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腐臭のする家

「誰がドロシーを殺したか?」第4話「腐臭のする家」です。まだこの作品を読んだことのない方は1話から読んでいただけるとより楽しめるかと思います。よろしくお願いします。

<オズの国>

リズは黄色の道をしばらく探しまわり、青い家の集落の入り口とは真反対に黄色の道を見つけた。

「あった…ロゼ、あったよ。」

発見したその黄色の道を伝えるために、近くにいるであろうロゼをキョロキョロとその場で探してみたが視界にロゼの姿は入らなかった。

「ロゼ?」

もしかしたらついて来ていないのかもしれないと思い、先ほどロゼが何かを踏んだと言っていた場所へ一度探しに戻ることにした。

「何してんの?ロゼ。」

案の定ロゼは何かを踏んだと言っていた場所から一歩も動くことなくしゃがみ込んでいた。何か小さな球体を手に持っている。

「ねーねー、これなぁに?」

「はぁ?どれのこと?」

ロゼは手に持っていたひよこのような模様が入った眼をリズの方に掲げて見せた。

「これね、なんかひよこの絵が描いてあるの。」

「ひよこの絵?…何それ気持ち悪い。早くそれ捨てて行くよ。女の子たちが言ってた道見つけたから。」

「ほんとー!?どこ〜?」

リズはそのひよこの模様が描かれた眼を一瞥して、ひらりと踵を返した。ロゼももうその眼には興味なさそうに適当にポイっと捨ててリズが見つけたという黄色の道に行くため、ぴょんっと飛ぶように立ち上がってリズに早足でついていく。

「向こうにあったんだよ。とりあえずあの道を行けばいいんだろ?」

「そうなのー?」

「聞いてなかったの?」

「興味なーい!」

スタスタと黄色の道へとまっすぐ向かっていくリズをロゼがくねくねと千鳥足ともつかない独特なリズムで追って歩いて行く。しばらく歩いていると牧場のようなだだっ広く雄大で美しい景色が広がっていた。

「ひろーい!カンザスみたいね!」

カンザスを思い起こさせるような牧場の景色にロゼはテンションが上がったのか、その牧場の中に入ろうとフェンスを登り始める。

「何してんの。早く降りて、誰の牧場かもわからないのに。」

「いいじゃんかー。牧場好き−!」

フェンスはそこまで高くできていなかったため、ロゼはすんなりと登って牧場の敷地の中に入って行ってしまった。

「ちょっと、バカじゃねぇの!?出てこいって!」

そのロゼの様子に流石に焦ったのかリズはフェンスの外から珍しく声をあげた。

「なんでー?あそこのお家誰がいると思う〜?」

そう言いながら牧場の奥の方に見える赤い屋根のファームハウスへと真っ直ぐ弾むように走って行ってしまった。

「はぁ!?何言ってんのまじで…。」

リズは走り去ってしまったロゼの様子を見て、呆れて置いて行きたくなる気持ちを堪えて自分もめんどくさそうにフェンスを登ってゆっくりと走ってリズを追いかける。

「ちょっと…!戻れって…!っはぁ。」

ロゼはリズよりも足が速いようで追いかけているリズの声はもうロゼ元には届かないほど、2人は離れてしまっていた。それから数分もすると足の速いロゼはリズより一足早くついて息を整えていた。

「っはぁっはぁ…ふぅ〜。なんか変なにおーい。」

息を整えていると、その赤い屋根のファームハウスから異臭がすることに気がついた。まるで何かが腐ったような、鼻が曲がるような汚臭がした。

「なに、この匂い…」

その匂いについ最近嗅いだことのある腐臭を思い出した。あの日カンザス州の農村にあるロゼとリズとかあさんで住んでいた家で嗅いだ匂いだった。その匂いにロゼは吐き気が込み上げ後退り、足がもつれてしゃがみ込んで口元を手で覆った。すると息を荒くしたリズがようやくロゼの元に追いついた。

