第12話:王国最強の騎士団長、ただの安物指輪を「永遠の愛の聖遺物」と勘違いする
勘違い過保護ラブコメ、第12話をお届けします。
前回のパン屋での「恐怖の接客テロ」を何とか生き延びたライル。今回は、ほんの小さな気まぐれが引き起こす、ピュアで甘酸っぱく、そして最高に恥ずかしい「勘違いプレゼント・すれ違い回」です! 露店の鉄貨1枚(十円程度)のオモチャが、最強の騎士団長の心をどう狂わせるのか!? そしていつの間にか侵入経路がアップデートされている恐怖の同居事情もお見逃しなく!
それでは、第12話の幕開けです!
「……いやぁ、あのパン屋の一件以来、どうも街の人々の視線が少し痛い気がするな……」
辺境の街の青空市場。
ライル・フォン・ヴェルナーは、落ち着いたブラウン髪を軽く掻き上げながら、遠い目をしてポツリと呟いた。
前回のアルバイト体験で、シルヴィアが全プレートアーマーの上にフリルエプロンを装着し、お客さんを片端から恐怖のどん底に叩き落として以来、街の住人たちはライルを見るとそっと道を譲るようになっていた。完全に不審者を見る目を向けられていることに気づいたライルは、「今日は気分転換に、ただの雑貨でも冷やかして歩こう」と、一人で露店が並ぶ一角へと足を向けていたのだ。
色とりどのガラス細工や、使い古された食器、子ども向けのおもちゃなどが雑多に並ぶ露店の前で、ライルはふと足を止めた。
「おっ、これ……懐かしいな」
手にとったのは、露店の隅の木箱に無造作に入れられていた、子ども用の安っぽいおもちゃの指輪だった。
ガラス玉で作られた青い飾りがポツンとついているだけで、どう見ても鉄貨1枚(十円か二十円程度)で買えるような代物である。しかし、幼い頃に祭りの屋台で買ったおもちゃの記憶がふと蘇ったライルは、「へぇ、まだこういうの売ってるんだな」と、それを何気なく指先でくるくると回し、すぐに元の木箱へとポトリと戻した。
「どうかしましたか、ライル殿?」
いつもの神銀製フルプレートアーマーを纏い、背中に国家予算級の大剣を背負ったシルヴィアが、ライルの背後にピタリと密着しながら、真剣な目でそう尋ねてきた。
「いや、昔の子供の頃を思い出してな。こんなガラクタみたいな指輪、今時流行らないだろって思ってさ」
ライルが苦笑いしながら肩をすくめると、シルヴィアはふっと動きを止め、その露店の木箱の中に転がっている「青いガラス玉の安物リング」を、まるで国家機密の古文書でも見るかのような、底抜けに真剣かつ熱を帯びた瞳でじっと凝視した。
(……ふむ。我が君が、数ある露店の中からわざわざその品に目を留め、自らの指先で愛おしそうに触れ、そして……)
シルヴィアの脳内で、凄まじい勢いで思考の歯車が回転し始めた。
(これは偶然などではない。我が君は、言葉には出さないものの、私に対して何らかの『重大なメッセージ』を送ろうとしていたのだ……! あのおもちゃに見える指輪こそ、二人の隠された絆を繋ぐ、あるいは未来の誓いを交為するための『極秘の契約の証』に違いありません……!)
もちろん、ライルはそんなシルヴィアの脳内の大パニックなど露知らず、「さて、行くか」と何食わぬ顔で歩き出してしまった。
「お、おいシルヴィア、ぼーっとするな。行くぞ」
「はっ! ……しかと、胸に刻みました!」
この時のライルの何気ない一挙手一投足が、のちに彼の羞恥心を限界突破させることになるとは、この時はまだ知る由もなかったのである。
* * *
それから数日後のこと。
ライルの自宅のリビング。
「……というか、うちの玄関の鍵、ちゃんと閉めたはずなのに、なんでお前が今朝も普通にリビングでお茶を淹れてスタンバイしてるんだよ……」
ライルがテーブルの上で書類を整理しながら、目の前で湯気が立つカップを差し出そうとしてくるシルヴィアをジト目で凝視した。
「あぁ、鍵の件でしたらご安心ください。我が君の安全を守るため、防犯上の観点から合鍵を極秘裏に複製させていただきました。もちろん、鍵穴の型を取る作業は国家機密レベルの厳戒態勢で行いましたので、大家殿にも誰にも気づかれていません」
「勝手に合鍵を作るな!! 空き巣と同じ手口だろそれ!! ここは俺の家だぞ!」
いつの間にか完璧な防犯をすり抜けて侵入し、我が物顔で居候している最強の騎士団長に盛大にツッコミを入れた後、ライルは気を取り直して書類に向き直った。
しかし、なぜか今日のシルヴィアは、いつも以上に背筋がピンと伸び、どこか誇らしげで、しかし顔をほんのりと赤く染めてソワソワしているように見えた。
「おい、シルヴィア? なんか今日、妙に落ち着かないように見えるけど、どうかしたのか?」
ライルが首を傾げると、シルヴィアはビクッと身体を震わせ、しかしすぐに意を決したような顔で、自分の右手の手甲をスルスルと外し始めた。
「なっ……!? いきなり鎧を脱ぐなよ! 家の中とはいえ、そんな無防備に――」
ライルが慌てて止めようとしたが、シルヴィアは静かに首を横に振った。
「いいえ、ライル殿。これよりお見せするのは、私の肉体ではなく、私の『魂の誓い』の具現化です」
カシャリ、と重い神銀の手甲が床に置かれた。
そこに現れたのは、頑丈な金属の手袋に覆われていた、白く美しい彼女の素肌の指先であった。
