竜巻
「誰がドロシーを殺したか?」第3話です。1話から読んでいただけるとより面白いかと思います。読んでいただけると嬉しいです。
<カンザス州の農村>
「…おいしかった。」
「食べれたならよかったよ。」
双子は豚肉のハンバーグを全て食べ終えて、一息ついていた。
「この後どうするの…?リズはどっかいくの…?」
ロゼがリズの方に目を向けて不安そうに震える声で尋ねる。
「どうしようか…とりあえず森の中でも回ってみるか?2人で。」
「…うん。」
相変わらずいつものような元気が戻らないロゼに、リズがわざとらしくいつもしないようなニヤリと挑発したような笑みを浮かべて言った。
「じゃあ行こっか。」
リズはロゼの手を引いてゆっくりと小屋を出て、森の中に歩き出す。しばらく2人とも喋らず、黙って手を繋ぎながら歩いていた。すると少し開けた平原にたどり着いた。カンザス州らしい光景だ。
「開けたね。このまま真っ直ぐ行ってみる?」
双子は平原に足を踏み入れたところで一旦足を止め、どの方向に行くか迷っていた。
「まっすぐでいいんじゃない?他に行くとこある?」
「ないな。」
「んじゃ真っ直ぐ行こ!」
ロゼはいつもの調子を取り戻してきたのか、いつもよりも控えめな笑みを浮かべてリズの腕を引いて平原を真っ直ぐ進もうとする。
「はいはい。行くから引っ張るな。」
「いいじゃんかー。」
リズは少し安心したかのように、口元を緩ませながらロゼを宥める。それにロゼもまんざらではなさそうに、ニヤニヤしながら頬を膨らませてむすくれた。双子はいつもの調子を取り戻して、仲睦まじく平原を2人揃ってゆっくりと歩いていく。平原の真ん中くらいに到着すると、地面に何か大きなものがあった跡があることに気づいた。
「なんだろこれ?」
「家っぽい跡だな…そういや前は村がこの辺にあったらしい。その時の跡なんじゃないか?」
ロゼは興味深げにその跡の上をくるくると歩き回る。
「そこそこおっきいお家だね!」
「まぁそうだな。これ以外の跡はないんだな。」
「まぁ僕たちの村も一軒一軒が遠いからねぇ〜。森挟んでもう一軒あるとかじゃない?」
「そんなもんか?」
キョロキョロと周りを見渡すリズにロゼはうんうんとうなずく。リズも家の跡を踏み、少し見てまわった。するとヒュゥウと強い風が吹いた。
「うわっ…風つよ!あっはは!」
ロゼはその風を楽しむようにその長い髪の毛をたなびかせ、くるくるとその場で踊るようにまわった。
「強すぎないか…!?ハリケーンでも来るんじゃ…うわっ!」
リズは驚いたように土や石が目に入らないように目を細め、髪の毛を抑えながら空を見上げた。すると双子を巻き上げるほどに強い竜巻がその場に現れた。
「っ…!?!?」
リズは声を出すこともなく、困惑と焦りに竜巻の中でジタバタと下に向かって手を伸ばす。
「すごいよリズ…!!!僕たち飛んでるー!!」
ロゼは驚きながら興奮を抑えられない声色で風に身を任せながらキャーキャーと叫んでいる。次第に2人の視界は完全に竜巻に奪われ、地面すら見えなくなっていった。やっと視界が開けたかと思うと、見たこともないような知らない景色が広がっていた。双子たちがこれまで生まれ育ったカンザス州の農村付近ではないことだけが出しかだった。
<オズの国>
「ねーねー!見てよリズー!!お空が綺麗なピンク色だよ!」
ロゼは危機感を少しも感じていないようで初めての光景に興奮して飛び跳ねながら空を指さして、リズの腕を掴んで話しかけている。
「わかった、わかったからその手一旦離せっ…、」
ロゼが飛び跳ねるたびにリズにも振動が伝わってまともに立ち上がれなかった。
「え?ああ、ごめんごめん!はいっ。」
ロゼはリズを振り返り、立ち上がれずにいるリズを見てパッと腕を掴んでいた手を離しておどけて見せた。
「てかここどこだよ?空きれいか…?これ。」
リズはゆっくりと立ち上がり、あたりをキョロキョロと見渡して空を見上げたて怪訝な顔をした。
