第27話:大都市からの「恐怖の朝貢(お中元)」と、絶望する苦労人たちの件
勘違い過保護ラブコメ、第27話をお届けします。
前回、エリート副団長アルベルトが「秘密の胃痛同盟」に加入し、完全に被害者の仲間入りを果たしましたが――今回はさらにスケールが拡大します! ライルの実家がある「地方の大都市」から、とんでもないものが届いてしまう大パニック回です。
果たして、ライルはこの豪華すぎる誤解の山から逃げ切れるのか!?
それでは、第27話のスタートです!
ある日の朝。
辺境の街にあるライルの自宅の前に、見慣れない豪華絢爛な大型馬車が、なんと十台以上もずらりと並んでいた。
馬車から次々と降りてきたのは、いかにも地方の大都市で名を馳せているような高級仕立ての服を着た商会員たちや、厳つい護衛を引き連れた有力者たちである。彼らは周囲の住民が固唾をのんで見守る中、一斉にライルの家の前で膝をつき、震えながら頭を垂れた。
「――ヴェルナー家の次男にして、辺境の闇を統べるライル様! 日頃のご機嫌伺いと、我が大都市の全商会を代表いたしまして、心からの忠誠の証――『お中元』をお持ちいたしました!」
「「「どうかお納めくださいませ……!」」」
使いたちが一斉に声を揃えて頭を下げると、後ろに控えていた従者たちが次々と巨大な木箱を開けた。
中から飛び出してきたのは、眩いばかりの宝石、金貨の詰まった袋、王都でも手に入らない最高級の魔導具、そして極上の特産品や美術品の数々だった。まるで国家の予算かと思えるほどの莫大な財宝が、朝の陽光を浴びていやらしく光り輝いている。
その光景を自宅の玄関先で目撃したライルは、持っていたホウキをポロリと落とし、完全にフリーズした。
(……は?)
脳内で警報音が激しく鳴り響く。
ライルの実家があるのは、たしかに栄えた地方の大都市だ。しかし、実家はごく一般的な手堅い商売をしている家系であって、決してこんな「国家を揺るがす闇のシンジケートのボス」みたいな真似をしているわけがない。いや、そもそも自分は家を出て、この辺境でひっそりと暮らしている身なのだ。
なのに、なぜ大都市の有力者たちが、わざわざ何日もかけてこんな莫大な財宝を「上納品」として持ってくるのか。
「ちょっ……待て待て待て待て!!」
ライルは慌てて両手を激しく横に振り、顔を青ざめさせながら絶叫した。
「んだこれ!? お中元ってなんだよ! なんで金貨や宝石が入ってんだ! うちの実家はそんな裏社会のシノギみたいなことやってねぇよ! おい、今すぐその怪しい箱を全部引き上げろ! 返送しろ、今すぐだ!!」
ライルが必死の形相で怒鳴り散らすと、使いたち(商会員)は「ひっ……!?」と文字通り腰を抜かした。
(お、お怒りになられた……!? 我々の持ってきた上納品が少なすぎたのか……!? それとも、これ以上のさらなる忠誠(もっと危険な仕事)を要求されているというのか……!?)