――そして、その薬指に光り輝いていたのは。
「……は?」
ライルの時が、完全に停止した。
そこに嵌められていたのは、数日前に青空市場の露店でライルが何気なく手に取り、そして木箱に戻したはずの、あの「鉄貨1枚(十円程度)の安物・青いガラス玉の子ども用リング」に他ならなかったからだ。
サイズが合わなかったのか、シルヴィアは自分の指に合わせるために、指輪の輪っかの部分を無理やり自身の怪力(あるいは魔力)で調整したのか、少し歪みながらも、しっかりと彼女の指の特等席に収まっていた。
「ちょっ……まっ……! なんでお前がそれをつけてるんだよ!!」
ライルは血の気が一気に引き、頭が真っ白になりながら叫んだ。
シルヴィアは頬を赤らめ、目を潤ませながら、胸の前で両手をギュッと組み合わせてうっとりと呟いた。
「……やはり、お気づきになられましたか。数日前、あの市場の露店にて、我が君が自らの手でその指輪を選び取り、私のために用意してくださったあの日の光景を……私は一生忘れません」
「用意してねぇよ!! ただのそこらのガラクタだ! 俺が触っただけで、お前にプレゼントした覚えなんて一ミリもないぞ!!」
ライルが必死に叫ぶが、シルヴィアは「何を仰いますか」とばかりに、さらに熱のこもった瞳でそのガラス玉の指輪を見つめた。
「口では『ガラクタだ』と照れ隠しをなさいますが、あの時、我が君の瞳に宿っていた優しい光は、紛れもなく私への求愛……いいえ、世界を越えた『永遠の愛の聖遺物』の下賜に他なりませんでした!」
「どこをどう見たら鉄貨1枚(十円程度)のオモチャが聖遺物になるんだよ!! ただのガラス玉だろ! ガラス玉の塊だぞ!!」
「ガラス玉などとご謙遜を! この指輪を装着して以来、私の魔力回路はかつてないほどの共鳴を起こし、我が君の存在を全霊で守護するための加護が全身を駆け巡っております!」
「指輪の加護じゃなくて、お前のプラシーボ効果がMAXになってるだけだろ!! 外せ! 今すぐそれを外してくれ、こっちが恥ずかしさで死にそうなんだよ!!」
ライルはあまりの破壊力に顔を両手で覆い、床に崩れ落ちそうになった。
大の男が、かつて露店で適当に触った子供用の安物リングを、王国最強の騎士団長が「永遠の愛の誓いの証」と勘違いし、本気で身につけてドヤ顔をしている――これほど精神的にダメージを受ける光景が他にあるだろうか。いや、ない。
「なりませぬ! これは我が君からいただいた、私の人生において最も神聖な宝物です。たとえ世界が滅びようとも、この指輪を指から外すことは死を意味します!」
「死ぬなよ! そんな安物で死ぬな!! せめてもうちょっとマシな宝石の指輪を買ってやるから、今すぐそれを捨ててくれ!!頼むから!!」
ライルが必死に土下座せんばかりの勢いで懇願するが、シルヴィアは「お気持ちだけで十分です。この絆は誰にも引き裂けません」と、ますます決意を固めた顔で胸を張るばかりであった。
* * *
それから数日後。
街の訓練場(あるいは裏庭)。
ライルが頭を抱えながら縁側に座っていると、その目の前で、シルヴィアがもの凄い気合を入れて剣の素振りをしていた。
「たぁぁぁっ!!」
ズゴーーーッ!! と、凄まじい斬撃が放たれ、訓練場の的が見事に木端微塵に吹き飛ぶ。
その振り抜かれた右手の人差し指(サイズ調整の結果、なぜか人差し指に落ち着いた)には、相変わらずあの「青いガラス玉の安物リング」が、神銀の輝きに負けないほど(物理的に浮きながら)キラリと光っていた。
「……ふぅ」
シルヴィアは息を整えながら手元を愛おしそうに見つめ、「やはり、この聖遺物の加護のおかげで今日の剣閃は一段とキレが増していますね」と一人で満足そうにうなずいている。
その姿を遠くから眺めながら、ライルは深々と、今日一番の深い溜息を吐いた。
「はぁ……もう勝手にしてくれ……。あんな鉄貨1枚(十円程度)のオモチャが、あいつの手にかかるとマジで世界を救う聖遺物に見えちまうから不思議だ……って、いやいや何を感心してんだ俺は!!」
顔を真っ赤にして一人でツッコミを入れ続けるライルと、その指輪を世界一の宝物として大切に身につけ続ける最強の騎士団長。
今日も今日とて、二人の間には、すれ違いという名の圧倒的な爆笑と甘酸っぱさが仲良く並んで響き渡っていくのだった。
――不憫な次男の羞恥心は限界を知らず、最強の騎士団長の勘違い愛は、今日も元気に世界を要塞化していく。
後書き
最後までお読みいただきありがとうございます!
第12話、「王国最強の騎士団長、ただの安物指輪を『永遠の愛の聖遺物』と勘違いする」いかがでしたでしょうか。
勝手に合鍵を作ってリビングに居座るシルヴィアの恐怖(?)と、露店の鉄貨1枚(十円程度)のオモチャの指輪を「永遠の愛の誓いの証」と勘違いして大真面目に装備し続ける最高に恥ずかしげでピュアなすれ違い回をお届けしました! 必死に拒絶するライルと、嬉しそうに装備し続けるシルヴィアの温度差を楽しんでいただけたなら幸いです。
次回も、予測不能な勘違いとクスッと笑えるドタバタが待ち受けています!
それでは、また次回のエピソードでお会いしましょう!




