13.恐怖の館の『悪夢の素』2
その日の夜、カチュア達は悪夢を見るという『悪夢の素』を飲んで眠りについた。
次の日、ガンマチームは結果を報告するためにカチュア達は冒険者ギルドの談話室に集まった。
「あー、しんどかった」
「本当に悪夢見ちゃったわ」
全員が悪夢を見て、朝からぐったり疲れ切っている。
「じゃあ、私からね」
とカチュアから悪夢の内容を話し出した。
「私が見た悪夢は三本立てで、最初はアランにふられる夢だったの。あ、アランは私の夫ね」
「ちょっと待って夫に振られたの? それでどうやって結婚したのよ、アンタ達」
アンはカチュアに質問した。
「夢の中の話よ、夢ではふられたんだけど、現実ではオッケーだったのよ」
とカチュアは説明した。
「……カチュアさんから告白したの?」
恋バナは気になるのか、ローラが質問してくる。
「そうなの、その頃から彼カッコ良くて、人気だったの」
今から十年くらい前、女学生だったカチュアはまだ騎士学校に通っていたアランに一目惚れした。
当時、女学生の間では、好きな人にハンカチを渡すのが流行っていた。
そのためカチュアも流行に乗ってアランにハンカチを渡すことにしたのだが。
『あの、良かったら、これ、使ってください』
当初カチュアはアランに汗を拭くハンカチだけ渡すつもりだった。
だが、小心者故あわてたのと、いざとなると大胆なことをしでかすカチュアは、『あの好きです!』と始めはお友達からお願いするつもりだったのに、勢い余って告白してしまった。
玉砕するかと思いきや、アランの返事は『実は俺も……』というまさかの両思いで交際が始まったのだが、夢の中では、
『君なんて大っ嫌いだよ』と愛しのアランにフラれたのだ。
人生最大に緊張した記憶から悪夢を見たらしい。
「それから、エドがぐれたり、バーバラが博物館で展示物を壊しちゃったりする、それはそれは恐ろしい悪夢だったわ」
カチュアは思い出すだけで恐ろしく、身震いした。
日頃恐れているバッドケース系悪夢だ。
次はアンが話し出した。
「アタシが見たのは、せっかく三キロ痩せたのにリバウンドしたというとてつもなく恐ろしい夢だったわ」
アンはげっそりしている。
「それは、お疲れ様」
とカチュアはアンを労った。
その次はオークの番だ。
「俺の夢は『人狼は出て行け!』とこの迷宮都市ロアから追い出されるっていうのでした」
オーグは夢の中の恐怖を思い出したのか、落ち込んでいる。
「僕は、どこに行っても肉が売っておらず、筋肉が見る間に衰えていく……。そんな非常に恐ろしい夢だった」
ベルンハルトは深刻そうな表情で言った。
「えー、それ、非常に恐ろしい?」
内心でそう思うカチュアだが、悪夢は人それぞれまったく違うものだ。カチュアの悪夢はベルンハルトにとっては「別に怖くない」だろう。
『悪夢の素』はその人の絶対に見たくない心の傷を的確にえぐってくる。
恐るべし、『悪夢の素』!
続いて夢の内容を話したのはリックだ。
「俺は……どっかの館に閉じ込められる夢でした。スライム系のモンスターが後ろから俺を追ってきていて、脱出しようとしたんですが、解錠しても解錠しても次から次にドアが出てきて埒が明かないという恐ろしい夢でした」
実はスライム系のモンスターが苦手なリックらしい悪夢である。
「私の夢は……」
そして最後にローラが話し出した。
ローラはそっと目を伏せる。
「私の夢は、うさみちゃんが死んじゃった時の夢……」
ローラはまだうさみの死を悔やんでいるようだ。
「でも、その夢、ちょっとおかしいところがあったの」
だが、ローラの夢はただの悪夢ではなかった。
「おかしい?」
「……うん」
と頷いて、ローラは夢の中の出来事を話し出した。
最初は現実にあったことまったく同じことが繰り返された。
もううさみの死を知っているローラはなんとかしようと抗うが、声も出せず、動くことも出来ない。
その間に、うさみは夢の中でもローラを庇って身代わりになった。
ローラはもう一度、うさみの魂が神々しい光に包まれてゆっくりと天に昇るのを、ただ見ていただけだった。
だがその時、夢の中では現実にはなかったことが起こった。
突如、白と黒のツートンカラーのいままで見たこともなかった動物がぴょんとローラの目の前に飛び出てきたのだ。
大型犬くらいのサイズで、鼻が長い。
動物はその鼻で辺りの空気を勢いよく吸い出した。
その途端、夢の中の息も出来ないような重い空気が見る間に晴れて、ローラの体がフッと楽になる。
今だと思い、ローラはうさみに向かって叫んだ。
「うさみちゃん、皆できっと迎えに行くから! 待っていて!」
うさみの魂は、ローラの方を向いて、小さな声だが確かにこう言った。
「うん、ローラちゃん、わたし、待ってる」
話を聞いてカチュアはしんみりした。
「そうかぁ」
「正夢になるといいわね」
アンもしみじみしている。
だが、リックとオーグは別の所に引っかかったようだ。
「あのー、それより、ローラが見た夢の中に出てきた変な動物って」
「それが、バクですかね?」
「ローラ君、君はその『バク』に僕達とともに聖人ナリスの元に行くようにとお願いしたか?」
とベルンハルトが質問した。
ローラは残念そうに頭を振る。
「それどころじゃなかったら、お願い出来なかった」
「むむむっ」
ベルンハルトは唸った。
しかし悪夢にうなされている最中に冷静にバクとコンタクトを取るのはかなり難しいだろう。
少し落ち込んでしまったローラをアンが慰める。
「悪夢を見ている最中だもの、しょうがないわよ」
「『悪夢の素』を飲んだらバクに会えたって確かめられただけでもかなり有益ッスね」
「そうだな」
「また、恐怖の館に『悪夢の素』を貰いにいくしかないか」
「そっ、そうね……」
またあの館に行くのかと思うと、憂鬱な気分になるカチュアだが、仕方ない。カチュアが頷いたその時。
ガンマチームが囲んでいたテーブルの上に、いきなり転移魔法陣が浮かび上がる。
「えっ、どういうこと?」
「何事だ?」
驚くガンマチーム。
「誰か転移魔法の巻物を使ったの?」
アンが皆に聞いたが、誰一人、心当たりはない。
「これは召喚だ。何者かが来るぞ!」
ベルンハルトの言葉に全員身構えた。
召喚魔法はその名の通り、何かを召喚する魔法で、条件を満たした時に可能になる。
術者が意図的に場を整え、呼び出すことがほとんどだが、偶然にその条件が揃ってしまった時に、召喚『してしまう』ということもある。
カチュア達の今居る冒険者ギルド内では、召喚魔法防止の対魔法効果が掛けられているが、そうした魔法障壁もより強力な魔法の前では効果を失う。
どうやら何らかの条件が偶然整ってしまい、ガンマチームは何かを召喚してしまったようだ。
「きゃっ」
転移魔法陣が輝き、テーブルの上に大型犬くらいのサイズで白と黒の模様をした鼻が長い動物が現れた。
ローラは思わず声を上げた。
「あっ、あの動物、夢で見た」
ローラが夢の中で見た動物にソックリだ!
その生き物は、
「ぴょえ」
と変な声で鳴いた。