「っはぁっはぁー…っはぁ、なにしてんのっ…っふぅ。なにこの匂い…臭いんだけど。」

リズはロゼの元に歩み寄り、やはり赤い屋根のファームハウスから滲み出る腐臭に花を摘む。

「なにしゃがんでんの?またなんか踏んだ?」

なかなか立ちあがろうとも、話そうともしない俯いたままのロゼにリズは眉を顰めて問いかけた。それにロゼはふるふるとゆっくり首を横に振ると、まるで喉元に鋭い刃でも突きつけられているかのように、重苦しく一言ずつ言葉を絞り出す。

「…かあさんの、におい…。」

「かあさんの匂い?この臭いのが?」

震える声で言葉を搾り出すロゼに、リズは怪訝そうに意味がわからないとでも言うように赤い屋根のファームハウスに近づいていく。

「すいませーん。誰かいますかー?」

リズはその腐臭が滲み出る赤い屋根のファームハウスに躊躇うことなくノックをして、少し声を張ってファームハウスの中にいるであろう人に話しかける。だがノックの音は、静まり返った家の中に吸い込まれていった。

「留守か?でも牧場にもいねぇよな…寝てんのか?」

もう一度ノックしようとするリズの左腕をいつの間にか立ち上がって斜め後ろに立っていたロゼが掴んで、強く引き寄せて止めた。

「うおっ…なんだよ?」

ロゼはぎゅっと腕を握る手の力を強めて、瞳を潤ませながらバっと顔を上げてリズを見つめる。

「いやなの…。」

「なにが?」

「…匂い、怖いの。」

リズは自分の腕を掴んでいるロゼの手が震えていることに気がついて、ロゼの視線に合わせるようにしゃがんで目を合わせる。

「なんで怖いの?」

先ほどよりも優しい声色で言った。

「かあさん、裏庭にいた時の…」

「裏庭…?」

リズは家を出てくる前に見た、あの死体の姿を思い出して、固まった。

「リズ…?」

ロゼに話しかけられたことにも気づかずに、あの思い出したくもないあのかあさんの姿と生々しい肉の腐った匂いが容赦なく脳内にフラッシュバックしていた。

「ふぅ…。」

俯いて顔色を悪くしてしまったリズのその様子を見て、ロゼも動けないでいた。しばらくして、リズが顔を上げるとロゼもそれに合わせるようにリズの方を向いた。

「もう平気?」

ロゼがそう聞くとリズはこくりと頷き、ゆっくりと地面に手をついて立ち上がる。それに続いてロゼも立ち上がった。2人は手についた芝生をはらうようにパッパと手を擦った。

「この家、入ってみよ。」

リズがロゼの方に真っ直ぐ目を合わせて言った。

「…うん。」

2人は恐る恐る汚臭の元であろう赤い屋根のファームハウスへと足を踏み出す。そして互いに目を合わせて頷き合い、覚悟を決めたようにリズがドアノブへと手をかける。

「開けるからね。」

リズはドアノブに手をかけたままロゼに最終確認とでも言うように、目を合わせてそう告げた。

「いいよ、開けよ。」

ロゼはそのリズの言葉に頷きながらドアの向こうを見据えるようにドアに目を向けた。そうしてリズはドアノブを回してドアを開けた。

「お邪魔します…。」

だがそこにはごく普通のファームハウスが広がっていた。生活感のあるキッチンに脱ぎ捨てられた作業服、まるで少し前までそこで人が過ごしていたかのように湯気の立っていないマグカップが置かれたダイニングテーブル。どこも異常など見受けられないごくごく普通の生活感のあるファームハウスだった。

