12.恐怖の館の『悪夢の素』1
悪夢を見ればバクに会える。
スフィンクスにそう教えられたカチュア達はとっておきの悪夢が見られるという『悪夢の素』を探しに、恐怖の館に行くことになった。
ホラーエリアはその名の通り、気味が悪く薄暗い場所だ。エリアの時間は夜に固定されて、辺りは墓場か、廃墟やじめっとした空気を醸す湖などがある。
その湖のほとりに建つ大きな館がカチュア達の目的地だった。
名は『恐怖の館』だ。
なかなか立派な大きな館だが、雰囲気はどうにもおどろおどろしい。
カチュアは館を見上げて呟いた。
「嫌だわぁ」
本来絶対入りたくない場所だが、これもうさみ復活のためだ。
「行きましょう」
アンは勇ましく恐怖の館の玄関扉に手をかける。
だがその途端、「ギィィィッ」と不吉な音を立てて扉は自動的に開かれた。
「あれ?」
「どうして?」
「分からんが、行ってみよう」
ガンマチームは不思議な現象に一瞬ざわついたが、すぐに気を取り直しスタスタと館の中に入っていく。
「待ってー」
カチュアはその後をおっかなびっくり追う。
入ってすぐの部屋は館の玄関ホールになっていた。正面は二階に続く大階段で、左側は食堂とプレートが掛けられたドア、右にあるのは遊戯室と書かれている。
「ふうむ、貴族の邸宅のような作りだな」
ベルンハルトが周囲を眺めて言った。
「この家のどこかに『悪夢の素』があるんですね」
「手分けして探しましょう」
ガンマチームが頷き合ったその時、
「恐怖の館にようこそ」
どこからともなく声が聞こえてきた。
「?」
「誰だ?」
「おーい、誰かいるんですか?」
声から推理すると中年以上の年齢の男性のようだ。
だがいくら周りを見回しても人影はない。
しかし。
「探しても無駄だ。私は、この館そのものだ」
声は天井から降り注ぐように聞こえてくる。
「これって、無限廊下みたいな生きている建物ってことですかね?」
「そうみたいね」
「あのー、私達、スフィンクスさんの友達で、ここには『悪夢の素』が欲しくてきたんです」
カチュアは恐怖の館に自己紹介を試みた。とりあえず、ホールの上の方に向かって大きな声で話してみる。
すると館から返事が返ってくる。
「そうか。歓迎するぞ。お前達が探す『悪夢の素』は私が持っている。この館を一周し、また無事にこのエントランスに戻ってこれたら渡してやろう」
カチュアはそれを聞いてホッとした。
なんだか『悪夢の素』が手に入りそうな雰囲気だ。
「まずこのエントランスにすべての武器を置いてゆけ」
と館は命じた。
「……それは」
ガンマチームは困惑して顔を見合わせる。
武器がないと戦闘になった時にとてつもなく不利だ。
だが、館は言った。
「案ずるな。この館のモンスターはお前達を攻撃することはない」
「その言葉、嘘はないな?」
とベルンハルトが念押しする。
「ああ、ここは私の体の内。傷つけられたら困るのは私だ。信用してくれ。誓約しよう。モンスターはお前達を傷つけることはない」
ガンマチームに白い粒のようなものが降り注ぐ。
これは誓約が掛けられた印だ。
「どうやら本当らしいな。皆、武装を解こう」
ベルンハルトの言葉に皆は装備していた武器をその場に置いた。
カチュアも仕方なくお玉を置いた。
すると再び館の声が聞こえてくる。
「スタートは右手の食堂だ。諸君、恐怖の館を楽しんで行ってくれ」
「いこう」
ガンマチームは館に言われた通り、食堂のドアを開けた。
食堂のドアを開けると、中は大きくて立派な食堂だ。天井にはシャンデリアがあり、真ん中にかなり大きな細長いテーブルが置かれている。貴族の邸宅によくありそうな感じだ。
ただし、シャンデリアにも、テーブルに置かれた食器にもホコリが被ってあまり衛生的には見えない。そして……。
「誰もいないみたいですね」
冷たく静まり返った部屋でリックがそう呟いた時、
「あら、よく来たね」
とおばあさんの声がした。
あわてて振り返ったガンマチームの視線の先、安楽椅子に腰掛けていたのは、年老いた婦人だ。だが、この人、半透明に透けている。
