第26話:秘密同盟の結成と、エリート副団長の「玉砕」――あるいは、恋は盲目を体現する悲劇
勘違い過保護ラブコメ、第26話をお届けします。
前回のラストで「裏の支配者の正体がただの苦労人一般人である」と知ってしまったアルベルト。今回は、ライルとアルベルトがこっそり結ぶ「秘密の苦労人同盟(胃痛の分かち合い)」と、アルベルトが決死の覚悟でシルヴィアに挑む「玉砕の直談判コント」の欲張りセットでお送りします!
果たして、エリート副団長の理性は狂気の愛に勝てるのか――!?
それでは、第26話のスタートです!
街の片隅、誰も通らないような静かな路地裏。
王国騎士団の副団長であるアルベルト・フォン・シュタインは、青白い顔をして自分のこめかみを押さえていた。
「……つまり、ライル殿。あなたは裏社会の支配者などではなく、毎日あの最強の団長の過保護な暴走に怯えながら暮らしている、ただの一般人……いや、極限の被害者ということだな?」
「そうだ! ようやくわかってくれたか、アルベルト……!」
ライルは目の前に立つエリート騎士の肩をガッチリと掴み、涙が出そうなほど感動した声を上げた。誤解が解けた瞬間というのは、これほどまでに心地よいものか。アルベルトもまた、目の前の青年が背負っている想像を絶するプレッシャーと苦労を察し、深くうなずいた。
「すまなかった、ライル殿。私は知らずにあなたを悪党扱いしていた……。まさか、あの孤高で冷徹なシルヴィア団長の下で、これほどまでに神経をすり減らしている男がいたとは」
「いいんだ、分かってくれたなら……。なぁ、アルベルト。お前のところの胃薬って、何を使ってる? 俺のところ、最近ストックが切れそうでさ……」
「ほう、特製の胃薬か。我が騎士団には皇室御用達の『特効薬』がある。あとで分けてしんぜよう」
ここに、辺境の街の「裏社会の支配者(と勝手に誤解されている男)」と、王国騎士団の「鉄壁の副団長」による、極めてシュールな『秘密の胃痛同盟』が正式に結成された瞬間であった。二人は固い握手を交わし、互いの健闘(=生存)を祈り合ったのだった。
――だが、その平和(?)な光景を、数十メートル離れた物陰からじっと見つめる一対の紫紺の瞳があった。
(……っ!?)
シルヴィアである。彼女はフルアーマーを装備したまま柱の陰から身を乗り出し、鋭すぎる視線でライルとアルベルトの密談を凝視していた。彼女の脳内では、すでに最悪のシナリオが構築されつつあった。
(王都から来た新参の騎士が、我が君と密談を交わしている……! もしかして、我が君を裏社会の別の派閥、あるいは王都の敵対勢力に引き抜こうという、極秘のクーデターの謀議なのでは……!?)
シルヴィアのなかに、ごうごうと嫉妬と警戒の炎が燃え上がった。
(我が君を他の組織になど渡しません……! あの不穏分子の騎士、あとで徹底的に叩きのめさなければ……!)
