第4話 騎士団の不文律
「そうか、私はもう騎士ではなかったな」
とはいえ、放っておくわけにはいかない。
屋台でロープを借りて拘束しようと思ったところで、笛の音が聞こえた。
この笛は騎士団のものだ。
「おい! 何をしている!」
「ここで騒ぎがあると通報があったのだが?」
二人組の騎士が走って近づいてきた。
「この男たちが屋台のご主人を脅していましてね。剣を抜いたから制圧したのです」
私が事情を伝えると、若い騎士が地面に倒れる男どもに視線を向けた。
「あんたが一人で四人を? 嘘くさいが、まあいい。詳しく聞かせてもらおう。爺さん、あんたも一緒に事情聴取を――」
「ま、待て!」
もう一人の騎士が、若い騎士を制した。
この騎士の顔は見覚えがある。
「ん、君は確か、第六小隊の……」
「はい! カミッロと申します!」
「カミッロ君。騒ぎを起こして申し訳ない」
「とんでもないことです! こちらこそ、ルマート様のお手を煩わせてしまい申し訳ございませんでした!」
「私はもう騎士ではないよ。一市民だ。だから事情聴取に協力したいのだが、ちょっと時間がなくてね。申し訳ないが、後ほど出頭してもいいかい?」
「ルマート様からは、今お伺いしたお話で十分でございます。聴取は不要です」
「そうか、ありがとう。こちらのご主人はどうなるのかな?」
「被害者ですので、お話を聞かせていただきます。すぐに別部隊が来ます。ご安心ください」
「助かるよ。ありがとう」
「とんでもないことでございます!」
「カミッロ君。第六小隊のスターレ小隊長に、よろしくお伝えください」
「ハッ! 小隊長に伝えます!」
私は騎士の二人にお辞儀をして、その場を後にした。
改めて不動産探しだ。
◇◇◇
ルマートを見送った二人の騎士。
一人はルマートの背中に向かって、敬礼の姿勢を崩さない。
「あのー、先輩。引退したばかりの一般騎士って、もしかしてあの人なんですか?」
「そうか。お前はつい先日配属されたばかりの見習いか。知らされていないか……」
「ど、どういうことですか?」
騎士は敬礼を崩さず、見習い騎士に視線を向けた。
「お前、尊敬する騎士はいるのか?」
「はい! 氷剣サーシャ将軍! 豪剣ジルベール将軍! 我が隊の雷剣ルディ将軍! そして、神剣グランツォ総帥の四騎士です!」
「まあそうだな。見習いはみんなそう言うんだ。ルマート様はな、その四騎士の師匠なんだよ」
「え?」
「ルマート様は、お前が目指す四騎士に剣を教えたお方だ。そして、今でもその強さは健在なんだよ」
「そ、そんな人がなぜ一般騎士なんですか!」
「若い頃から騎士の待遇を訴え続けたからだ。それで元老院から報復を受けた。四騎士がそれぞれ役職に就いてからは、何度も何度も元老院に掛け合ったという。だが、ルマート様の昇格は一度も承認されなかった。騎士団の人事は元老院の承認が必要なんだ」
「そ、そんなことが……」
「お前、騎士の給与に満足しているか」
「は、はい。そりゃ命がけの職業ですからね」
「昔は違っていた。酷いもんだったさ。それをルマート様が変えたんだよ」
「ど、どういうことですか?」
「現在の給与体系も、様々な手当も、全てルマート様が主張してくださったのだ。我々が安心して活動できるのは、あの方の犠牲の上に成り立っている」
「そ、そうだったんですね……」
「戦場で何度も活躍されて、仲間を助け、命がけで国を救った。様々な事件も解決された。にもかかわらず、一つの勲章もなかった。それでも四十五年間……、あのお方は真摯に騎士を全うした。それがルマート様なんだ」
騎士は声を震わせながら涙を拭う。
「いいか、小僧。忘れるな。我々はルマート様のためなら何でもする。それがロルト騎士団の不文律だ」
「は、はい!」
若い騎士がルマートの背中を見つめる。
自然と敬礼していた。
◇◇◇