使いたちは恐怖のあまり床に額を擦りつけ、涙を流しながら必死に弁明した。
「も、申し訳ございませんライル様! 今回は急なご挨拶でしたので、これだけの品しかご用意できませんでしたが、来月にはさらに倍の――」
「倍じゃねぇよ!! いらねぇよ! そんなもん受け取ったら俺の社会的信用どころか人生が終わりだよ!! 受け取れるかこんなもん!」
ライルが頭を抱えて頭痛に耐えていると、その騒ぎを聞きつけて、一人の美しい女性と一人のエリート騎士が駆けつけてきた。
シルヴィアとアルベルトである。
シルヴィアは、ずらりと並んだ豪華な馬車と宝石の山、そしてガタガタ震える大都市の使いたちを一瞥すると、パッとその紫紺の瞳を輝かせた。
「おや……これは一体?」
「シルヴィア! 頼むからお前も何か言ってくれ! 実家のある大都市から、なんかとんでもない額のワイロ……いや、お中元が届いたんだ! 俺をハメる気かこれ!」
ライルが必死に助けを求めると、シルヴィアは誇らしげに胸を張り、うっとりとした表情でこう言った。
「ふふ……さすがは我が君です。辺境の街を静かに治めていらっしゃるだけでなく、ついに実家のある大都市の商会や闇の勢力までもが、その圧倒的な威圧感と慈悲深さに屈し、自発的に『朝貢(お中元)』を捧げに来たのですね……!」
「どこがだよ!! 誰が闇の勢力だ!!」
「なんと素晴らしい求心力でしょうか……。王都の騎士団ですら動揺するこの規模の財宝を、一言で『返せ』と一蹴なさる。あぁ、この世のすべての富と権力が、我が君の足元にひれ伏している……!」
シルヴィアの全肯定フィルターは、もはや留まることを知らなかった。彼女は感動のあまり、胸の前で両手を組んでうっとりとライルを見つめている。
「ち、違うだろ、常識的に考えて――」
「――なるほど、そういうことか」
ライルが必死に反論しようとしたその時、横に立っていたアルベルトが、スッと眼鏡(または前髪)を整えながら深くうなずいた。
その顔には、いつもの冷徹なエリート副団長の面影はなく、完全に「悟りを開いた苦労人」の深い疲労の色が浮かんでいた。
「アルベルト? お前まで何納得してんだよ!」
「ライル殿……いや、恐れ入りました」
アルベルトは真剣な眼差しでライルを見据え、小声で囁いた。
「我が実家――シュタイン伯爵家や王都の上層部でも、『地方の大都市の商業ギルドが、謎の巨大勢力に完全掌握された』という噂は密かに流れていました。まさか、その頂点に立っていたのがあなただったとは……」
「だから違うって何回言わせる気だ!! 俺はただの一般人だぞ!」
「謙遜なさるな。大都市の商会員たちがこれほどまでに恐怖と敬意を抱き、全財産を差し出すかのように朝貢している。これは、武力による支配ではなく、経済と心理を完全に掌握した者にしかできない離れ業です。……流石は、あの団長を心酔させるだけのことはある」
アルベルトは遠い目をしながら、ポケットからお馴染みの胃薬を取り出し、慣れた手つきで一粒飲み込んだ。
「お前も胃薬飲むな! 仲間を作るな!」
「……ライル殿。私も『秘密の胃痛同盟』の端くれとして、この大都市からの朝貢品がどれほどあなたの胃に穴を空けるか、痛いほど理解できます。……よろしければ、この財宝の山をどう処理するか、一緒に頭を抱えましょう」
「なんで一緒に悩む流れになってるんだよ!! 返すんだよ、全部あの馬車に積み直して送り返すんだよ!!」
ライルが必死の形相で叫ぶ中、大都市からやってきた使いたちは、恐怖のあまり「ひっ、ライル様がさらなる高次のご命令を……! 全員、一刻も早くこの場から退散せよ……!」と勝手に勘違いし、財宝の山をそのまま残したまま、驚異的なスピードで馬車を走らせて逃げ帰ってしまった。
「あ、おい! 待て! 荷物置いてくな!!」
ライルの悲痛な叫び声は、朝の冷たい風にかき消され、辺境の街の青空高くへと虚しく吸い込まれていくのだった。
こうして、ライルの自宅の庭には、大都市からの「億万両の朝貢品(お中元)」という名の時限爆弾が、綺麗に積み上げられることになったのである。
最後までお読みいただきありがとうございます!
第27話、「大都市からの『恐怖の朝貢(お中元)』と、絶望する苦労人たちの件」いかがでしたでしょうか。
ライルの実家がある地方の大都市から送られてきたのは、まさかの「命乞いの上納品(お中元)の山」! ライルが必死に拒絶する一方で、シルヴィアは我が君の偉大さに感動し、アルベルトは胃薬を片手に「さすがです」と勝手に納得してしまうという、カオスなトリオのやり取りをお届けしました。
増えていく財宝と、減らないライルの胃痛。果たしてこの後、この山のようなお中元はどうなってしまうのか――!?
次回も、勘違いと苦労が止まらないドタバタ劇をお楽しみに!




