49話 あれから
短めです。
あの一件から数日後。王国では色々な事が起こった。まず、大臣だが、あの後結局紫炎の<束縛>が解けず、その場で拘束された。国家転覆の罪で捕まった大臣は全てを洗いざらい話したそうだ。
曰く、ゼロの人体実験は興味本意であったとか。
曰く、王城のおける全ての人物へと洗脳は自分の思い通りにする為だとか。
当然、死刑となった大臣は今も、牢で己の死まで拘束されている。
王国はと言うと、闘技場はじめ、甚大な被害を負った。今は再建のため、国民全員が協力し、復興に励んでいる。余談だが、一番貢献したのはテスタであった。元々帝国の姫であったテスタは、そのカリスマ性を発揮し、今や国民に絶大な人気を誇っている。
ちなみに王であるグレスや、テレスはどうやら無事だったようで、あれからこの一件を"王国最大の悲劇"として全国民に向けスピーチを行った。
「今回のこの一件、我ら王族の失態である。大臣は元より、人体実験など見過ごしていた事に対し謝罪する。済まなかった」
グレスが涙ながらに頭を下げ、一時期問題にもなったが、今では落ち着き再興に力を入れている。
そして、紫炎はと言うと·····。
「ちっ、大臣を殺し損ねた。ったく、まぁ良いか·····」
王国の門を潜っていた。後ろに控える王城を睨みながら、文句を口にする。そんな紫炎に後ろで苦笑しながら、黒煉が後を追う。
「しかし、マスター久しぶりですね。こんな少なくなったのは·····」
「ああ、そうだな」
ルファーは、今後の和解のため今は王城に居る。サミリアは、紫炎のある命令によりこの場には居ない。テスタは、王国再建のためテレスやシリスと共に王国にいる。ユグとシルはサミリアと同じで、調べものをしていている。
「ちょっと。シエン様ッ! 私忘れてない?」
紫炎に肩車で、足をバタバタさせているクレンに紫炎が苦笑する。
「忘れてねぇよ。そうだ。次は、獣人の国に行くからな。しばらくお前の出番が続きそうだ」
獣人の国·····ラヴァンを思い出し、クレンが顔を暗くする。
「そんな顔をするな」
首を動かし、頭上にいるクレンに優しく語りかける。
「お前の両親の仇はとるからよ」
前に約束した両親の復讐に、クレンがこぶしに力を入れ、暗い顔を切り替える。
「うん!」
その様子に「よしっ」と紫炎が頷き、後ろにいる黒煉へと振り返る。
「それじゃあ黒煉。次の行き先はラヴァンだ! ラヴァンではお前にして貰いたい事が沢山ある。よろしく頼むよ」
「御意、御主人様」
そして、紫炎はおもむろに空を見上げる。死んだ·····いや、殺したゼロを脳裏に浮かばせ、あの時の言葉を思い出す。
『出来れば僕みたいな人を救って欲しい』
紫炎はヒーローでも、正義の味方でもなんでもない。しかし、『終焉ノ迷宮』で決めたように、目の前の奴だけは何としても助ける。手始めにクレンだ。ラヴァンにて復讐の対象である王都兵に向け、紫炎はその瞳に殺意を宿す。
「世界には腐った奴が沢山いる。そいつらを全員殺そうなんて思わない。だが、俺の連れが憎むべき対象は俺の対象でもある。神との契約目指して旅をするが、俺の対象は全て排除する」
突然、語り出した紫炎に、二人は驚くが、言っている言葉の意味を察したのか、黙って紫炎の言葉を聞く。
「危険な旅だ。だけど、俺は進む。自分の生まれたあの世界に帰るために·····そんな旅についてきてくれるか?」
不安に思ったのだろう。自分の謎や、終焉など、知らない事ばかりだ。こんな自分に本当に着いてきてくれるのか。ラヴァンは通過点に過ぎない、自分達の目標はさらに先にいる。そんな旅に来てくれるのか? と。
本当に突然で、本当に当たり前の事で、二人ともため息を吐くが、その顔に満面の笑みを宿し、紫炎に対し分かりきった答えを告げる。
「「もちろん(です)」」
さて、第二章がこれで完結です。次回、勇者視点を投稿し、完全に完結します。次は獣人国ラヴァン編でございます。一足早いですがここまでのご愛読ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。




