最終ラウンド: 世界よ、これが「ボクシング」だ
王都の城壁の上。
王国騎士団長は、地平線を埋め尽くす亜人の大軍勢を見て、震え上がっていた。
「……な、何だ、あの軍勢は!? 武器を持っていない!? ……全員が、片手を上げ、もう片手を胸に……!? なんの呪いの儀式だ!」
「団長! 先頭に……髭面の人間が一人!」
俺は城門の前に立ち、腹の底から声を張り上げた。
「おい、王都の連中! ジョン・L・サリバン様のお通りだ! 武器はいらねえ、防具も脱げ! 今日は戦争じゃねえ、『世界ヘビー級タイトルマッチ』の開催だ!」
「……何を言っている!? 構わん、斉射用意!」
降り注ぐ矢と魔法。
だが、俺の後ろに控えるオーガ軍団が、一斉に「ジャブ」を放った。
数千の拳圧が重なり合い、巨大な衝撃波となって魔法をかき消し、城門を木端微塵に粉砕する。
俺はゆっくりと、混乱する騎士団長の前に歩み寄った。
「キンキラ、また会ったな?少しは腹筋をつけたのか?え?」
「……。この前の私とは違うぞ!化け物め、これでも喰らえ!」
騎士団長が放つ、王家に伝わる究極の爆裂魔法。
俺はそれを、左の手のひらで「パリング」して受け流し、右の一撃をそいつの鼻先に突きつけた。
……寸止めだ。
キンキラのガキが腰を抜かして尻餅をついた。
「……え?」
「ボクシングにゃ、殺し合いは必要ねえ。倒れた奴を殴らねえ。それがルールだ」
俺は騎士団長の肩を叩き、気絶して腰を抜かしたそいつを横目に、王城のバルコニーへと向かった。
数年後
王都の広場には、巨大なリングが設置されていた。
そこでは、オークの戦士と人間の騎士が、グローブをはめて熱い殴り合いを繰り広げている。
観衆は叫ぶ。「アイのムチだ!」「右を入れろ!」
魔法の呪文よりも、ボクシングの用語が飛び交う世界。
俺は、王都の片隅の酒場で、一番高い酒を煽っていた。
店の外では、子供たちが元気に「ベアナックル・ポーズ」で挨拶を交わしている。
「…まぁ、ボクシングが広まったんだ。細かい解釈が多少ズレてても……いいか」
俺は空になったグラスを置き、「まだ見ぬリング」を求めて、ふらりと店を出た。
夕日に伸びる俺の影
その影は、異世界の伝説の中で、どの王の像よりも高く、そして拳を固く握りしめていた。
(完)




