。

ライルの背後から、いつの間にか神銀ミスリル製のフルプレートアーマーに身を包み、背中に国家予算級の大剣を背負ったシルヴィアが、隙のない足取りで滑り込んできていた。

「なんで店の中にまで入ってくるんだよ!! ここは狭いんだからそのデカい鎧を脱げ!!」

「何を仰いますかライル殿! 室内こそ死角が多く、暗殺者の潜伏に最も適した危険地帯です。私のこの重装甲こそが、貴方様の尊い御身を守る唯一の盾となるのです!」

「店主のおじさんがビビって起きただろ!! 見ろ、カウンターの陰で泡吹いて気絶しかけてるぞ!」

実際に、物音に飛び起きた店主は、目の前にそびえ立つフルアーマーの鬼神(に見える姿)を見て、一瞬で顔面を真っ青にし、カタカタと震えながら樽の陰へと這いつくばって逃げ出していた。

「お、お客人……うちは村の小さな雑貨屋でさぁ……税金もちゃんと払ってますし、反乱軍の武器なんて置いてません……どうか命だけは……!」

「違うんです店主さん! 俺たちはただの買い物客です! この銀ピカの不審者は俺の知り合いじゃなくて――いや知り合いだけど敵じゃないです!」

ライルが必死に両手を振って弁解するが、シルヴィアはそんな店主の恐怖に満ちた怯えを一瞥すると、神妙な面持ちでうなずいた。

「流石は隠れ里の雑貨屋ですね……。一見するとただの商売人に見せかけ、その実、我が君の動向を常に探っている闇の商人、あるいは情報ギルドの隠れ蓑というわけですか」

「ただの村の雑貨屋だよ!! 変な設定を勝手に生やすな!!」

ライルは頭を抱えたい衝動を必死に抑え込み、気を取り直して陳列棚に並んでいた一枚の「鉄のフライパン」を手に取った。値段は50銅貨。朝食の目玉焼きを焼くには十分すぎる品物だ。

しかし、それを目撃した瞬間、シルヴィアの脳内フィルターが凄まじい勢いで誤作動を起こした。

「――っ! それは……!」

「ん? これか? ただの調理器具だけど」

「ご謙遜を……! その絶妙な円形の曲線、そして魔導の熱を均一に伝える特殊な金属光沢。これは王国の最高技術を結集した『対魔導防壁用の軽量型ラウンドシールド(隠し武器付き)』ではありませんか!」

「どこをどう見たらシールドに見えるんだよ!! 持ち手がついたただのフライパンだろ!! ここでパンケーキを焼くんだよ!!」

「パンケーキという名の、敵の呪術を弾くための高精度アーティファクトですね……! 流石はライル殿、あえて武器屋ではなく、こんな寂れた雑貨屋の片隅に眠る秘宝を見抜かれるとは、その深遠なる知略、恐れ入ります!」

(もうダメだ、この女に常識を説くのは惑星の重力を無視するようなものだ……)

ライルは遠い目をしながら、次に棚に置かれていた、モコモコとした「普通のウールの毛布」を手に取った。寒さ対策の防寒具である。

「では、こちらの毛布も一緒に――」

「――待ってくださいライル殿!」

シルヴィアは真剣な表情でその毛布を奪い取るように受け取り、指先でその布地を入念に触診し始めた。

「この漆黒の質感、そして肌触りの滑らかさ……。これはかつて闇の暗殺ギルドが使用していたとされる『特殊潜伏クロス(空間遮断機能付き)』……! 貴方様の繊細な御身を、夜の寒さだけでなく敵の索敵魔法からも完璧に守り抜くための、最高級の防壁ですね!」

