48話 ゼロ戦 後半
久々の新しい話です。
「シリスッ! お前の魔法で障壁を何とかできねぇか!?」
シリスを抱えた紫炎が飛び降りざま叫ぶ。
「ちょ、それよりもテレスが·····お姉ちゃんがッ!」
当然の事ながらシリスにはそれ所では無い。愛する家族が置き去りになっているのだ。幾ら<束縛>していても不安が残るのは当たり前、更にシリスにはこの現状が理解出来ていない。
突然攫われたと思えば、空中の旅に出かけているのだから。
「分かってるッ! だからさっさとアイツを片付けなきゃならねぇん·····グッ」
紫炎が胸元を掴み唸る。どうしたものかとシリスが顔色を覗くと紫炎は”大丈夫”と話を続ける。
「サミリアにダメージが入ったんだ。調教のせいで俺の生命力が使われただけだ」
淡々と語るが、調教の時の生命力の吸収と言うのは結構くるものだ。見ると、下の方では激しい戦闘が行われている。
精霊王であるユグとシルそしてルファーのアシストのもと黒煉とサミリア、クレンが至近距離でゼロと相対している。だが、戦況は著しくない障壁という大きなアドバンテージのせいでクレン達の顔には疲労が見え隠れしている。
その現状を見たシリスは、頭を左右に振り、目の前の化け物に意識を切り替える。
「分かった。やってみる」
「理解が早くて助かる。テレス達の方は大丈夫だ。<束縛>はそうそうに破壊出来ないからな。障壁を破壊出来たら光達と撤退してくれ後はこっちで仕留める」
その紫炎の言葉に頷き肯定する。
地面に足が着く前に紫炎は<闇>を展開し衝撃を吸収する。紫炎の元から離れ、シリスが魔法陣を展開し詠唱し始めた。
「我らが祖となる偉大な龍よ·····今ここに顕現せよ」
現れたのは強大な龍。それは紫炎が以前倒した龍よりも俄然大きい。
「GyaaAaaAAAAaaaAaaッ!」
赤き鱗に包まれた龍は途端、空気が震えるほどの咆哮をあげた。あまりの迫力に辺りに静寂をもたらす。先程まで著しくあった戦況がガラリと変わる。それを確認したシリスが最後の詠唱を口にした。
「その力は誉れ高き龍たるもの、今此処にその一端を示す<龍の咆哮>ッ!」
その詠唱に龍が目を光らし反応する。瞬間ゼロと同等以上の濃密な魔素が龍の開かれた口の前に集中する。その魔素を喰ったかと思えば、突然火炎が口から放たれる。それはゆうに紫炎の<黒炎>を超える熱気を含んでいた。
それが寸分の狂いなく、ゼロの元へと向かう。接近していた黒煉達は直ぐに退散する。そして、確実にゼロに<龍の咆哮>が直撃する。
バリンッ! と盛大な音が聞こえたかと思えば、障壁が割れる。同時に龍もその姿を消す。それを気に紫炎が黒煉達に指示を出す。
「みんなッ! 今だッ! 叩き込め!」
紫炎の声にしっかり頷き、黒煉たちが今持てる最大の技を繰り出す。
「喰らいなさい<雪月花>」
ユグの三位一体の攻撃が放たれる。
「じゃあ、私もッ! <紅蓮花>!」
ルファーの手から生成される綺麗な花びらが宙を舞い、ユグの<雪月花>に合わさる。
「行くよッ! ヴァレンシュタン」
連続の突き技がクレンの愛剣であるヴァレンシュタンから放たれる。すると切っ先から魔力が高速でゼロへと向かう。それは弾丸のように真っ直ぐとゼロに風穴を開ける。
「私も久々に魔法を使っちゃうの♪ <月牙・斬>」
<月牙・斬>それは聞くと剣技のように思えるが、れっきとした魔法である。そもそも<月牙>は三つの技の集合体の魔法名である。順番に『突』、『薙』そして『斬』だ。それぞれ魔力により形成された魔法剣から放たれる。まるで生物のように滑らかな動きで、それが無数に顕現されるものだ。
そして今回使用した『斬』は読んで字のごとく”斬る”という事だけに集中する魔法。容赦なくゼロの体を切り刻む。
先程の<雪月花>と<紅蓮花>そして突き技も相まって絶大なダメージがゼロに注がれる。
「ガァァァァー!」
為す術なく大の字で全ての攻撃を受ける。と言うか腕でガードしたくても出来ないのだ。放たれる魔法の威力が強すぎて·····。
そして、最後の攻撃を今紫炎が繰り出す。いや紫炎だけじゃない黒煉とサミリアと共にだ。
「マスター私をお使い下さい!」
黒煉が物凄いスピードで紫炎に迫る。それに紫炎が頷き一つで反応し、黒煉が姿を変える。おもむろに空中で紫炎が手を突き出したと思えば、その手には『黒煉』が握られている。