そんな恐ろしい殺気が背後から向けられているとも知らず、アルベルトは意を決して胸を張った。
「よし、ライル殿。いつまでもこの状況を放置するわけにはいかない。私はこれから直接、団長のところへ赴き、すべての誤解を解いてくる! あなたがこれ以上、無用な疑いや恐怖に怯えなくて済むように私が話をつけよう!」
「ま、待てアルベルト! あいつに正面から挑むのは危険だ、お前の胃が死ぬぞ!」
「案ずるな、私は騎士団の副団長だ。理路整然と話せば、団長とて分かってくれるはずだ!」
アルベルトは騎士の誇りを胸に、堂々とした足取りでシルヴィアの待つ訓練場へと向かった。ライルは「あーあ、絶対返り討ちに遭うぞ……」と遠い目をしながら、その背中を見送るしかなかった。
数分後。
訓練場の中心に立つシルヴィアの前に、アルベルトはキリッとした表情で直立していた。
「――団長、お話があります」
「何ですか、アルベルト。我が君の平穏を脅かす話でなければ聞きませんが」
アルベルトは意を決し、声を大にして真実を告げた。
「目を覚ましてください、団長! あなたが『裏社会の王』『恐怖の支配者』と崇めているライル殿は、ただの一般の青年です! 組織も部下もいません! 毎日野菜を値切り、家で紅茶を飲んでいるだけの、普通の優しいお方なんです! どうかその過剰な過保護と誤解をお収めください!」
一気にまくし立てたアルベルトは、これでようやく上司の狂気が解けるだろうと、ふうっと息を吐き出した。
――しかし。
シルヴィアの表情は、アルベルトの予想とは180度違っていた。彼女はハッと目を見開いたかと思うと、むしろ感動に満ちあふれたキラキラとした瞳でアルベルトを見つめ返したのだ。
「……ふっ。さすがはアルベルト、よくぞ見抜きましたね」
「は……? え?」
アルベルトが間抜けな声を漏らすと、シルヴィアは誇らしげに胸を張った。
「あなたが今、『あの男はただの一般人だ』と叫んだこと。それこそが、我が君が敷いた『敵の目を欺くための高度な心理的カモフラージュ(偽装工作)』ではありませんか!」
「なっ……!?」
「あのお方の真の狙いは、周囲に『私たちは無害な一般人です』と油断させ、国家の裏で完璧なる平和を支配下に置くこと……! その深遠なる謀略の片鱗に気づき、あえて周囲の前で『ただの一般人だ』と叫んで見せることで、敵の裏をかく――! ああ、さすがは我が副団長、私の期待を裏切らない素晴らしい陽動作戦です!」
(――まったく違います!!!!)
アルベルトの心の叫びは、シルヴィアの全肯定フィルターによって綺麗にかき消されていた。
「だ、団長、落ち着いて聞いてくだ――」
「ふふ、もう言い訳は無用です、アルベルト。我が君の完璧なカモフラージュをこれ以上暴こうとするならば、たとえ副団長であっても、我が大剣の錆びとしてもらいましょう。……下がってなさい」
ゴゴゴゴゴ……と、シルヴィアの背後から冗談抜きで現実の闘気が立ち上る。
アルベルトは冷や汗をダラダラと流し、ガタガタと全身を震わせた。
(……ダメだ。この人に論理や正論は一切通じない……! 恋は盲目とはよく言うが、ここまで来ると病気だ……!!)
アルベルトは自分の無力さを痛感し、すごすごと後ずさるしかなかった。
騎士団の副団長としてのプライドも、冷静沈着な理性も、シルヴィアの「我が君補正フィルター」の前には木端微塵に粉砕されたのである。
その日の夕方。
街の小さなベンチで、ライルとアルベルトは再び並んで座っていた。二人の手には、なぜか同じ銘柄の胃薬が握られている。
「……どうだった、アルベルト」
「……ライル殿。あなたがこれまで、いかにしてその狂気の愛から生き延びてこられたか……今日という今日で、心の底から理解しました。明日から私も、あなたと同じ『被害者の会』の同志として生きていきます」
「ようこそ、地獄の苦労人ロードへ……」
二人の男は夕日を見つめながら、深く、深く、盛大な溜息を同時に吐き出すのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
第26話、「秘密同盟の結成と、エリート副団長の『玉砕』」いかがでしたでしょうか。
ライルとアルベルトが「胃薬」を片手に結んだ秘密の苦労人同盟と、アルベルトがシルヴィアに正論で挑むも「高度な陽動作戦」と完全ねじ曲げ解釈されて完膚なきまでに返り討ちに遭うカオスな展開をお届けしました! 笑いあり、絶望ありの男たちの友情(?)を楽しんでいただけたなら幸いです。
次回も、エリート副団長がさらに巻き込まれていくドタバタラブコメが待ち受けています!
それでは、また次回のエピソードでお会いしましょう!




