↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の老騎士、定年退職して裏路地で屋台を始める  作者: 犬斗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/34

第31話 串焼き屋への依頼1

 翌日、市場で仕入れを終えて屋台へ向かうと、裏路地に二人の人影が見えた。


「ルマート様。朝から申し訳ございません」

「ルディか。どうしたんだい?」


 ヴァルシアの将軍ルディだ。

 そして、ルディの隣に立つ人物が、私に向かって深く頭を下げた。


「ルマート先生、ご無沙汰しております」

「君は! ラウル師団長!」

「実はルマート先生にご相談があり、参上いたしました」


 ラウルは近衛師団長だ。

 近衛師団はスヴェロイ騎士団の一組織で、王室専門の警護を行う。

 私が王都に配属されていた数年間、ラウルに剣を教えた。

 当時すでに隊長だったラウルは、今や四騎士(クトゥルテス)に匹敵するほどの達人に成長した。


「ルマート先生。誠に恐れ入りますが、場所を変えることは可能でしょうか?」

「そんなに時間は取れないがいいかい?」

「ありがとうございます。屋台は部下が見ておりますので、ご安心ください」


 私たちは表通りに移動し、用意されていた馬車に乗り込んだ。


「馬車を走らせながらお伝えします」

「ああ、分かったよ」


 馬車内の会話は安全だ。

 盗聴の心配がないため、重要な話をする際によく利用される。


「殿下がヴァルシアに来た理由は、式典の出席です。ですが、本来の任務は調査です」

「殿下が調査だって?」


 王族が国家の任務に就くことはある。

 しかし、それは余程のことだ。

 ラウルが神妙な表情で、私を見つめた。


「他言無用でお願いします。実は……、ヴァルシア公は他国に内通しております」

「なんだって⁉︎」


 ヴァルシアはスヴェロイ王国の第三都市だ。

 その領主のヴァルシア公は王家の血筋で、王位継承権を持つ。

 それが内通となれば国家規模の大事件といえる。


「ヴァルシア公は、我が国の情報をハルファド帝国に流しています。さらに、我が国の領海での密漁、海賊行為も黙認しています」

「ハルファド帝国……。海を越えた南の大国じゃないか。しかし、そんな謀反とも言える危険な行為で、ヴァルシア公に見返りはあるのか?」

「莫大な資金提供です。ヴァルシア公はその豊富な資金力を元に、将来的に王位を狙うのでしょう」

「そこまで分かっていて、拘束できないのか?」

「証拠が足りません。そこで情報局がヴァルシア城へ潜入したのですが、消息不明となりました」


 情報局は騎士団の情報収集を一手に引き受ける。

 潜入に関して情報局を超える組織はない。

 だが――。


「ハルファド帝国といえば、国家機関に暗殺組織があったな。ヴァルシア公の警備も行っていると考えるのが妥当か」


 消息不明ということは、すでに殺されているだろう。

 私の考えを見抜いたかのように、ラウルが小さく頷いた。


「警備の厳しいヴァルシア城ですが、潜入するチャンスがあります。ヴァルシア公主催の晩餐会です。ハルファド帝国の大使も参加します」

「なるほど、晩餐会か。しかし、どうやって侵入するのだ? 警備は厳重なんだろう? 来賓は全てチェックされるはずだ」

「晩餐会は立食パーティーで行われるため、ヴァルシアから多くの料理人を招聘することが決まっております」

「料理人?」

「はい。この料理人として潜入します。目的は内通の証拠の確保です」

「おいおい、さすがに料理人が調査なんて無理じゃないか?」

「一人いるのです。晩餐会の料理人として推薦できる実績があり、潜入調査が可能な能力を持ち、一人でも危険を切り抜けられる()()()()が」


 隣でルディが笑みを浮かべている。


「どう考えてもルマート様ですね」


 私への相談とは、晩餐会の潜入だった。


「昨日殿下がいらしたのは、料理の確認だったのか……」

「はい。自信を持って推薦できると仰っておりました」


 このままヴァルシア公を放置すると、ヴァルシア市民の生活はすぐにでも脅かされる。


「密漁や海賊行為で漁師が危険に晒され、漁獲量が落ちる。そうなれば、食材の価格が上がり、市民の生活に悪影響を及ぼすか……」


 私はもう騎士ではないが、これを見過ごすほど衰えてはいない。

 それに屋台を始めたことで、街には様々な人生があることを知った。

 くだらない権力争いよりも、真に守るべきものは市民の生活だ。


「分かった。引き受けよう」

「あ、ありがとうございます。詳細は追ってご連絡差し上げます」


 市街地を走る馬車が、裏路地の前に到着した。

 私は馬車を降り、いつものように屋台の仕込みを開始した。


 ***


 殿下の推薦によって、私は晩餐会の料理人として承認された。

 高貴な料理が並ぶ晩餐会に、よくぞ串焼きが入ったと感心したが、郷土料理ということで申請したそうだ。

 食材や調理器具は、毒の混入を防ぐために全て主催側が用意するという。


 そして、いよいよ晩餐会当日を迎えた。


「ヴァルシア城か。最後に入ったのは数年前だったな」


 久しぶりに城門をくぐり、係員の案内で晩餐会の大広間へ直行した。

 さっそく仕込みの開始だ。

 料理人には監視がつき、調理工程を厳しくチェックしている。


 私は炭に火をつけ、肉を切り、串に刺す。

 下味をつけた串を焼き、仕上げにハーブをまぶす。

 完成した串焼きを試食として監視員に手渡すも、「下品な食い物だ」と食べもせずに捨ててしまった。

 私の監視は外れだと言わんばかりに、他の監視員を羨ましそうに眺めていた。


 晩餐会が始まると、次々と来賓が訪れる。

 大広間の上座には、殿下とヴァルシア公が座っており、挨拶のための行列ができていた。

 その中に、ハルファド帝国の大使の姿を見つけた。


 立食パーティー形式の晩餐会は、自由に食事を取ることができる。

 串焼きは意外と好評で、焼いていく端からなくなっていく。

 特に高貴な身分の来賓が喜んでいた。

 珍しいのだろう。


 殿下はこの会場で何も口にしないはずだ。

 殿下と視線が合う度に、恨めしそうな表情を浮かべていた。

 全てが終わったら、殿下にはまた食べてもらうつもりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。