表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

第13話 散歩だ

 ゴルダが来たのは昼過ぎだった。


 いつものように露天の帰り道を装っていたが、目が違った。私が表に出るとすぐに近づいてきて、声を落とした。


「魔王様。シェイドが動いています」


 私は黙って続きを待った。


「今朝、村の者に伝言を頼んだようです。アレン殿宛てに——難民の子供が森で迷子になっている、と」


「嘘か」


「私が確認しました。そんな子供はいません」


 風が来た。ゴルダの前掛けが揺れた。


「それだけではありません。私宛てにも、シェイドから伝言が来ています」


 ゴルダが懐から紙を出した。私はそれを受け取った。


 短い文だった。


 ——今なら殺せます。来ますか?


 私は紙を折った。ゴルダを見た。ゴルダの目が揺れていた。泣きそうな顔だったが、泣かなかった。


「魔王様、私も——」


「ここにいろ」


「しかし——」


「ここにいろ、ゴルダ」


 ゴルダが口を閉じた。私は紙を握ったまま、歩き始めた。



 森の入り口まで来たとき、アレンの足跡があった。


 土が柔らかい場所で、大きな靴底の跡が続いていた。私の足では追いつかないかもしれない。走った。幼女の足で走るのは、効率が悪かった。それでも走った。


 廃屋が見えてきた。


 かつて炭焼きが使っていたらしい小屋で、屋根が半分落ちていた。アレンがその前に立っていた。まだ中に入っていなかった。何かを確認するように、小屋の周囲を見ていた。


 罠に気づいているのかもしれなかった。気づいていないのかもしれなかった。


 私はアレンの前に出た。


 アレンが振り返った。


 私はアレンの前に立ったまま、動かなかった。剣があるわけではなかった。魔力が使えるわけでもなかった。ただ立っていた。幼女が、元勇者の前に立っていた。


(私は今、何をしようとしている)


 考えた。本気で考えた。


(復讐か)


 1200年分の怒りが、あった。確かにあった。今もある。この男に倒されて、幼女に転生させられて、千年かけて築いたものを全部失った。その怒りは、嘘ではなかった。


(それとも——)


 途切れた。


 続きが、出てこなかった。


 アレンが私を見ていた。何も言わなかった。私が前に立っている理由を聞かなかった。ただ、見ていた。


「意外ですね」


 声がして、2人とも顔を向けた。


 廃屋の壁際に、シェイドがいた。いつから立っていたのか、わからなかった。腕を組んで、笑っていた。


「来るとは思っていませんでした。いえ——来るだろうとは思っていましたが、こういう形で来るとは」


「黙れ」


「はい」


 シェイドが腕を解いた。踵を返した。


「では、また」


 それだけだった。足音が遠くなって、消えた。


 私とアレンが残った。



 アレンが口を開いた。


「何しに来た?」


 少し間があった。


「……散歩だ」


 アレンが私を見た。私はアレンを見た。


「そうか」


 それだけだった。


 アレンが歩き始めた。来た道を戻るように、森の入り口の方へ。私はその隣に並んだ。少し遅れて、並んだ。


 木の間から光が落ちていた。足元の土が、場所によって色が違った。湿った場所と、乾いた場所が交互にあった。私はそれを踏みながら歩いた。


 アレンは何も聞かなかった。


 私も何も言わなかった。


 森を抜けて、村の道に出た。家々の屋根が見えた。どこかで子供の声がした。フィルかもしれなかった。フィルではないかもしれなかった。


 アレンが歩いていた。私がその隣を歩いていた。


 廃屋の前で私が何をしようとしていたのか、答えはまだ出ていなかった。出ていなかったが、今は、それでよかった。


 家が見えてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