第6ラウンド:魔拳使い?ボクシングだよ
第6話:鉄壁の守護者と、魔法の射程距離
オーガの里を丸ごと「サリバン・ボクシングジム・高地トレーニング支部」に改造し、連中をロードワークに叩き出していた時のことだ。
山の麓から、キラキラと光る軍勢がやってきた。
王都から派遣されたという、精鋭の王国騎士団だ。
「魔の嶺を統べるオーガどもめ! 今日こそ貴様らの首を……。……む?」
先頭に立つのは、黄金の鎧を纏った男だ。
彼は、山の斜面を「シュッシュッ」と奇妙な呼吸音を漏らしながら、全員が上半身裸でシャドーボクシングに励むオーガの群れを見て、剣を構えたまま固まっていた。
「……何だ、あの不気味な踊りは。集団催眠か? 禁忌の呪術か!?」
「……。おい、キンキラのガキ。練習の邪魔だ。どけ」
俺はシルクハットを指で跳ね上げ、騎士団長の前に立った。
「貴様、人間か!? なぜ魔物の群れの中に……。さては、貴様がこの一帯の亜人達を操ると噂の『魔拳使い』か!」
「……。魔拳じゃねえ、ボクシングだ。お前もやるか? 見るからにガタイはいいが、ガードが甘いぞ。その盾、邪魔だろ」
「黙れ! 我が『鉄壁の守護』を侮辱するか! 喰らえ、神聖爆裂波!」
騎士団長が剣を突き出す。
剣先から放たれるのは、岩をも溶かす光の奔流。……だが、俺には分かっていた。
「魔法」ってのは、放つ瞬間に、必ず「溜め(予備動作)」がある。
俺は光が放たれるコンマ数秒前、そいつの懐に潜り込んでいた。
「……!? 消えた……どこだ!」
「ボディがガラ空きだぜ」
俺は、そいつの黄金の胸当てに、右のショート・アッパーを「添えた」。
フルパワーじゃねえ。それじゃ、こいつの心臓が止まっちまうからな。
ゴツッ。
鈍い音と共に、騎士団長は空中に三フィートほど浮き上がり、そのまま背中から地面に叩きつけられた。
鎧には、俺の拳の形に綺麗にくぼみができている。
「……。な、なんだ……今の衝撃……。魔法を放つ直前……私の魔力が逆流したような……。これが、伝説の『カウンター』……!?」
「いや、ただのインサイド・ワークだ。いいか、キンキラ。お前は守りが堅いつもりだろうが、自分の内側に潜り込まれることを想定してねえ。次に会う時までに、少しは腹筋を鍛えておけ」
俺は気絶しかけている騎士団長の兜をポンと叩き、オーガたちの練習に戻った。
「……ま、待て……! その技、いつか……いつか必ず破ってみせる……!」
騎士団長はそう言い残し、部下たちに抱えられて敗走していった。