「ただの羊毛の毛布だよ!! 普通に町の雑貨屋で売ってるやつだよ!!」

「なんと慈悲深い……。過酷な辺境の生活にあっても、常に自らの備えを怠らないその姿勢、このシルヴィア、感服いたしました!」

会話のキャッチボールが完全に平行線をたどる中、ライルはぐったりと肩を落とし、フライパンと毛布、そしてマグカップをカウンターにドンと置いた。

「……もういいです。これ全部買います。お会計お願いします、店主さん……!」

カウンターの陰から、生きた心地のしない顔で店主がそろそろと這い出てきた。

震える手で商品を算盤そろばんで弾き、引きつった笑みを貼り付けながら、消え入りそうな声で告げる。

「し、しめて……銅貨で八枚になりやす……。どうか、どうかご勘弁を……」

「はい、これ代金……」

ライルが財布から小銭を出そうとした、その瞬間だった。

「待ちなさい、店主」

ガシャリと重い金属音を響かせ、シルヴィアがずっしりと重そうな革袋をカウンターの上にドンッと置いた。

中から飛び出してきたのは、朝日の光を浴びて眩しく輝く、本物の純金の金貨だった。しかも3枚。一般人の一年の生活費が軽く吹っ飛ぶ額である。

「――これで釣りのいらぬように」

「ひっ……!? こ、金貨でさぁ……!?」

「それに、もしこの尊い品々に一粒の埃でもついていようものなら、あるいは我が君の手をわずかでも煩わせるような不備があれば――この街の経済ごと、いやこの一帯の土地を更地にします。心得ておきなさい」

シルヴィアの放った殺気は、雑貨屋の壁をミシミシと鳴らし、店主の腰を完全に砕いた。店主は白目をむき、文字通り「お陀仏」のポーズでカウンターに突っ伏してピクリとも動かなくなった。

「おい、待てシルヴィア!! 金貨3枚は高すぎるだろ!! というか店主が死んだぞ!! 死んでるだろこれ!!」

「ご安心くださいライル殿。あの商人が気絶したのは、我が君の圧倒的な器の大きさと、あまりの高額な報酬に歓喜の涙を流しているからです。商人の鑑ですね」

「完全に恐怖で脳が焼き切れて気絶してるだけだよ!! おい店主しっかりしろ、息をしてくれ!」

ライルが必死に店主の肩を揺すっていると、店内の天井近くの棚から、小さなアクシデントが発生した。

揺れに耐えかねて、あるいはシルヴィアの放つ圧倒的なプレッシャーに耐えかねて、陳列されていた「ただのガラスのコップ」が、ガタガタと音を立てて端へと転がり落ちたのだ。

「――頭が高い!!」

シルヴィアの反射神経は、音速を超えていた。

「我が最愛の救世主の頭上で、凶器(ガラスの破片)を落下させるとは、天誅!!」

シュパッ!! と、店内に凄まじい真空の刃が走る。

コップが床に落ちるよりもコンマ数秒早く、そのガラスの破片は分子レベルを超えて、この世から完璧に消滅した。

もちろん、コップが消えただけでは済まなかった。真空の刃の余波は、雑貨屋の天井を綺麗に丸くぶち抜き、青空が広がる見事な吹き抜けを作り出したのである。

ゴゴゴゴゴゴ……!! と、古い店舗の柱が悲鳴を上げる。

「…………」

「ふぅ。不届き者め、見事に粉砕してやりました。ライル殿、お怪我はありませんか?」

「店が半分吹き飛んだわボケェ!! なんでマグカップ1個買うのに毎回建物の耐久テストをしなきゃいけないんだよ!!」

ライルが頭を抱えて絶叫しているその頭上を、ぽっかり空いた天井から、風に揺られた一羽の小鳥が「ピヨッ」と呑気に飛んでいく。

後日、この辺境の街では「あの古びた雑貨屋の店主は、最強の騎士団長様がお忍びで訪れた際、あまりの神業に感銘を受けて自ら天井を吹き抜くほどのオープンエアな店舗に改装したらしい」という、全く事実とは異なるファンタジーな都市伝説がまことしやかに囁かれることになった。

戦利品のフライパンと毛布を抱え、半泣きで雑貨屋の廃墟(?)から立ち去るライルは、夕日に向かって心の中で誓うのであった。

――明日こそ、絶対に、誰にも邪魔されずにコーヒー豆を買うんだと。

最後までお読みいただきありがとうございます!

第3話、「平和な日用品の買い物を許さない回」いかがでしたでしょうか。

外だけでなく、街の中の雑貨屋ですら最新鋭の防衛拠点にしてしまうシルヴィアの過剰すぎる防衛本能と、それに巻き込まれて胃痛を悪化させるライルの苦労を楽しんでいただけたら幸いです!

次回も、ライルの平和な日常(?)を粉砕する(物理)ドタバタが巻き起こります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。