第3ラウンド:野菜にゃ肉を食わせろ
村の若者たちが「アイのムチ」で次々と農作業を爆速化させていた頃、隣町から「野菜」がやってきた。
「……貴様か。この村で不穏な暗殺術を広めているという野蛮な男は」
現れたのは、耳の尖った、線の細い男だ。
エルフ。この世界じゃ「精霊の使い」だか何だかで、魔法と弓の名手として恐れられている種族らしい。
だが、俺の目はそいつの耳じゃなく、その『細っせえ手足』に釘付けになった。
「おい、お前。最後に肉を食ったのはいつだ?」
「なっ…!? 私はエルフの誇り高き魔弓術師、リンドだ。肉などという野蛮なものは口にせん!」
「話にならねえ。お前、体重は何ポンドだ?」
「110ポンド(約50kg)ほどだが、それが……」
俺は思わず天を仰いだ。
110ポンド。ボクシングで言えば、ストロー級かフライ級だ。俺の半分もねえ。
「ふざけるな! 俺はヘビー級だぞ! 階級差が4つも5つもある相手と戦えるか! 命が惜しくねえのか!」
「……!? なにを訳の分からぬことを……! 行くぞ、受けてみよ!我が精霊の矢……!」
リンドが優雅な動作で弓を引き絞る。
だが、俺にはそれが、スローモーションのダンスにしか見えねえ。
俺は歩いた。
ただ、真っ直ぐに。
「死ねッ!」
放たれた魔法の矢が、俺の顔面を目掛けて飛んでくる。
俺は首をわずかに傾け、それをかわした。……いや、かわしたんじゃない。飛んできた矢の「側面」を、左のジャブで軽く叩き落とした(パリングだ)
「なっ……!? 魔法を、素手で弾いた……!?」
「いいか、エルフ。お前は足が速い。身のこなしも悪くねえ。だが、圧倒的に『重み』が足りねえんだよ」
俺は一瞬で間を詰め、そいつの鼻先に拳を止めた。
風圧だけで、エルフの髪が激しくなびく。
「ひっ……」
「お前みたいなガリガリを殴ったら、俺の拳が汚れちまう。……おい、お前ら! このエルフを捕まえろ!」
俺が叫ぶと、例の「アイのムチ」を習得した村人たちが、一斉にベアナックル・ポーズでエルフを取り囲んだ。
「師匠! こいつはどうしますか! 処刑ですか!?」
「バカ言え。……今日からこの「野菜」は、俺の『ジュニア・フライ級』の特別候補生だ。まずはこいつに、肉を10キロ食わせろ。プロテイン代わりだ!」
「な、何を……やめろ! 放せ! 私は菜食主義だぞー!」
エルフの悲鳴が村に響くが、俺の耳には届かねえ。
俺は決めたんだ。この世界にボクシングを広めるなら、まずは全階級のチャンピオンを揃えなきゃならねえ。
「よし。次は、もっと横幅のある奴を探しに行くか。ドワーフとか言う奴らなら、クルーザー級くらいにはなるだろ」
俺はエルフが落とした弓を拾い上げ、ポイと捨てた。
道具に頼るな。その細い腕に筋肉を宿せ。
ジョン・L・サリバンの異世界巡業は、まだ始まったばかりだ。




