第22話:王国最強の騎士団長、我が君の「微熱(未知のウイルス)」に対し究極の要塞看病作戦を敷くが、距離感が近すぎて理性の防壁が崩壊寸前になる
勘違い過保護ラブコメ、第22話をお届けします。
前回の「町娘への笑顔をハニートラップと誤認する嫉妬回」を経て、相変わらず波乱万丈な日々を送るライルでしたが、今回はついに「軽い風邪」で寝込んでしまいます!
最強の騎士団長が本気で挑む「要塞看病作戦」の行方は――!? 笑いとキュンが詰まった密着看病回、スタートです!
「……くっ、なんだか頭が重いな。少し熱っぽいか……?」
朝、ベッドから起き上がろうとしたライル・フォン・ヴェルナーは、こめかみに走る鈍い痛みを感じて思わず眉間を押さえた。
昨夜の冷え込みがたたったのか、あるいは連日の「シルヴィアの暴走に対するツッコミ」による精神的疲労が蓄積していたのか、喉の奥がイガイガし、体が妙に気だるい。体温計を取り出して測ってみると、見事に三十八度を少し超える熱が表示されていた。
「まあ、大したことない風邪だ。今日は一日、大人しくベッドで寝ていればすぐに治るだろ……」
ライルは小さく溜息をつくと、再び毛布にくるまって目を閉じようとした。
だが、その平穏はコンマ一秒で打ち破られることとなる。
ガシャアァァン!! と、ベッドルームの頑丈な木の扉が、外側からの凄まじい衝撃によって盛大に吹き飛んだ。
「――非常事態発生です!!」
舞い散る木片の向こうに現れたのは、いつもの神銀製フルプレートアーマーを完璧に纏い、手には抜身の大剣を構えたシルヴィアであった。その紫紺の瞳は、これまでにないほどの緊迫感と恐怖の色に満ちている。
「な、なんだよいきなり……ドアを壊すなよ……」
ライルが青白い顔でベッドの上から声を絞り出すと、シルヴィアは鬼気迫る表情で床を踏み鳴らした。
「我が君! 先ほど廊下を通りかかった際、貴方の呼吸のリズムが通常よりも三拍子ほど乱れ、体温が平熱を大幅に超えているのを私の戦術レーダーがキャッチしました! 間違いありません……! これは外部の敵対勢力が送り込んだ、我が君の免疫系を直接破壊する『新型の微粒子ウイルス兵器』によるテロ攻撃です……!!」
「ただの風邪だよ!! 誰がウイルス兵器を仕込むんだよ俺の体に!」
ライルが頭を抱えて叫ぶと、シルヴィアは血相を変えて首を横に振った。
「いいえ、油断してはなりません! 敵の毒牙から我が君の尊い肉体を守るため、これより我が手による『絶対要塞看病作戦』を開始します! 一歩も部屋から出ず、私の指示に従ってください!」
言うが早いか、シルヴィアは手際よく窓を完全に塞ぎ、ベッドの周囲に特殊な魔導バリケード(予備の盾や防具)を隙間なく立て並べ、瞬く間にライルの部屋を外敵から完全に遮断された「地下要塞の医務室」へと変貌させてしまった。
(……もう勝手にしてくれ……)と、ライルは高熱の頭で白目を剥きながら毛布をかぶり直すのであった。
* * *
それから数時間後。
要塞化したベッドルームの中央で、ライルは上半身を起こし、げっそりとした顔で目の前の光景を見つめていた。
シルヴィアはいつの間にかフルアーマーの上からエプロン(ただし戦闘用強化繊維製)を装着し、手には銀製のトレイを持っている。そのトレイの上には、見事に炊き上げられた「白粥」が乗せられていた。
「我が君、栄養補給の時間です。まずはこの、特製の栄養食を口にしていただきます」
シルヴィアは緊張に満ちた面持ちでスプーンをすくい上げ、ライルの口元へと差し出した。
しかし、その手が見るからにプルプルと激しく震えている。
「おい、手がめちゃくちゃ震えてるぞ。そんなに緊張してどうすんだよ」
「き、緊張などしていません! これは、毒見を怠った場合の致命的なリスクに対する『戦闘前の緊張感』です!」
「病人に対して毒見を気にするな! 普通の白粥だろ!」
シルヴィアは決意を固めたように息を吸い込むと、「い、いきますよ……あーん、です」と、耳まで真っ赤に染め上げながらスプーンを近づけてきた。
その圧倒的な美少女が恥ずかしさに耐えながら必死に世話を焼いてくれる姿は、見ている方が気恥ずかしくなるほどにピュアで破壊力抜群であった。ライルは照れくささを誤魔化すように、素直に口を開けてお粥を飲み込んだ。
「……っ。うまいな、ちゃんと美味しく作ってある」
「ほっ……! よ、よかった……! 毒(あるいは味付けの失敗)ではなく、ちゃんと我が君の口に合ったのですね……!」
シルヴィアは胸をなでおろし、心の底から安心したようにふわりと頬を緩ませた。その普段の冷徹な騎士からは想像もつかない柔らかい笑顔に、ライルは思わずドキリと心臓を跳ねさせてしまった。
(……くっ、こういう時に不意打ちで可愛い顔をするのは反則だろ……)
