第29話:夜の庭の侵入者!? 気絶泥棒ピラミッドと、お馴染みの胃薬ルーティンの件
勘違い過保護ラブコメ、第29話をお届けします!
前回のラスト、庭に山積みにされた大都市からの朝貢品(財宝)を巡り、シルヴィアのウェディング暴走という大爆弾が投下されましたが――今回は、その「野ざらしの財宝」がさっそく別の厄介な引き金を引き起こします。
夜の闇に乗じて忍び寄る影、そして朝の庭にそびえ立つ謎の造形物とは……!?
ライルのツッコミとアルベルトの胃薬ルーティンが光る第29話、スタートです!
漆黒の闇が辺境の街を包み込み、人々が深い眠りにつく深夜二時。
ライルの自宅の庭――そこには、昨日の騒動でそのまま放置された億万両の金貨や宝石の山が、月明かりを浴びて妖しく、そして下品にギラギラと輝いていた。
「……ふふっ、へへへ……見ろよおい、あんなところに桁違いの宝の山が転がってやがるぜ……!」
塀の影から、コソコソと忍び足で近づいてくる二つの影があった。
町で名を馳せる(=治安維持組織からスルーされる程度には小物な)コソ泥のゴロツキ二人組である。彼らは昼間に街で聞いた「裏の王の庭に、大都市から送られた莫大な財宝が野ざらしになっているらしい」という噂を半信半疑で聞きつけ、一獲千金を狙ってやってきたのだった。
「おい、バカ言うなよ。あそこはあの『王国最強の騎士団長』がベッタリ張り付いてるヤバい家だぞ……! 見つかったら一瞬で肉片にされるって噂だぜ!」
「びびってんじゃねぇよ! 夜中だぞ、しかもこんなに無防備に宝が積み上げられてるんだ。さっさと袋につめてトンずらするぜ!」
二人はガタガタと震えながらも、目の前にある眩いばかりの金貨の山に目が眩み、欲に目をくらませて庭へと踏み込んだ。
金色の輝きを放つ木箱に手をかけ、「やったぜ、これで俺たちは大富豪だ……!」と笑い声を漏らそうとした、その瞬間だった。
――ズウンッ!!
背後で、まるで巨大な隕石が落下したかのような重苦しい地響きが鳴り響いた。
ゴロツキたちがビクッと肩を震わせ、おそるおそる振り返るとそこには――。
「……我が君の宝を、一匹の虫けらが狙うというのですか」
真っ暗な闇の中から、紫紺の瞳を冷たく、しかし血走った熱量で光らせた影がスーッと立ち上がった。
王国最強の騎士団長・シルヴィアである。彼女は、「夜間に不審者が我が君の宝(=新居の家具)を狙うかもしれない」と、ライルの寝室の窓から一睡もせずに庭を監視していたのだ。
「ひっ……!? だ、団長……っ!? なんでこんなところに……っ!?」
ゴロツキの一人が腰を抜かし、その場でへなへなと崩れ落ちた。
「我が君の眠りを妨げ、さらにその尊い財産をかすめ取ろうなど、十万年早いわ!」
次の瞬間、音速を超える一撃が闇夜を切り裂いた。
武器すら抜く必要がなかった。シルヴィアが放った手刀の風圧だけで、二人のゴロツキは文字通り宇宙の彼方へ吹き飛ばされるような衝撃を受け、白目を剥いてその場でピクリとも動かなくなった。
戦闘時間、およそコンマ三秒。
侵入者たちは、自身の不幸を嘆く暇すらなかった。
そして翌朝。
「……はぁ。今日も今日とて、最高の朝がやってきちまったな……」
ライルは重い足取りで寝室から出て、伸びをしながら自宅の庭へと足を踏み出した。
昨日の今日だ。どうせまたシルヴィアが変なウェディングドレスのカタログでも庭に広げているのだろうと、半分諦めモードで視線を向けたライルは、その場で完全に硬直した。
(……は?)
