14.悪夢を食べるモンスター、バク1
カチュア達は転移魔法の巻物を使い、王都、アルストロメリア侯爵邸にあるナリスの部屋に転移した。
「よく来てくれたな、ガンマチームの諸君」
ナリスは大きく手を広げてガンマチームを歓迎する。
「あ、ナリスさん、こんにちは」
「ちわーっす」
「……」
ようやく出会えたナリスに挨拶するガンマチームをよそに、ベルンハルトは一人、注意深く周囲を見回し、ため息をついた。
「やはり、叔父上の館のようだな。聖人ナリスよ、一体何があったんだ?」
とナリスに説明を求めた。
「叔父上ということは、やはりあなた様は第二王子ベルン=ルヴァルド殿下ですな」
ナリスはベルンハルトの正体を知っていたようだ。
ベルンハルトはこの問いに「うむ」と頷いた。
「いかにもベルン=ルヴァルドである」
「殿下、わたくしは教会に所属する退魔師ナリスと申します」
ナリスはベルンハルトに向かって深々とお辞儀する。
ベルンハルトは本当は王族なのでこんな超緊急事態でもまずご挨拶から入るのだ。
だが、ベルンハルトはナリスに言った。
「急を要する事態だ、楽にしてくれ」
「はっ、ありがとうございます。では早速、アルストロメリア侯爵閣下の元に参りましょう」
そう言うとナリスは今度はバクと側にいたカチュア達に向かって声を掛ける。
「よくバクを連れてきてくれた。さあ、行こう、こっちだ」
ナリスはドアを開け、白一色に塗られたお金掛かってそうな廊下をせかせかと歩き出す。
本当に時間がないらしい。
ベルンハルトは歩きながらナリスに質問した。
「ナリスよ、一体、何があったんだ? 君は以前に叔父上が夢馬マレに取り憑かれたと言っていたが、人にモンスターが取り憑くようなことは滅多にあるまい」
ベルンハルトが言うのはもっともで、地上の世界はモンスター達にとっては光の力が強すぎて生きていけないらしい。
人界でモンスター達の生息域がほとんどダンジョン内に限定されているのはそのせいだ。
――ただし、何事にも例外はある。闇の力が強い『場』を作ればモンスター達も地上にいられるのだ。
夢魔はその名のごとく夢の中に入り込むことが出来るモンスターだが、そんな彼らも自由自在に人々の夢の中を渡り歩くことは出来ない。
夢魔が人の夢の中に入るには『ある条件』を満たさねばならない。
その条件とは――。
「いにしえより、『心を引き裂くような悪夢』を見た者は夢魔マレに取り憑かれると言い伝えられております」
とナリスは説明した。
バクも夢魔の一種だが、バクが悪夢を食べて邪気を払うのに対し、マレは逆に人にずっと悪夢を見させ続ける。マレに取り憑かれた人は悪夢を見ている間、目覚めることはない。
マレに取り憑かれたら最後、ついに衰弱して死んでしまうまで、目を覚ますことはないという。
実に恐ろしいモンスターだ。
しかし単に悪夢を見ただけでは、人は夢魔マレに取り憑かれない。
「マレに魅入られるには『心を引き裂くような悪夢』を見ることと、もう一つ、条件があるのだ」
とナリスは言う。
「もう一つ、条件?」
「うむ、それは心が弱っていることだ。心が弱っている状態だと、夢魔は夢に入り込んで来てしまう。だが執事の話では、侯爵は悲痛な過去はあるものの、それを乗り越えて生きてきた強い人だ。マレに『魅入られる』条件に当てはまらないのだ。とすれば、人為的にマレを侯爵の夢の中に入り込ませた者がいるはずだ」
「えっ、人為的?」
ガンマチームはナリスの言葉にどよめいた。
「一体誰の仕業なの?」
アンは眉をひそめる。
ナリスは首を横に振る。
「いや、その話は後にしよう。ともかく今は一刻も早く侯爵を悪夢から目覚めさせるのが先決だ。ただ、覚えていて欲しい。マレの影には侯爵を落とし入れた者がいる」
「そうですよね、今はベルンハルトの叔父さんを助けないと……」
家族思いのオーグが呟くとリックも横で気合いを入れる。
「本当の犯人を捕まえるのはその後だな」
「ナリス、バクがいれば叔父上を助けられるのだな?」
ベルンハルトの問いかけにナリスは頷いた。
「仰せの通りです、殿下」
「あら、じゃあ、ナリスさんはバクちゃんと知り合いなのね」
なんか話の展開からそれっぽいと思い、カチュアは聞いてみた。しかし、ナリスの答えは。
「いいや、まったくの初対面だ」
「びょえ」とバクも鳴いた。
「えー」
最強コンビ……と思いきや、初対面だった!
「夢魔マレに一度取り憑かれたら最後、そのまま目を覚まさずに死んでしまうことがほとんどだ。余命はわずか一週間とも言われている」
「えっ、一週間!?」
「だが教会から私が派遣されたことで、侯爵はすんでのところで命を長らえることが出来た。しかし、私の力では侯爵をより深い死の眠りに向かうのを食い止めることしか出来なかった。もはや、いにしえの文献に記されるマレの天敵バクの力に頼るしかないのだよ」
「大変だったね、ナリスさんも」
カチュアは同情した。
「で、話戻すけど、このバクさえいれば、侯爵は助かるのね」
アンがナリスに質問した。
「文献によるとそのようだ」
だがそのあと、ナリスは深刻そうな表情で呟いた。
「マレほど強い夢魔に一度取り憑かれるととても厄介で、バクでさえ、悪夢の中に入らないと奴を祓うことが出来ないかもしれん。その時は危険を冒して行くしかない」
「悪夢の中に入ってみる?」
リックが驚いて声を上げた。
「ああ、バクは夢魔マレの天敵にして、悪夢の水先案内人……いや、案内獣だ」
バクもガンマチームと一緒に四つ足でスタスタと歩いている。
「あなたって人の夢の中に入れるの?」
カチュアがバクに聞いてみるとバクは「びょっ」と心なしか得意げに一回鳴いた。










