第33話 串焼き屋への依頼3
私は廊下の殺し屋を全員倒した。
噂通りハルファドの殺し屋は腕が立つ。
「よく訓練されていたよ」
廊下の突き当たりの部屋まで進む。
気配を消して扉の前に立つと、殿下を始末するという言葉が聞こえた。
私はノブに手をかける。
そして、静かに扉を開けた。
「言質は取った。そのハルファド金貨が何よりの証拠だ」
「だ、誰だ!」
部屋にはヴァルシア公とハルファド大使の二人、配下がそれぞれ二人ずつの四人、合計で六人の姿があった。
「ヴァルシア様!」
ヴァルシア公の前に二人の兵士が立ち、勢いよく剣を抜いた。
「大使閣下! お下がりください!」
ハルファド大使の前にも配下の殺し屋が立ち塞がる。
殺し屋は私に警戒しながら、扉に視線を向けた。
「貴様、ここまでどうやって来た?」
「逆に質問だ。どうすればここまで来られると思う?」
「まさか……」
私は殺し屋から奪ったカトラスを見せつけた。
その意味を察した殺し屋が、即座に剣を抜く。
「大使閣下! 外は全員殺されています! 今すぐお逃げください!」
殺し屋が二人同時に襲いかかってきた。
私はカトラスを構え、二人の剣を弾く。
そして、扉へ走る大使に向かって剣を振った。
もちろんただの牽制だ。
「逃がさぬよ」
「くっ! くそっ! この老人を何とかしろ!」
大使は叫びながら部屋の奥へ逃げていく。
行き場は部屋の奥しかないだろう。
逃がしはしないし、生かして捕らえる。
大使を守る殺し屋たちは、私を警戒しながらヴァルシア公の兵士を睨んだ。
「貴様ら、ぼさっとするな! 協力しろ!」
だが、兵士たちは動かない。
「こ、この人は……」
「まさか、騎士ルマート……」
ヴァルシア公の私兵は数年に一度、スヴェロイ騎士団と合同訓練を行う。
私が最後にこの城へ来たのは合同訓練のためだった。
どうやら私のことを覚えているようだ。
「ヴァルシア様! お逃げください!」
「逃がすと思うか?」
「くっ!」
「そういえば、こういう時はどうすればいいか、君たちには教えてなかったな」
兵士たちは私から視線を外さない。
額から脂汗が流れている。
「投降するんだ」
兵士たちが顔を見合わせた。
「投降すれば命は助ける。しかし――」
「ふざけるなっ! こいつを殺せ!」
ハルファドの殺し屋が、私の声を遮り二人同時に襲いかかってきた。
私はカトラスを二回振る。
「だはっ!」
「ぐぼっ!」
真っ二つに斬られた身体が、ゆっくりと床に倒れた。
「抵抗すればこうなる」
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
大使が腰を抜かして尻餅をついている。
そして、そのまま泡を吹いて倒れてしまった。
どうやら気絶したようだ。
「く、くそぉぉぉぉ!」
兵士二人が剣を振り上げた。
戦う意思のようだ。
「勇敢と無謀は違う。仕える人物を間違えたな……」
私は再度カトラスを振った。
二人は床に崩れ落ち、ドスンと無慈悲な音を立て血溜まりに沈んだ。
もう二度と起きることはないだろう。
ヴァルシア公がじりじりと後ずさりする。
「わ、私をどうするつもりだ!」
「ハルバルト殿下に引き渡す」
「か、金なら出すぞ。そ、そうだ、この金貨一箱はどうだ? 一生遊んで暮らせるぞ?」
ハルファド金貨が入った箱を指差すヴァルシア公。
その指は大きく震えていた。
「一生? もう老い先短い老人に、そんな大金は要らぬよ。それよりも良き国を後世に残す。このほうが重要だ」
「ま、待て! 私が戴冠した暁には将軍、いや、総帥にするぞ!」
「串焼き屋の店主で満足しているよ」
「待て!」
「己の欲と民の生活、どちらが大切なのかよく考えるのだな」
「がはっ!」
私はヴァルシア公の首筋に手刀を放った。
気絶したまま床に倒れている。
ヴァルシア公は間違いなく死罪だ。
それどころか、これだけのことをやれば家も断絶だろう。
「さて、ルディを呼ぶか」
気絶しているヴァルシア公と大使を縛り上げ、私は一度城の中庭に出た。
合図のための狼煙を上げる。
しばらくすると、外に待機していたルディ率いる騎士団が入城してきた。
後は全て殿下と騎士団が処理する。
私の仕事はこれで終わりだ。