「サミリア! 『魔斬』を使え!」
いつの間にか後ろに居たサミリアに紫炎が声をかける。
「了解しました。御主人様」
右手に握られた黒い大剣が上に振り上げられた。そしてそれを振り下ろす。『魔斬』がゼロの元へと放たれる。
「ギャァァァァァアアッ!」
胸に切口が開かれた。そこに向かって紫炎が剣技を放つ。
何故、シルファーに剣技を教えて貰っていないのに使えるか、と言われればサミリアに指導して貰ったおかげである。それもとっておき『奥義』に分類される技だ。
「行くぞッ! 『黒煉』!」
『御意、御主人様』
そして放つ。
「奥義、<顎門>」
<顎門>は、簡単に説明するとただの上段振りだ。
当然、奥義に数えられている技だ。難易度は高い。相手にさえ見えない速さで剣を下から上に振り上げ振り下ろすのだ。その時、あまりにも速すぎて剣の残像が下に残っている。そして上にある剣と共に相手の目に写るのはまるで顎門のようだと名付けられた。それこそさっきの龍のように。
その一撃は誰にも止められない。何故なら振り下ろされる剣もまた見えないからだ。そして、『黒煉』がザックりとゼロの切口に追い討ちをかける。
流れている血からもはや助かる可能性は無い。それを証明するように徐々にゼロの目から狂気が消え、共に生気も薄まっていく。
「グ·····ガハァッ!」
ゼロが口から血を吹き出す。ダイレクトに吐き出された血が紫炎に降り注がれる。
「ま、負け·····ちゃった」
額から生える角が霧散して行く。背中から放たれる魔素も徐々にその勢いが減っていく。そんな中、震える唇を動かしゼロが言葉を発した。
そんなゼロに紫炎が少し悔しそうな顔をした後、直ぐに元に戻り、口元に笑みを浮かべて肯定する。
「ああ、俺の勝ちだ」
審判も居ない。観客も避難した。師匠であるムートは気を失い、今は会場のスタッフによりこの場に居ない。クレンも疲れて女の子座りをして息を荒くしている。そんな中静かに勝負が終わったのだ。そして、ゼロの命も終わりに差し掛かっている。
その事が紫炎の笑みを崩す。自分が今、尊き命を奪っている事を思うと胸が締め付けられる。もっと他の方法があったと、誰だって好き好んで殺す奴はそうは居ない。サミリアの時だってその気持ちがあったからこそ<調教>したのだ。
「なぁ、ゼロ·····」
紫炎の崩れた顔からの言葉は、しかし最後まで口に出来なかった。ゼロが被りを降ったからだ。
「シツさん·····僕はね·····今、幸せだよ·····元々、僕の命は無いものなんだ·····」
そして、ゼロは少ない命の時間で紫炎に真実を教える。
「僕は五年前に確実に死んだんだ·····魔物の大群に·····村を襲われて·····」
その言葉に驚愕する紫炎。だが、もう視覚も無くなってきたのか、構わずにゼロは話す。
「その時·····アイツに会ったんだ·····朦朧とする意識の中で·····気づいた時は何処かの施設の中だった·····ゴホッ!」
口から血が伝う。しかしお構い無しに語る。
「それから五年·····人体実験をされたよ·····毎日苦しい痛みが体を伝うんだ·····そんな時間から救ってくれたのは·····シツさんなんだよ·····」
魔人の生命力が今、ゼロを延命している。魔人の力が修復しているが、『黒煉』がそれを許さない。その状況下の中ゼロの言葉に紫炎は驚きを隠せない。
「俺は何もしてねぇよ」
紫炎には身に覚えのない事だ。それもそのはず、ゼロにとってこの戦いが救いそのものだから。
「シツさん·····と戦えて·····今までで、一番楽しかった·····それが救い·····僕が今まで一度と感じなかった感情·····だから幸せ·····アイツの道具として·····僕はこうなっちゃったけど·····それでも楽しかったよ」
そっと、『黒煉』から離れると、手のひらで切っ先を下げる。真っ直ぐ突き出された『黒煉』に向かい、少ない力で自分の腹を貫いた。そして、最期の言葉を口にする。
「·····―――」
それは、この場で紫炎と『黒煉』しか聞こえない小さな声。その言葉に涙を流す紫炎。そして誓う。
「任せろ·····俺がやってやるよ」
すると、ゼロの口元に笑みが浮かぶ。その笑みは試合中何度も見かけた年相応の無邪気さを帯びていた。
間が空きましたが、どうでしたでしょうか? 評価してくれるとありがたいです。




