50話 差
最後の二行だけは三人称になってしまいました。
圧巻だった――たった二字で終わるが、この二字には色々な意味を含まれている。圧巻、時にすごいという意味で使われるこれは、実に彼にふさわしい言葉であった。
ゼロ、あの少年に立ち向かう勇気、最初は失礼だが、テスタさんを励ますためにカッコつけているのだと、そう思ってしまった。それは前の彼を知ってるいるが故に·····。
この世界に来た当初の彼は、まさに最弱、雑魚の二字が当てはまるほどの無能っぷりだった。しかし、それに比べ自分は圧倒的に強いステータスを保持していた。だからこそあの時守ると宣言したのだ。
しかし、今はどうだろうか? 今回の足でまといは誰であったか? 紫炎? 否自分だ。
目の前の絶望を具現化したような少年に、自分は足を震わせていただけだ。これでは魔王を·····いや魔王すらも彼が解決してしまった。
自分達が呼ばれた理由·····魔王を討伐してくれというこの国の願いを、解決したのはだれか? 自分? 否紫炎だ。しかも討伐ではなく、話し合いで解決してしまった。
それはひとえに自分と彼の"差"から起こる現象である。最初、自分たちが強くなろうとしていたのは誰を助ける為だ? 彼を救うため、助けるために頑張った。しかし、その努力すらも彼に大差で抜かれてしまった。
いや、努力では無い、死線をくぐった数が違うのだ。何度も自分の命をすり減らすような戦いを繰り返してきた彼との差――それは変えようのない事実であった。
彼は元の世界へと帰ろうと、旅を続けるといった。しかし、道中やることがあるらしく、しばらくはこの世界に滞在するとも言っていた。
そんな彼は昨日ここを発った。国の復興のためにテスタさん、国交の回復のためにルファーさんを残して·····紫炎の去り際彼女たちが見せた顔は、今まで数多く見てきた、僕に見せてきた元の世界の女子たちのそれと同じであった。
別に自分がイケメンだと自負した事はないが、今までの自分に対する女性たちの対応から、ある程度の事は誇っていた。これを聞いたらゲス野郎と思われるかもしれないが、事実そうだったのだ。
対して彼の顔は平凡極まりない程である。では何故彼に彼女たちがあの顔を見せるのか? ·····この思考を繰り返して行く内に自分の心に"嫉妬"という言葉が浮かんだ。僕が彼に嫉妬していると、自分ですらそう感じてしまった。
その思考が僕に行動を縛らせた。昨日の見送りに僕だけは参加出来なかった。嫉妬が故に、彼に見せる顔が無い。遠くからその現場を見つめるだけであった。
その時だった。イフリートが僕に声をかけてきたのは、
「光殿、彼·····紫炎を殺そうとは思いませんか?」
あまりにも唐突で、あまりにもおかしな事を話すイフリートの目は真剣であった。紫炎の試験中一度も顔を見せなかったイフリートは、タイミングを見計らってか、今、僕の目の前に現れたのだ。
しかし、イフリートの言葉は、何故か僕の心に深く刺さった。嫉妬しているから? 差を見せつけられたから? 僕の心が黒く塗りつぶされていく事を確かに感じる。
もしかしたら彼が、紫炎が感じた心はこんな感じだったのだろうか? だとしたら、彼に近づくチャンスでは無いのだろうか? 彼と同じ道を歩む事で、自分も彼と同じような力を、女を、財力を、全てを手に入れる事ができるのではないか? と、そう考えてしまった。
そうして僕は決断する。
「ああ、殺したいよ·····」
「ならば」
「うん。そうだね。でも今は無理だ」
「では、知り合いの方を紹介しましょう。必ずや人殺しを成せる力を·····光殿を紫炎と同じぐらいの力を、否彼よりも遥かに強い力を授けて下さります」
そう語る彼の目は先程の真剣とは違う、狂乱の光を帯びていた。いや、既に僕の瞳もそうなっているのだろう。なぜなら僕の顔はこんなにも笑っているのだから。
「ああ、なら早く行こう。みんなにバレてしまう。早く案内してくれ、出発だ」
そして、僕の脳内に機会地味た声が響く。
(称号、『嫉妬』を獲得)
さぁ、彼を殺すために·····僕がすごいとみんなに認められて貰うために、彼のものを、彼の力を、全てを越えよう。奪い取ろう。
そして、僕の心は黒く塗りつぶされた。漆黒にも似た僕の心はもう誰にも止められない。
そんな彼らは影から見るものがいるとは知らず、紫炎殺しを決行するため王都から出発した。
闇堕ち勇者です。これで二章完全に完結です。次は獣人の国ラヴァンで一波乱が起こります。では次の投稿までお待ちください。




