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第17話:王国最強の騎士団長、牧場の動物たちを変装した暗殺部隊と勘違いして激突する

勘違い過保護ラブコメ、第17話をお届けします。

前回の「ギルド窓口の取調室化事件」で完全に精神をすり減らしたライル。今回こそは本物の「癒やし」を求めて、平和な動物ふれあい牧場へと足を運びます。しかし、シルヴィアの過保護レーダーの前に「平和なモフモフ」など存在するはずもなく……!?

最強の騎士団長とアルパカの、絶対に負けられない戦い(?)が今、幕を開けます!

それでは、第17話のスタートです!

「……はぁ。偽者騒動だの、ギルドでの取り調べ騒動だの、最近は本当に心が休まる暇がなかったからな。今日こそは……今日こそは、ただただ純粋にモフモフした動物たちを眺めて、心の底から癒やされるんだ……!」

雲一つない見事な青空の下。

辺境の街の郊外にある「グリーンヒルふれあい牧場」の入り口で、ライル・フォン・ヴェルナーは大きく背伸びをして、爽やかな牧草の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

広大な敷地には、のんびりと草を食む羊たちや、元気に走り回る小動物たちの姿が見える。家族連れやカップルが楽しそうに笑い合うその光景は、まさにライルが求めていた「スローライフ」の象徴であった。

「さぁ、行くぞ! 今日は一切のトラブルなしだ!」

ライルが意気揚々と一歩を踏み出そうとした、その時。

ガシャァァァン……! と、のどかな牧場にはおよそ似つかわしくない、重厚な金属音が鳴り響いた。

「周囲のクリアリング完了しました、ライル殿。現在、半径五百メートル以内に明確な敵性反応はありませんが……油断は禁物です」

ライルの背後には、いつものように神銀ミスリル製のフルプレートアーマーを完璧に纏い、背中には国家予算級の大剣を背負った王国最強の騎士団長、シルヴィア・フォン・ローゼンブルクが仁王立ちしていた。

彼女の紫紺の瞳は、周囲の家族連れや売店のスタッフ、果ては遠くで飛んでいる小鳥にまで鋭い警戒の視線を向けている。

「……なぁシルヴィア。なんでふれあい牧場に来るのに、完全武装の野戦装備なんだ? 周りの子供たちが怯えて泣きそうになってるだろ」

「何を仰いますか。このような『見晴らしが良く、不特定多数の生物が入り乱れる空間』は、狙撃や奇襲に最も適したデッドゾーンです。我が君の安全を守るため、私は一瞬たりとも気を抜くわけにはまいりません!」

「ここはただの牧場だ! 暗殺者なんていないし、いるのは草食動物だけだ! 頼むから今日は剣を抜くなよ、絶対に抜くなよ!?」

ライルは念を押すように指を突きつけ、シルヴィアから渋々「善処します」という言質を取ると、気を取り直して牧場の奥へと進んでいった。

最初に訪れたのは、モコモコの毛並みが愛らしい「ウールシープ(羊)」たちの放牧エリアだった。

「おおっ、可愛いな! 見ろよシルヴィア、あの丸っこいフォルム。これぞ癒やし……」

ライルが柵越しに羊の頭を撫でようと手を伸ばした瞬間、シルヴィアがものすごいスピードで割り込んできた。

「お待ちください我が君!! 触れてはなりません!!」

「うわっ!? な、なんだよ急に!」

「あの不自然に膨れ上がった体毛……間違いない、あの毛皮の下に『小型の魔力爆弾』を大量に隠し持った、自爆特攻型の暗殺部隊です! 我が君を巻き添えにする気です!」

「ただの毛の量が多い羊だよ!! 冬に向けて蓄えてるだけだろ! 爆弾なんて仕込まれてないから!」

ライルの必死のツッコミも虚しく、シルヴィアがギロッと凄まじい殺気を放つと、羊たちは「メェェェッ!?」とパニックを起こし、一目散に牧場の奥へと逃げ去ってしまった。

「……俺の癒やしが……」

気を取り直して次に訪れたのは、「フォレスト・モンキー(猿)」が遊ぶアスレチックエリア。

「今度こそ……おっ、小猿が親猿の背中に乗ってて微笑ましいな」

「……我が君、騙されてはなりません。あの素早い身のこなし、そして高い場所からこちらを見下ろすあの不敵な笑み……。奴らは間違いなく、樹上から毒矢を放つゲリラ戦のプロフェッショナルです。私が先制攻撃で森ごと焼き払います!」

「ただ毛づくろいしてるだけだろ! 森を焼くな! 放火魔になる気か!!」

ライルが必死にシルヴィアの腕にすがりついて止めていると、猿たちはキーキーと騒ぎながら木の上へと姿を消していった。

ライルは胃のあたりを抑えながら、早くもこの休日の先行きに絶望しかけていた。

「……もういい、次が最後だ。あそこにいる『ハイランド・アルパカ』を見て帰るぞ。あいつらは本当に大人しいから、絶対に何もしないからな」

ライルが指差した先には、長い首とモフモフの体、そして何を考えているのか全く読み取れない「無」の表情をした数頭のアルパカたちが、のんびりと柵越しに牧草をモシャモシャと咀嚼していた。

