第27話 海老の串焼き2
「もし本気で騎士を目指すなら、まずは両親を説得しなさい。それすらできないようじゃ、騎士になんてなれない」
「そ、そうですよね」
「脅すわけじゃないが、騎士の訓練は想像以上に辛いぞ」
「は、はい」
「だがそうだな……。もしご両親を説得して本気で騎士を目指すというのなら、一つだけアドバイスをしてあげよう」
ハンスがようやく顔を上げた。
まだ迷いのある瞳だ。
私は仕込みを終えた短剣海老の串焼きを、焼き台に一本置いた。
香ばしい匂いが広がる。
「君が獲った短剣海老の串焼きだ。食べていきなさい」
「は、はい! ありがとうございます!」
ハンスが短剣海老の頭からかぶりついた。
バリバリと小気味よい破砕音が鳴り響く。
「うわあ、美味しいです」
さすがは漁師だ。
頭が美味しいことを知っている。
「ハンスはどうして騎士になりたいんだ?」
「国を守り戦う姿がかっこいいなあって。それとやっぱり、四騎士の皆さんに憧れています」
四騎士は国民に絶大なる人気を誇る。
彼らのおかげで騎士の人気が上がり、騎士を目指す若者が増えた。
四騎士が台頭するまで、騎士に未来はないと言われていたほど人気がない職業だった。
だから、私としてもこの人気は素晴らしいと思っている。
しかし、安易に騎士の道へ進もうとする者が増えたことも事実だ。
「私としては、漁師も素晴らしい職業だと思っているよ」
「え?」
「騎士は民のため、国のために命がけで戦う」
「はい」
「漁師だって自然を相手に戦う命がけの職業だ。いや、毎日海に出る漁師のほうが危険だろう。天気を読み、荒波を乗り越え、魚と戦う。格好いいじゃないか」
ハンスが手を止めて短剣海老を見つめている。
「漁師が……かっこいい」
「ハンス。なぜ騎士を目指すのか、もう一度よく考えてみなさい」
「は、はい」
騎士を目指す者の中には、格好いいという理由で騎士学校に入学する者もいる。
動機について私は否定しない。
どんな理由でも、行動することは立派だと思っている。
しかし、生半可な気持ちでは騎士になれない。
夢や希望を持って入学しても、訓練についていけず、辞めていく者が後を絶たないからだ。
***
ハンスが屋台に訪れてから数日が経過した。
あれから海が荒れており、漁師たちは漁には出られないという。
そのため、私は肉だけを扱っていた。
「ルマートさん! あんた、息子に何を言った!」
仕込み中の屋台にベルガーが姿を見せた。
怒気を含んだ声で、表情も険しい。
「ベルガーさん、どうしたのですか?」
「ハンスが突然騎士になりたいなんて言い始めたんだ! あんた元騎士だっていうじゃないか! 言いくるめたんだろう!」
ハンスが夢を伝えたようだ。
相当な覚悟を持って伝えたのだろう。
「確かに騎士になりたいと相談されました。騎士を目指すなら、ご両親を説得する必要があることを伝えています」
「や、やっぱり!」
「ですが、私は勧めてもないですし、止めてもおりません。どうして騎士になりたいのか、もう一度よく考えるように話しました」
「だが、騎士になると言っているぞ!」
「ベルガーさん、騎士の訓練をご存知ですか?」
「し、知るわけないだろ!」
「過酷ですよ。それこそ訓練生たちは死ぬと思うかもしれません」
「だ、だからなんなんだ」
「その訓練を作ったのは私なのです」
「な、なんだって?」
「私が一番過酷さを知っています。安易に勧めたりしません。迷いがある状態では、絶対に乗り越えられません。それほどまでに厳しい訓練なのです」
私は温かい麦茶を淹れてカウンターに置いた。
そして、ベンチに座るようにベルガーを促す。
「もちろん、漁師という職業も命がけですから、騎士と比べることはできません」
ベルガーがベンチに座った。
話を聞いてくれるようだ。
「ベルガーさんがハンスに漁師の才能を見いだしているのであれば、そちらのほうがいいかもしれません。ただ、迷いが生じている状態で海に出れば、命を落とす危険もあるのではないでしょうか?」
「そ、それは……そうかもしれん。海は危険だ」
「明日も漁は厳しいですか?」
ベルガーが麦茶に口をつけた。
少し冷静になったようだ。
「そ、そう……ですな。もう数日は時化ているでしょう」
「ではこうしましょう。明日、私がハンスに騎士の訓練を体験させます。ベルガーさんも見学してください。それでハンスの本気度が分かるはずです」
「訓練?」
「ええ。実際に経験して訓練についていけないと感じたら、綺麗さっぱり諦められるでしょう。それでも騎士になりたいというのであれば、その想いは本物です」
「わ、分かりました」
ベルガーが麦茶を飲み干し、ベンチから立ち上がった。
そして姿勢を正す。
「ル、ルマートさん。怒りに任せてしまい、大変失礼しました」
「いえ、大切なご子息のことですから、ご心配は当然です。むしろその絆が羨ましいですよ。ははは」
「いい年してみっともないところをお見せしました。本当に申し訳ございません。明日、息子をどうかよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ベルガーが深く頭を下げて、表通りに向かって歩いていった。




