第21話:王国最強の騎士団長、町娘への「お礼の笑顔」を国家転覆級の色仕掛けと誤認し、嫉妬の要塞包囲網を敷く
勘違い過保護ラブコメ、第21話をお届けします。
前回の通信越しの「被害者アピール合戦」を経て、相変わらず不憫な日常を送るライル。しかし今回は、平和なマーケットでの「些細な親切」が、シルヴィアの嫉妬心を限界突破させる導火線に……!?
王国最強の騎士団長が見せる、斜め上の嫉妬と過保護の大爆発回です!
それでは、第21話のスタートです!
「ほら、これ。落とした財布だぞ。中身は減ってないか確認してくれ」
午後の陽射しが穏やかに差し込む辺境の街のマーケット通り。
ライル・フォン・ヴェルナーは、露店の近くでうっかり小銭入れを落として困っていた見知らぬ町娘の女性に声をかけ、それを拾って手渡していた。
町娘の女性は、ホッとしたような顔で受け取ると、満面の笑みを浮かべて深く頭を下げた。
「わぁ……! 本当にありがとうございます! 助かりました、お兄さんって本当に親切なんですね!」
「いや、落とし物はすぐに衛兵か持ち主に届けるのが基本だ。気を付けろよ」
ライルが爽やかに笑い返してその場を後にしようとした、その瞬間――。
ズズズズズ……ッ!! と、周囲の空気が一瞬で凍りつくような、凄まじい殺気と重圧が辺りに満ち満ちた。
(……ん? なんだこの背筋が凍るような冷気は……?)
ライルがピクリと体をこわばらせて振り返ると、そこから少し離れた路地の陰に、いつもの神銀製フルプレートアーマーを完璧に纏い、背中に国家予算級の大剣を背負ったシルヴィアが仁王立ちしていた。
彼女の紫紺の瞳は、まるで獲物を狙う猛獣のように恐ろしく細められており、その全身からメラメラと視覚化できるほどの黒い闘気(あるいは嫉妬の炎)が噴き上がっている。
(やばい……! なぜか分からないが、今の俺はシルヴィアの「怒りの逆鱗」を真っ向から踏み抜いてしまった気がする……!)
ライルは冷や汗をダラダラと流しながら、慌てて何事もなかったかのようにその場を立ち去り、足早に自宅へと逃げ帰ったのだった。
* * *
その日の夜。ライルの自宅のリビング。
夕食のスープを静かに啜っていたライルの向かい側に、シルヴィアが座っていた。
彼女は夕方から一言も喋らず、ただじっと漆黒のテーブルクロスとナイフを見つめ続けている。その異様なまでの沈黙が、逆にライルの精神をじわじわと削り取っていた。
「な、なぁシルヴィア……。ずっと黙ってどうしたんだよ。今日のスープの味付けが薄かったか?」
ライルがおそるおそる声をかけると、シルヴィアはガチャン、と音を立ててフォークを皿に置いた。
彼女はゆっくりと顔を上げ、その目が据わったマジなトーンでライルに問いかけた。
「……ライル殿。昼下がり、マーケットの露店付近での一幕について、私に説明していただく必要がありそうです」
「昼下がり……? あぁ、財布を落とした女の子を助けたやつのことか?」
「女の子、ですか……。貴方にとっては『ただの通りすがりの若い雌猫』に過ぎないかもしれませんが、私にとっては看過できない重大な国家安全保障上の脅威です」
「猫って言うな! ただの一般人の町娘だろ!」
シルヴィアは椅子から立ち上がり、カチャカチャと重厚な金属音を響かせながらライルへとじりじりと歩み寄ってきた。そして、ライルの座る椅子の背もたれに両手をドンと突き出し、至近距離からその顔を覗き込んだ。
「あの女の卑劣な手口……! 困ったふりをして貴方に近づき、財布をわざと落として関心を引く。そして、あの潤んだ瞳とあざとい笑顔で見つめ、『ありがとうございます』と甘ったれた感謝の言葉を囁く……! あれは紛れもなく、我が君の心を骨抜きにするための『高度な国家転覆級の色仕掛け(ハニートラップ)』です!!」
「どこがハニートラップだ!! 単なる善意の落とし物拾いだわ!! 頭の中がどうやったらそんなスパイ物の悪役みたいな思考回路になるんだよ!!」
ライルが必死に叫ぶも、シルヴィアの脳内フィルターはすでに完全に暴走しきっていた。彼女の紫紺の瞳には、怒りと切なさが入り混じった激しい感情が渦巻いている。
「我が君を狙う不穏な雌猫の影……それを野放しにしておけば、いつか我が君が別の女の甘い言葉に毒され、私の元から去ってしまうかもしれない……! そんな未来、絶対に私の大剣が許しません!」
「去らねばいいだろ! つーか、俺はどこにも行かない!」
「本当ですか……?」
シルヴィアはさらに顔を近づけ、潤んだ瞳でライルを見つめた。その圧倒的な美貌と迫力に、ライルは思わずたじろぎ、冷や汗を拭いながら後方に身体を反らせた。
「そ、本当だ! だからそんな物騒な目をするな! 次に見かけたら大剣で足元を威圧するって、お前、それ完全に街の治安を脅かすヤバい犯罪者のセリフだからな!」
「犯罪者ではありません! 我が君を守るための『予防的防衛措置』です!」
「措置の規模がデカすぎるんだよ!!」
ライルが頭を抱えて机に突っ伏すと、シルヴィアは少しだけ満足したようにふぅと息をつき、しかしすぐにキリッとした表情に戻って胸を張った。
「ですが、我が君。今回の件で痛感しました。我が君の周囲には、いつ何時、そのような虫(不審者)が寄ってくるか分かりません。……したがって、明日からの外出には、さらなる厳戒態勢を敷く必要があります」
「これ以上何を敷くんだよ……」
「まずは、我が君の半径五メートル以内に侵入する全ての雌性生物を自動で排除する『常時展開型・絶対防衛エリア』の構築から始めましょう」
「やめろ! それじゃあ近所の八百屋のおばちゃんも近寄れなくなるだろ!! 普通に買い物させてくれ!!」
ライルの悲痛な絶叫は夜のリビングに虚しく響き渡り、シルヴィアの「過剰すぎる嫉妬と愛の防衛作戦」は、明日からもさらにエスカレートしていくのだった。
――最強の騎士団長の嫉妬レーダーは、街のちょっとした「親切な笑顔」さをも一網打尽にし、今日も今日とてライルの平穏を完全制圧していくのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
第21話、「王国最強の騎士団長、町娘への『お礼の笑顔』を国家転覆級の色仕掛けと誤認し、嫉妬の要塞包囲網を敷く」いかがでしたでしょうか。
街で見知らぬ町娘に親切にしただけで、シルヴィアの嫉妬レーダーと過剰防衛本能が盛大に爆発してしまう、ニヤニヤと爆笑必至の嫉妬回をお届けしました! ハニートラップだと本気で勘違いして詰め寄るシルヴィアと、必死にツッコミを入れるライルの掛け合いを楽しんでいただけたなら幸いです。
次回も、予測不能な勘違いとクスッと笑えるドタバタが待ち受けています!
それでは、また次回のエピソードでお会いしましょう!