「……アルパカ、ですか」

シルヴィアは目を細め、ゆっくりとアルパカの群れに近づいていった。

「ほら、見てみろよ。この間の抜けた顔。絶対に暗殺者なんかじゃないだろ?」

ライルが安堵の息を吐きながら言ったが、シルヴィアの反応は違った。彼女の表情はこれまでにないほど険しく、額には一筋の冷や汗すら浮かんでいた。

「……っ、なんというプレッシャー……! これまでの羊や猿とは次元が違います、ライル殿……!」

「は? なにが?」

「あの目を見てください。一切の感情を読み取らせない、あの底知れぬ冷徹な瞳。そして、私がこれだけの殺気を放っているというのに、微動だにせず草を食み続けるあの異常な胆力……! 間違いありません、奴は数々の修羅場を潜り抜けてきた、暗殺ギルドの最高幹部クラスです!!」

「考えすぎだ!! ただぼーっとしてるだけだよ!! 可愛らしいでしょ!!」

ライルのツッコミを完全に無視し、シルヴィアはアルパカの正面にピタリと立ち止まった。

アルパカはモシャモシャと口を動かしながら、無表情のままシルヴィアの銀色の鎧を見つめ返している。

「……貴様の正体は暴いています。それ以上、我が君に近づくというのなら、この私、シルヴィア・フォン・ローゼンブルクが相手になります。さぁ、真の姿を現しなさい!!」

ゴゴゴゴゴ……!! と、シルヴィアの全身から、物理的な圧力を伴うほどの凄まじい神銀の魔力と殺気が立ち上った。周囲の空気がビリビリと震え、牧場の草木がざわめく。

本来であれば、どんな屈強な魔獣であっても、この殺気を浴びれば恐怖で泡を吹いて倒れるレベルの威圧である。

しかし、相手はアルパカだった。

アルパカは、目の前でやたらとピカピカ光ってうるさい人間シルヴィアをじっと見つめ、少しだけ煩わしそうに口の動きを止めた。

そして。

「――ペェッ!!」

アルパカの口から、凄まじい勢いで「緑色の未消化の草が混じった強烈なツバ」が発射された。

べちゃっ。

そのツバは、シルヴィアが誇るピカピカの神銀製アーマーの胸元(および顔のすぐ横)に、見事な弾道を描いて命中した。

「…………え?」

シルヴィアの動きが、完全に、永遠に停止した。

静寂が牧場を包み込む。

アルパカは「ふんっ」とばかりに首を逸らし、再び何事もなかったかのように草をモシャモシャと咀嚼し始めた。

数秒後。

現実を理解したシルヴィアの目が、極限まで見開かれた。

「なっ……なんという高度な無詠唱魔法……!? い、いや、これは酸性の生物兵器バイオウェポンによる直接攻撃――ッ!!? 我が君、下がってください!! 奴は極めて危険な猛毒を吐き出しました!! 今すぐここで処刑します!!」

シャキン!! と、ついにシルヴィアの背中から国家予算級の大剣が抜かれ、白銀の刃が太陽の光を反射してギラリと輝いた。

「やめろぉぉぉぉぉっ!!!」

ライルは今日一番の大絶叫を上げながら、全速力でシルヴィアの腰にタックルをかました。

「ただのツバだ!! アルパカは威嚇でツバを吐く生き物なんだよ!! 猛毒じゃないし生物兵器でもない!! ふれあい牧場で聖剣を抜くなぁぁぁ!!」

「離してください我が君!! 奴は私の防壁を容易く貫通しました! 生かしておけば王国が滅びます!!」

「滅びねぇよ!! お前が今ここで剣を振り下ろしたら、俺の社会的なスローライフが完全に滅びるんだよ!! 頼むから剣をしまえ!!」

ライルが必死にシルヴィアのフルアーマーにしがみついて引きずり倒そうとする中、アルパカは全く意に介する様子もなく、「なんだこいつら」というような顔でひたすら草を食べ続けていた。

遠くからその異常な光景を見ていた牧場のスタッフが、「あ、あのお客さんたち、アルパカ相手に真剣勝負を挑んでる……?」とドン引きしていることにも気づかず、ライルの悲痛な説得は延々と続くのであった。

 * * *

それから数十分後。

牧場の入り口のベンチで、ライルは魂がすっかり抜け落ちたような虚ろな顔で天を仰いでいた。

その隣では、胸元の汚れを綺麗に拭き取ったシルヴィアが、未だにアルパカのエリアを睨みつけながら警戒を解いていなかった。

「……はぁ。まさか動物園に来て、動物に土下座寸前まで謝り倒すことになるとは思わなかった……。もう二度と、お前とふれあい牧場には来ない……」

ライルが小声で呟くと、シルヴィアはキリッとした表情で頷いた。

「賢明なご判断です、ライル殿。あのような凶悪な暗殺獣が放し飼いにされている危険地帯に、我が君を近づけるわけにはいきません。次回は、私が事前に全エリアを制圧してからお呼びします」

「制圧するな!! ていうかもう来ないから!!」

今日も今日とて、不憫な次男の絶叫は、平和な辺境の空へと虚しく響き渡っていくのだった。

――最強の騎士団長の過保護な防衛本能は、今日も今日とて、アルパカという名の新たな強敵(?)を認定し、愛する我が君の休日の平穏を粉砕していく。

最後までお読みいただきありがとうございます!

第17話、「王国最強の騎士団長、牧場の動物たちを変装した暗殺部隊と勘違いして激突する」いかがでしたでしょうか。

のんびりとしたふれあい牧場で癒やしを求めたライルでしたが、シルヴィアの目には可愛い動物たちが全て「凄腕の暗殺者」に見えてしまうという、最高にシュールなドタバタ回をお届けしました。アルパカのツバ攻撃(物理)に対してマジギレする最強の騎士団長と、必死に止めるライルの温度差を楽しんでいただけたなら幸いです。

次回も、予測不能な勘違いとクスッと笑えるパニックが待ち受けています!

それでは、また次回のエピソードでお会いしましょう!

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