「きれいじゃん!てかピンクでちょーかわいいしっ!」
ロゼはまだ興奮冷めやらぬようで、落ち着く間もなくあたりをぴょんぴょん駆け回る。
「ねーねー、リズ。お空はピンクなのに青いお花しかないよー?」
「はぁ?ただ単にその花の群生地って話じゃないのか?」
「でもフ花壇のフェンスも全部青いよー?」
「フェンスも?」
リズはもう一度あたりを見渡した。ロゼの言うようにあたり一面には青い花が咲いている青いフェンスの花壇、青い葉っぱをした木、青い木で作られた看板。確かに青以外の色がほとんど見当たらなかった。唯一、今双子たちが立っている地面の土だけが茶色かった。
「…真っ青だな。」
リズは静かにそう呟くと観察するようにあたりをゆっくりと歩き回る。すると少し先に青い家がいくつか見えた。おそらく集落のようなものだろうと伺える。リズはそれを確認すると、ロゼがいるところまで早足で歩いて戻っていく。
「ロゼ。向こうに集落っぽいのがあった。ちょっといってみよ。」
しゃがんで青い花を見ていたロゼはそれを聞くと元気よく立ち上がり、リズの顔に自分の顔を鼻と鼻が触れ合う寸前まで詰め寄り、目をキラキラさせて満面の笑みで口を開いた。
「青いお家がいっぱいあるの!?行こーっ!見てみたい!」
「はいはい、今から行こうね。一回離れてくれる?」
リズが呆れたようにそう言うと、ロゼはガバッと一気に距離を取って早足で先ほどロゼが向かっていた方向へ駆け出した。少し言ったところで止まって振り返ってリズにを見て腕を大きくふった。
「ねぇまだー?てかどっちー!!」
リズはゆっくりとロゼの後を追うように歩き出しながら、顔を綻ばせている。
「今行くからちょっと待ってろ。そっちの道まっすぐで合ってるよ。」
そのままのスピードで歩みを進めるリズを待ちきれないとでも言うようにロゼが走って戻ってきた。
「なに、行かないの?」
「リズもはやくいこーよっ!」
「わかったから、ほら」
ロゼがリズの手を取って握る。それに応えるようにリズもロゼの手を握る。やがて双子は集落の入り口らしき青い看板が立っているところまで来た。
「全部青色だねー?」
ロゼが先に集落の中へ足を踏み入れ、青い家をじっと見つめる。どうやら木に青色の塗料を塗って青色にしているのではなく、青い木で作られた家のようだ。その全てが人間が住むには少し低天井すぎるように見える。そして、この集落は木でできた家がほとんどで、その多くが一階建ての三角屋根の質素な家であった。
「あの家は?」
リズも集落を端から端までざっと見ていると、三角屋根がばかりの集落のなかに1軒だけ奇妙なキノコのような模様をした丸い屋根の家があることに気がついた。そしてその家を指差してロゼの方を振り返る。
「キノコのお家だ!かわいいじゃんか〜。」
「いやそう言うことじゃなくて、あの家だけ変じゃないってこと。」
「そう?僕あのお家好き〜!」
「うん、もういいや。ちょっと行ってみよ、ここがどこか聞かねぇと。」
リズはスタスタとその青いキノコの家にむかって足早に歩いていく。
「僕も行く〜!!」
ロゼもそれに続いて楽しそうにニコニコとリズの隣に並んで歩く。そうして、青いキノコの家の前に到着すると、リズはインターホンがないかキョロキョロと探す。
「インターホンないんだな。」
「ノックすればいいじゃん。」
インターホンが見つからずどうすればいいか迷っているリズを置いて、ロゼはドアに近づき躊躇うことなくコンコンとノしゃがんでノックする。
「ねぇねぇー!誰かいる〜?」
数秒待つと、背の小さいショートカットをした同じ見た目の女の子が2人、恐る恐る顔を出した。2人とも青いワンピースを見に纏っていて、白と黒の異なった色だがお揃いのリボンを腰に巻いていた。その女の子は10歳ほどの見た目で髪は美しい空色で、背丈は人間でいう成人男性の膝の高さほどしかなかった。
「…だぁれ?」
白のリボンを巻いた女の子が小さな声で問いかける。
