第4ラウンド:インファイトってのは勇敢な奴にしか務まらねぇ
エルフのリンドに無理やり肉を食わせ、ガリガリの体に「芯」を通したところで、俺は次なる地、ドワーフの鉄鋼都市へと足を踏み入れた。
「……おい、なんだ。この里は全員、横に広いな」
見渡す限り、岩のような胸板と、地面に届きそうな長い髭。
ドワーフ。こいつらなら、ヘビー級のパワーはある。だが……
「リーチ(腕の長さ)が、俺の半分もねえじゃねえか」
俺はため息をついた。
ボクシングは距離のスポーツだ。これじゃジャブを打つ前に、俺の腹に潜り込まれちまう。
「おい、人間! 何をブツブツ言ってやがる! ここは職人の街だ。用がねえなら、そのヒョロ長い腕を畳んでけえれ!」
一人のドワーフが、巨大なハンマーを振り回して威嚇してきた。
身長は俺の腰ほどだが、前腕の太さは俺の太ももくらいある。
「ハンマーか。お前、その道具がねえと何もできねえのか?」
「なんだと!? この『大地の槌』をバカにするか! 喰らえッ!」
ドワーフが猛然と突進し、ハンマーを振り下ろす。
俺は一歩も引かねえ。
その代わり、相手の懐に自分から飛び込んだ。
「……!? 消えた……!?」
「消えてねえ。……ここだ」
ドワーフの顎の真下。
ハンマーの柄の内側に、俺は潜り込んでいた。
ドワーフの短い腕じゃ、この至近距離では何もできねえ。
俺はそいつの太い腹を、軽く左のフックを「置いた」。
「グハッ……!?」
「いいか、チビ。お前みたいな短足短腕には、それ相応の戦い方があるんだよ。……『インファイト』。聞いたことねえだろ?」
俺はそいつの首根っこを掴んで立たせた。
ドワーフは目を白黒させている。
「な、なんだ……今の動きは……。一瞬で懐に入り、逃げ場を塞ぐ……。これこそ、伝説の『転移魔法か!」
「いや、ただのステップだ。お前らドワーフは、その太い足と低い重心がある。……いいか、ハンマーを捨てろ。拳を握って、相手の懐でひたすら潜って打て。酒樽の中にいるつもりでな」
俺がそう言った瞬間、周りにいたドワーフたちが、一斉に金槌を投げ捨てた。
ガランガランと、高価な魔導武器が地面に転がる。
「おい、お前ら、何やってんだ?」
「師匠! 気づきました! 我らドワーフが武器を打っていたのは、この『拳』を鍛えるための準備運動だったのですね!」
「たぶん…そうだ! この短い腕こそ、超至近距離で相手の臓物を粉砕するための、最強の武器……!」
ドワーフたちは、狭い酒場で肩を寄せ合い、お互いの腹を叩き合う「ボディ打ち」の修行を開始した。
ドスッ、ドスッという重い音が響くたび、床が揺れる。
「……まぁ、威力は十分だし、いいか」
俺はドワーフ特製の、度数90パーセントはありそうな火酒を呷った。
喉が焼ける。だが、悪くねえ。
「師匠! これで俺たちも、あの『ヘビー級』になれますか!?」
「……ああ、お前らは今日から『ドワーフ級』
だ。…よし、次はもっとこう、さらにデカい……壁みたいな奴を探しに行くか」
俺の視線の先には、雲を突き抜けるような巨大な山脈。
そこに住むという「オーガ」たちの影が見えた気がした。
ジョン・L・サリバンの異世界階級制覇。
いよいよ、怪物(ヘビー級)どもの領域へ。




