第8話 疑惑
市場の土地を買うと決めてから、私は屋台について具体的に考えていた。
まだ契約が決定したわけではないが、屋台用のメニューや価格、仕入先を決めていく。
屋台ということで安く提供したい。
何種類もの肉を購入し、試作を繰り返す。
それから数日が経過した。
勤務を終えたサーシャとルディが、自宅に顔を見せに来てくれた。
定年退職しても、私のような老人を訪ねてくれる優しい子たちだ。
せっかくだから、二人に試作中の串焼きを食べてもらうことにした。
三人で食卓を囲む。
「先生。残念ですが、私は明日王都へ帰還します」
「色々と手伝ってくれてありがとう。サーシャのおかげで、第二の人生が決まったよ」
「私の名前ならいくらでも使っていいですからね」
「ありがとう、サーシャ。でも大丈夫だよ。君たちの名誉を傷つけるようなことはしないさ」
「先生……」
サーシャが頬を紅潮させた直後、ルディを睨みつけた。
「ルディ! 先生の屋台をしっかり見なさいよ!」
「分かってます、サーシャさん」
「毎日百人並ばせなさい」
「……無理に決まってるでしょう」
「もし先生に何かあったら、あなた覚悟しなさいよ。血反吐どころじゃ済まさないわよ」
「もう、心配しすぎですよ。ルマート様の串焼きが失敗するわけないじゃないですか。本当に美味しいですよ?」
先程から言い合う二人だが、串焼きを食べる手は止まらない。
サーシャは三本、ルディは五本食べている。
若者が食べる姿を見ると、嬉しくなるのは年を取った証拠だ。
ルディが六本目の串を手に取った。
「ところで、ルマート様。土地の代金は決まったのですか?」
「明日、そのことを話し合う予定なんだ」
「ちょうどよかった。念のために調べておきました」
四本目を取るサーシャの手が止まった。
「あら、ルディ。できるじゃない」
「もちろんです。ルマート様の取引に不審な点があったら、怒り狂う人がいますので」
サーシャのことなのだが、本人は気にせず串を口に運んでいる。
「で、いくらなのよ?」
「役場で直近の取引金額を調べました。一区画で約百万リアです」
「あら、商用地としては安いじゃない」
「ええ、治安の悪さが影響しているようです」
二人の会話を聞いて、私は違和感を覚えた。
「治安の悪さ? もしかして……」
「はい。ルマート様のお考えの通りです」
私の考えを見抜いたルディが頷いた。
「ふーん、なるほどねえ。汚いわねえ」
サーシャも同じ考えのようだ。
意図的に治安を悪化させ、取引価格を下げているのだろう。
「そういえば……。フヴィオさんの奥様は、怪我をしたと言っていたな。もしかして……」
「襲われたということですか?」
「その可能性はあるだろう。初めから計画していた可能性がある。あの辺一帯は……確かマフィアのコルサ一家が牛耳っていたな」
「ルマート様、小隊を派遣します」
いくら騎士団とはいえ、街の全ての犯罪を把握して摘発することは不可能だ。
犯罪防止に努めているが、騎士団はどうしても事後対応になる。
「それには及ばないよ、ルディ。明日はちょうどフヴィオさんと契約について話すから、ついでにコルサ一家を探ってくるよ」
「そ、それは危険すぎます!」
珍しくルディが声を張り上げた。
「ありがとう。でも大丈夫だよ。私の店だからね。今後のこともあるし、自分で解決する。そうでなきゃ裏路地で屋台なんてできないさ。はは」
サーシャが私の顔を見つめながら、大きな目をしばたたく。
「あ、あの……先生。ルディが言ってるのは、マフィアが危険ということです」
「え? なぜだい?」
「先生が本気を出すと『皆殺し』にしてしまうので……」
「あ、あのねえ、そんなことやるわけないって――」
サーシャもルディも冷たい眼差しで私を見つめている。
この子たちは私を何だと思っているのだろうか。
◇◇◇
酒場の個室で、二人の男たちが密談していた。
「おい、あの土地はどうなった?」
「それが若い衆が、騎士団に捕まっちまったんだよ」
「んだと! ちっ、使えねーな! 買収を急げ! ボスがお怒りだぞ!」
「ボスが!?」
「俺たちの命が危ねーぞ。強引でもやれ」
「わ、分かった」
二人はすぐ酒場を出た。
◇◇◇