しかし、ドキドキしていたのも束の間、シルヴィアの表情が再び険しく、そして別の意味で危険なものへと切り替わった。
「さて、栄養補給の次は……現在の体温と、ウイルスによる侵食度合いの正確な測定を行います」
「測定って、さっき測ったろ。普通の体温計で」
「いいえ、接触型の精密検温です。道具を挟むなどという不確実な方法では、微小な熱の揺らぎを見逃す可能性があります」
シルヴィアはそう言うと、何の躊躇いもなくライルのベッドの縁に膝をつき、ぐっと顔を近づけてきた。
「ちょ、おま、近い近い! 何をする気だ!」
「動かないでください、我が君。正確な測定には、直接の『額の接触』が最も確実な戦術データとなります……!」
言うが早いか、シルヴィアは迷いなく自分の美しい額を、ライルの熱っぽい額へとピタッと密着させた。
「――――ッ!!」
お互いの息がふわりと混ざり合うほどの、ゼロ距離。
シルヴィアの髪から漂う微かな花の香りと、至近距離で見つめ合う紫紺の瞳の美しさに、ライルの思考は一瞬でフリーズした。熱のせいもあってか、顔の温度が急激に跳ね上がるのが自分でも分かった。
一方のシルヴィアも、ライルの額から伝わる体温と、あまりにも近すぎる密着状態に気づいた瞬間、その全身の毛穴から一気に沸騰したような熱が噴き出した。
「なっ……!?」
彼女の瞳がぐるぐると大きく揺れ動き、これまでの凛とした騎士としての威厳が音を立てて崩壊していく。
「我が君のこの温もり……そしてこの至近距離……! これは、敵の心理作戦やウイルス攻撃などではありません……! 私の体温と心拍数が限界突破している……私の理性が崩壊する最大のピンチです……っ!!」
「それは俺のセリフだ!! 離れろ、熱が移るだろ!!」
ライルが真っ赤になって叫び返すと、シルヴィアは弾かれたようにガバッと後方に身を引いた。彼女の顔はトマトのように真っ赤に染まり、頭からはぷしゅーと湯気(のような熱気)が立ち上っている。
「た、ただいまの測定結果……! 熱は微熱ですが、私の心拍数は戦闘状態の三倍を記録しました! 異常事態です!」
「お前の心拍数なんて聞いてないわ! 早く落ち着け!」
二人が顔を真っ赤にして言い合っていると、外の空がすっかり夕暮れ色に染まり始めていた。
* * *
夜。要塞化した部屋のなかに、静かな闇が訪れていた。
薬の効果と先ほど食べたお粥のおかげで、ライルの熱はだいぶ下がり、呼吸も穏やかになっていた。しかし、ベッドの脇には、なぜか一歩も引かないシルヴィアの姿があった。
「あのな、シルヴィア。俺の熱はもう下がったんだから、お前も自分の部屋に戻って休めよ」
ライルが毛布の中から疲れた声で言うと、シルヴィアはフルアーマーのままベッドの端にピタッと張り付いて首を横に振った。
「いいえ。夜陰に乗じたウイルスの反撃や、外部からの暗殺者の侵入に備えるため、今夜はここで『完全不寝番の添い寝警護』を遂行します」
「添い寝って言いたいだけだろ……それに、そんな重装備でベッドの端に張り付いてたら、お前自身が疲れるだろ」
「疲労など微塵もありません。……ただ、少しだけ、我が君の傍に……いえ、我が君の安全を確保するために、ここにいる必要があるのです」
シルヴィアはそう言うと、不器用ながらもライルの毛布の端をそっと整え、じっとその寝顔を見守り始めた。その真剣で一途な眼差しには、先ほどまでの戦闘モードとは違う、深い愛情と優しさが満ちていた。
(……やれやれ。まったく、手のかかる最強の騎士様だな……)
ライルは苦笑を浮かべつつも、心地よい安心感に包まれながら、ふっと力を抜いた。
「……すまないな、付き合わせて」
「……いいえ。我が君の平穏を守るのが、私の使命ですから」
外の世界では相変わらず「裏社会の支配者」と誤解されている不憫な次男だが、この静かな要塞の部屋の中では、最高に過保護で少しズレた、しかし最高に愛おしい騎士との甘い夜がふけていくのだった。
――最強の騎士団長の過剰すぎる看病作戦は、今日も今日とて、ライルの風邪を吹っ飛ばし、二人だけの距離をさらに縮めていくのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
第22話、「王国最強の騎士団長、我が君の『微熱(未知のウイルス)』に対し究極の要塞看病作戦を敷くが、距離感が近すぎて理性の防壁が崩壊寸前になる」いかがでしたでしょうか。
ライルが風邪で寝込んだことで、シルヴィアの過保護と看病モードがフル稼働する甘酸っぱい密着回をお届けしました! 震える手での毒見や、額合わせでのパニックなど、ニヤニヤしていただけましたら幸いです。
次回も、予測不能な勘違いとクスッと笑えるドタバタラブコメが待ち受けています!
それでは、また次回のエピソードでお会いしましょう!