「僕はねー、ロゼって言うの!」
それに眩しいほどの笑顔でロゼがしゃがみながら答える。その後ろからリズも近寄って来てしゃがむ。
「私はリズだよ。」
空色の髪の毛をした2人の女の子は警戒したように2人でぎゅっと手を繋ぐ。
「何しに来たの。」
今度は黒のリボンを巻いた女の子が先ほどの白のリボンの女の子よりも高い声で尋ねる。
「ここがどこか知りたいんだ。地名でもなんでもいい、教えてほしい。」
リズが丁寧に2人の女の子に頼み込んだ。すると2人の女の子は顔を見合わせた。
「ドロシーみたいなこと言うのね。」
白のリボンを巻いた女の子が言った。
「ドロシーって誰ー?僕ロゼだよ!」
ロゼがニコニコした表情を少し不思議そうな表情に変えて尋ねた。
「ドロシー、知らないの?」
黒のリボンを巻いた女の子が驚いたようにロゼの方に目を向けた。
「知らな〜い。」
「私も聞いたことない名前だな。」
それを聞くと空色の髪をした小さな女の子たちが互いに顔を見合わせてヒソヒソと2人で何やら話をはじめた。
「何話してんのー?」
そのヒソヒソ話の内容が気になったのかロゼが2人の顔に自分の顔を近づけるようにして割って入った。空色の髪をした女の子たちはビクッと驚いて、一歩後ろに下がって距離を取った。
「…あなたたち、ドロシーと同じような気配がするの。」
白のリボンを巻いた女の子がロゼの目を見つめて言った。
「本当にドロシーを知らないの?」
黒のリボンを巻いた女の子がリズを見つめて言う。
「知らないよ。」
リズがそう言うと、それに続くようにロゼもうんうんと頷いて返す。
「なら同じところから来たの?竜巻に乗って。」
白いリボンを巻いた女の子がロゼとリズが竜巻で飛ばされて初めてここに来た場所を指を指して続ける。
「あそこにね、悪い東の魔女さんの家があったの。それを竜巻で飛んできたドロシーがぺちゃんこにしてやっつけてくれたの。」
それにリズは食い入るように問いかける。
「そのドロシーは今どこにいる?ここはカンザスじゃないのか?」
空色の髪をした女の子だちはまた互いに顔を見合わせてからすぐにロゼとリズを向き直った。そして早口でさっさと会話を切り上げたいとでも言うように言う。
「知らない。オズのとこに行くって言った後は会ってないから。」
「そうよ、私たち知らないの。ここはマンチキンの国よ。もういいでしょ、さよなら。」
「オズのとこに行きたいなら黄色の道だから。じゃあね。」
そうして、早口で言い終えるとすぐに青いキノコの家の中に戻っていってしまい、鍵を閉められてしまった。どっちが何を喋っていたかはほとんど同時に喋っていたので、ロゼとリズには判別できなかったが内容だけは聞き取れた。
「ありゃりゃ…恥ずかしがり屋さん?」
ロゼが驚いたかと思うと次はしょんぼりと表情をころっと変えてしゃがんでいた姿勢から立ち上がった。リズも立ち上がって青いキノコの家を背に歩き出す。
「さぁ?よそ者に厳しいんじゃない?」
「きびしーの?」
黄色の道を探すように歩いていくリズの背をロゼも早足で追いかける。
「まぁとりあえずここがカンザスじゃないってことはわかったし、行けばいいとこもなんとなくわかったしいいんじゃない?」
「そうかなぁ…仲良くしたかったー!」
先ほどの2人の女の子に対して冷めた様子を示すリズとは違い、ロゼは駄々をこねるように口を尖らせて腕を頭の後ろで組んで歩いていく。すると何かを踏んだような感触があった。
「あれ?なんか踏んだかな?」
ロゼが足元を見てみると小さな指でつまめるほどの丸い物体が落ちていた。
「石でも踏んだんじゃない?」
リズは興味なさげに無視して黄色い道を探す。
「なんだろー、これ。」
ロゼは指でつまみ上げて観察する。
「…?ひよこ?」
それは瞳孔にひよこのような模様がある目だった。
読んでいただきありがとうございました。また数日以内に続きを投稿する予定です。次も読んでいただけると嬉しいです。