「えっ、まさか……」
「幽霊?」
よく見ると部屋中に幽霊がうようよしていた。
「きゃーっ、おーばーけー!」
とカチュアは悲鳴を上げた。
***
ゴースト達のパーティー会場を抜けると次は調理室。
調理途中の豚や牛が元気に歩き回っている。
スプラッタな光景にカチュアは気が遠くなりそうだったが、そんなカチュアをアンが「目、閉じなさい」と腕を引っ張った。
「アンタね、怖いなら見ないのよ」
「だって……」
怖がりな人間ほど、つい見てしまう、あの現象。
ワイン蔵で真っ赤な赤ワインを飲んでいるのは口元に大きな牙を覗かせる吸血鬼。
そしてリネン室で包帯を巻いているのはミイラ男、と次から次に怪奇な生き物に遭遇するが、確かに最初に館が宣言した通り、ガンマチームに襲いかかってくるモンスターはいない。
「きゃー、こーわーいー」
とカチュアが驚いて悲鳴を上げて逃げ惑っているだけだ。
その悲鳴を聞いて、モンスター達は面白そうに笑っている。
「あっ、人がいますよ」
そして、館の中を進み、ガンマチームは二階バルコニーに立つ一人の男を見つけた。
だが、男は月に向かって「ウォーン」と吠え、見る間に狼に変身した。
「きゃーっ」
カチュアは驚いて思わず悲鳴を上げた。
男は狼獣人だった!
「ごっ、ごめんなさい」
カチュアはあわてて狼獣人に謝った。
狼獣人が月夜の晩に狼に変身するのは自然現象のようなものだ。悲鳴を上げるのはちょっと失礼な気がして急いで謝る。
だが、狼獣人は狼から獣人の姿に戻り、案外人懐こい表情で笑った。
「いいさ、俺も驚かせようとして変身したんだ。いい悲鳴、聞かせてもらったよ」
「えっ、どういうこと?」
「ここは恐怖の館。館の主は人間の悲鳴が大好物なんだ。だから俺達モンスターや獣人を雇って、ここでホラーハウスを営業しているってわけ」
狼獣人は館の秘密を教えてくれた。
「悲鳴が好物なんて変わったモンスターもいるんですね」
リックは感心している。
「ちょっと悪趣味よねぇ」
「うん」
アンの感想にローラが同意する。
狼獣人はカチュアを指さす。
「だから、あんたみたいに驚いてくれる人は大歓迎だよ」
モンスター達がカチュアを見て妙に嬉しそうだった理由が判明した!
「えー」
カチュアはちょっと引いた。
その後もカチュアは『大歓迎』されてしまった。
館を一周回ってまたあの玄関ホールに戻ると、
「よく戻ってきたな」
と館は愉快そうに話しかけてきた。
他のメンバーは平気だが、カチュアは叫び疲れて疲労困憊している。
「回ってきたわよ、約束通り『悪夢の素』を頂戴」
アンは館に向かって要求を突きつけた。
「もちろんだ。お前達が望む物は、そこの箱に入っている」
その瞬間、「パンッ」とエントランスの中央にスポットライトが当たる。
テーブルの上には小さな宝箱が載っていた。
「俺が開けてみます」
リックが慎重に宝箱を手に取り、蓋を開けると、そこには『悪夢の素』らしいどどめ色をした液体が入った瓶が六本は入っていた。
「お前達、『悪夢の素』を何に使う気だ? 嫌がらせか? それともバクに会うつもりか?」
館はそう、問いかけてきた。
まず嫌がらせから入るのがさすが、『恐怖の館』だ。趣味が悪い。
「そうよ、アタシらはバクに会いたいの」
アンが答えた。
「恐怖の館さんはバクのことを知っているの?」
カチュアは逆質問した。
その途端、館はまるで頷くように大きく一度揺れた。
「無論、知っている。バクに会いたいのなら、チーム全員で飲んでみるといい。一番の悪夢の中にバクはやって来る。頼み事があるなら夢の中でバクに話しかけてみよ」
「ありがとう、館さん」
カチュアは館にお礼を言った。
「いやいや、お礼を言うのは私の方だ。あなたの悲鳴はとても心地よい。ここで専属の悲鳴係をやらないかね」
とカチュアは館にスカウトされた。
「えっ、遠慮しておきます」
カチュアは丁重にお断りした。
『悪夢の素』が手に入った!
これでとびきりの悪夢を見ることが出来る!
早速今晩使ってみよう。