「なんもないね。なんだ、ただなんか捌いた後だったんじゃないの?ここ牧場だし〜。」

その部屋の様子に安心したのかロゼは少しいつもの調子を取り戻して、軽い足取りでファームハウスの部屋に足を踏み入れた。

「見た感じなんもないな。」

リズも拍子抜けだったのか、肩の力を抜いて部屋の中へ足を踏み入れていった。

「こっちの部屋は寝るとこかなぁ?」

そう思い、奥にあったどこの家でも使われていそうな木製のドアノブに手をかけてドアを開けるとそこには異様な匂いを発する枕元が真っ赤に染まったベッドが2つ並んでいた。

「っひ…。」

まさかそんな光景が広がっているとは思わず、ロゼは足の力が抜けてその場にへたり込む。

「なに?なんかあった?」

ロゼのその様子を見て、キッチンを観察していたリズは本能で引き返すべきだと叫んでいたが、あんな恐怖に染まった顔をしたリズのそばに行かないなどという選択肢はなく、近づくごとに重くなっていくように感じる足を動かしてドアの向こうを見ないように目を背けてロゼの隣にしゃがんだ。

「なにを見ちゃったんだ?」

ロゼはリズの胸にしがみつくように顔を埋めた。そして引き返すべきだと言わんばかりにふるふると頭を横に振った。

「出よ…だめ…はやく、出ないと…。」

震えるロゼをリズは抱きしめて立ち上がらせ、寝室のドアを目を背けながら閉めた。

「わかった、はやくこの家から出よう。」

リズはロゼの言葉に従い、このファームハウスから出ることにした。リズはロゼの腰に手を回して支えるように抱きしめながら先ほどこの家に入るときに開けっぱなしにしたドアにゆっくりと歩いて行って、そのままなにも言うことなくファームハウスの外へ出た。そしてその場で止まることなくこのファームハウスに来る際に2人で走ってきた牧場の広大な芝生をゆっくりとだが着実に歩いて引き返していく。元々歩いていた黄色の道まであと半分ほどと言うところでリズに寄りかかりながら歩いていたロゼがリズから少し離れて、自分の足でしっかりと歩き始める。そしてしばらく2人でなにも会話を交わすことなく並んで歩いていたところに、ロゼがおもむろに口を開いた。

「ごめん。…僕が勝手に走っていかなければよかった。」

その言葉が私への許しを請うものなのか、自らを戒めるためのものなのか、判別がつかなかったが、ロゼは珍しく静かにそれだけを言って口を閉じた。

「いいよ。私もフェンスを登る前に止めるべきだったんだ。」

その言葉にリズも静かにそれだけを返して口を閉じた。そうして黄色の道と今ロゼとリズがいる牧場を隔てるフェンスまで到着した。

「登れる?」

ロゼがリズに聞いた。

「登れるって。行きも1人で登ってきたんだぞ?」

「そうだっけ?」

「そうだよ。」

リズは登れないと思われていたことに拗ねるような仕草を見せ、見てろとでも言うように先陣を切ってフェンスを登って黄色の道に華麗に無事に着地した。

「結構身軽じゃん。」

そう言いながらリズも持ち前の身体能力の高さでぴょんっと軽々とフェンスを登って黄色の道に豪快に着地した。

「結構は余計だ。」

そう言って、リズはロゼの額にデコピンをした。

「いてっ。ひどくない?」

2人は先ほどのファームハウスでの出来事を忘れようといつも通りに話すよう心がけて動揺と恐怖が表に出ないように繕った。

「じゃあオズってやつのとこいこーぜ。なんかドロシーっていうやつもいるって話だし。」

「そうだね〜。」

寄り道をしたことはなかったことにして、2人は並んでオズがいると言われた方向に向かって黄色の道をゆっくりと歩き始めた。


あの赤い屋根のファームハウスの寝室には、2つの血のついたベッドの上にニワトリと思われる骨が各ベットに一つずつ放置されていた。そしてそこには人間の眼と思われるちいさな球体が二つ転がっていた。


読んでいただきありがとうございました。続きは明日に公開する予定ですので、読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

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