言葉が出なかった。
庭の真ん中、昨夜まで金銀財宝の山があったその場所に、信じられない光景が広がっていたからだ。
昨夜忍び込んだであろう見知らぬ泥棒たちが数人、全員きれいに白目を剥いて気絶しており――なぜか、その肉体が見事なまでの「幾何学的なピラミッド状」に積み上げられていたのだ。最下層に四人が四つんばいで土台を支え、その上に二人が乗り、最頂点には一番小柄な泥棒が垂直に突き刺さるような形で、完璧なバランスでそびえ立っている。
あまりの芸術的なまでの人造ピラミッドに、ライルは持っていた歯ブラシをポロリと落とした。
「なんでだよ!!」
朝の静寂を切り裂くライルの絶叫が、辺境の青空に響き渡る。
「なんだこれ! うちの庭で古代エジプトの再現でもやってんのか!? 昨日の今日で、なんで朝起きたら泥棒がピラミッド状にアートされてんだよ!!」
ライルが頭を抱えて頭をかきむしっていると、ガシャリ、と聞き慣れた鎧の音が近づいてきた。
朝の巡回に出ていた王国騎士団副団長・アルベルトである。
アルベルトは、ライルの家の庭にそびえ立つ見事な「気絶泥棒ピラミッド」をじっと見上げ、数秒間無言でフリーズした後、ゆっくりと視線をライルへと向けた。
「……おはようございます、ライル殿」
「おはようじゃねぇよアルベルト! 見ろこれ! うちの庭がいつの間にか謎の観光スポットになってるぞ!」
ライルが半泣きになりながらピラミッドを指差すと、アルベルトはどこか遠い目をして、いつもの胸ポケットに手を突っ込んだ。
そして、慣れた手つきでカプセルを取り出し、水なしでゴクリと飲み込んだ。――そう、これが彼らの間ですっかり定着した「胃痛薬差し出しルーティン」である。
「……いやはや、見事な構築美ですね。まさか、昨夜のうちに侵入した不心得者たちを、これほどまでに無駄のない芸術的な形状で制圧するとは……流石は我が団長、戦闘技術だけでなく空間把握能力まで一級品だ」
「褒めてる場合か!! 誰が芸術品を作れって言ったんだよ!」
アルベルトは、もう一包み取り出した胃薬の小袋を、トントンと軽く叩きながらライルに差し出した。
「どうぞ、ライル殿。今日の分の特製胃薬です。昨日の『結納品勘違い騒動』に続き、今朝は『不法侵入者の立体造形』ですからね。あなたの胃の粘膜が持つか、私の方が心配になってきました」
「お前のその手際が良すぎるルーティンをやめろ! なんかもう受け取っちまったじゃねぇか!」
ライルは渋い顔をしながらも、差し出された胃薬を受け取り、無言で口に放り込んだ。じゃりっとした苦味が口の中に広がり、なぜか少しだけ現実に戻されたような気がする。
「しかし、ライル殿」
アルベルトは真剣な表情に戻り、ピラミッドの頂点でプルプルと微かに震えている泥棒を見つめた。
「これほどの腕利きの泥棒たちが一網打尽にされたとなれば、『裏の王の庭に近づけば、一瞬で立方体……いや、ピラミッドにされる』という恐ろしい伝説が、この地方の裏社会に瞬く間に広がるでしょう。治安維持の観点からは非常に助かりますが……」
「余計に治安悪化してんだよ!! 誰も近づかなくなる代わりに、今度はもっとヤバい組織の連中が『挑戦状』だと思って集まって来てるだろ絶対!」
ライルが頭を抱えて絶叫しているその背後から、「おや、我が君?」と、爽やかな朝の挨拶が聞こえてきた。
振り返ると、そこには昨夜一睡もしていなはずなのに、なぜかお肌ツヤツヤで満面の笑みを浮かべたシルヴィアが、優雅に歩いてくるところだった。
「おはようございます、我が君! 朝から庭のインテリアのバランスを熱心にお確かめですか? 実は私、昨夜の微調整で、あの不審者たちを『永遠の愛を誓うピラミッド型モニュメント』として綺麗に配置し直しておいたのです! 我ながら素晴らしいアイデアだと思いませんか?」
「どこがインテリアだ!! 泥棒をモニュメントにするな!!」
ライルはもはやツッコミのエネルギーすら枯渇しかけながら、天を仰いで深い溜息を吐いた。
億万両の財宝と、それを狙う泥棒たち、そして愛の暴走を続ける最強のヒロイン。
辺境の平穏な朝は、今日も今日とて、ライルの胃酸の過剰分泌とともに盛大に幕を開けるのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第29話、「夜の庭の侵入者!? 気絶泥棒ピラミッドと、お馴染みの胃薬ルーティンの件」いかがでしたでしょうか。
庭の財宝を目当てにやってきた雑魚の泥棒たちが、シルヴィアの愛の防衛本能によって一瞬で撃退され、なぜか綺麗にピラミッド状に積み上げられているというシュールな朝の光景をお届けしました! そして、アルベルトとのすっかり定番化した「胃痛薬差し出しルーティン」も無事に確立されましたね。
しかし、泥棒がピラミッドにされた程度で、この「財宝編」の混沌が終わるはずもなく……?
次回、第30話はついに、
【ブラックマーケット・闇のオークション勘違い系】!
泥棒の次は、夜な夜な怪しい仮面をつけた「裏社会のブローカーや闇の商人たち」が勝手に庭に忍び込み、極秘オークションを始め出してしまい……!?
それでは、また次回の第30話でお会いしましょう!




