↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の老騎士、定年退職して裏路地で屋台を始める  作者: 犬斗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/33

第26話 海老の串焼き1

 日の出を迎え、私は仕入れのために朝の市場に足を運んだ。

 所狭しと肉、魚、野菜が並び、大勢の人で賑わっている。

 いつものように、うちの定番メニューである黒毛牛(シュバーク)黒長豚(フォルネロ)赤羽鶏(ポローレ)の肉を購入した。


「ルマートさん! おはようございます!」

「おはようございます、ベルガーさん」


 顔見知りの漁師ベルガーが声をかけてきた。

 市場に通うようになって知り合ったベルガーは、腕のいいベテラン漁師だ。


「ルマートさん。今日はいい短剣海老(フラグス)が揚がりましたよ」

「ほう、これは大きいですね」


 私の屋台は肉がメインだが、時折海鮮も扱っていた。

 ヴァルシアは国内でも有数の水揚げ量を誇るヴァルシア港があり、海の幸が豊富だからだ。


「この短剣海老(フラグス)は息子が獲ったんです」

「息子さんが? おいくつですか?」

「十八になりました」

「十八歳で漁ですか。それは凄いですね」

「あいつは筋がいい。いい漁師になりますよ。ははは」


 ベルガーが誇らしげに笑う。

 私に家族はいないが、ベルガーの気持ちは分かる。

 弟子たちが偉業を成し遂げた時と同じ気持ちだろう。


「では、お祝いもかねて短剣海老(フラグス)を二十匹いただきましょう」

「ありがとうございます!」


 私はそのまま屋台に向かい、仕込みを始めた。

 肉の串焼きは、一口大に切り分けた肉を四つ使用する。

 慣れた手つきで肉を切り串に刺す。


「さて、短剣海老(フラグス)の仕込みだ」


 短剣海老(フラグス)は肉と違い、贅沢に一匹丸々串焼きにする。

 その分価格は上がるが、見た目が重要だ。


 短剣海老(フラグス)の殻を剥き、背わたを取る。

 頭と尻尾はそのまま残す。

 短剣海老(フラグス)は焼くと背が丸まるので、一直線になるように尻尾から串を通す。


 そして、一本ずつ刷毛でオリーブオイルを塗っていく。

 こうすることで焦げ付かず、綺麗な焼き色がつく。

 最後に塩と特製ハーブをまぶす。


「試しに一本焼いてみるか」


 焼き台に置くと、透明がかった青い身が徐々に白くなっていく。

 頭と尻尾に残した甲殻は赤く変色し、海老特有の香ばしさが広がる。


「これは……旨そうだな」


 自分で焼きながら、その見た目に感動してしまった。

 白煙に乗った海老の香りが裏路地を漂う。


「うわ! めっちゃいい匂い!」

「海老の匂いだ!」

「これから仕事なのに! 食べたい!」


 通行人が屋台を見ていく。

 なんだか申し訳ない気持ちになってしまう。


「そろそろ焼き上がったかな」


 私は焼き上がった短剣海老(フラグス)を口に運ぶ。

 弾力のある食感、口に広がる海老の肉汁、私の特製ハーブとの相性は抜群だ。


「これは旨い。もっと仕入れてもよかったかな。はは」


 自信を持ってお勧めできる味だ。

 なにせ、私自身食べる手が止まらない。


「これは定番メニューにしてもよさそうだ」


 私は短剣海老(フラグス)の串焼きを、メニューに加えることにした。


 ***


 翌日の早朝、私は市場へ向かった。

 今日は短剣海老(フラグス)を多めに仕入れるつもりだ。


「おはようございます、ベルガーさん」

「お、ルマートさん。昨日の短剣海老(フラグス)はどうでした?」

「それが、営業開始直後に売り切れてしまったほど人気でした」

「そうですか!」

「メニューに加えることにしたので、定期的に購入しますね」

「ありがとうございます!」


 今日は四十匹の短剣海老(フラグス)を仕入れた。

 そして、屋台へ移動し仕込みを開始した。


「あの、すみません……」


 仕込みを始めてしばらくすると、十代の男子が声をかけてきた。

 視線を向けると、妙に緊張した面持ちだ。

 客という感じではない。


「ルマートさんですか?」

「そうですが?」

「あ、あの、自分はハンスと言います。漁師ベルガーの息子です」


 そういえば、ベルガーは息子がいると言っていた。

 しかも漁に連れていっているとの話だ。


「ベルガーさんの息子さんか。じゃあ、この短剣海老(フラグス)は君が獲ったのかい?」


 私は仕込み中の短剣海老(フラグス)を見せた。


「は、はい、そうです」

「それは凄いね。短剣海老(フラグス)の串焼きはとても好評なんだ」

「あ、ありがとうございます」


 言葉とは裏腹に、表情は硬い。


「あ、あの、突然申し訳ございません」

「どうしたんだい?」

「じ、実はお話を聞いていただきたくて……」

「話?」

「はい。ルマートさんは騎士様だったと聞いて、相談させていただきたいと……」

「仕込みをしながらでもいいかい?」

「は、はい!」

「そのベンチに座りなさい」

「ありがとうございます!」


 私は温かい麦茶を出した。

 ハンスはうつむいたまま動かない。


「僕は今、父の漁を手伝っているんです」

「ああ、ベルガーさんは腕がいいと褒めていたよ」

「僕は……その……、ゆ、夢がありまして……」

「夢? 漁師ではないのかい?」

「はい。漁師ではなく、その……。き、騎士になりたくて……。スヴェロイ騎士団に入団したいんです」

「騎士? そうか、騎士か」


 私の時代と違い、今の時代に騎士になるには王都の王立騎士学校へ通う必要がある。

 十五歳から二十五歳まで入学可能で、二年間の訓練を経て騎士となる。


「ベルガーさんには言ったのかい?」

「いえ、まだです……」

「しかし、騎士になるには学校へ通うことになる。親の承認が必要だし、入学金もかかる」

「はい。でも、どうしても言えなくて……」


 漁師として期待されている中で、騎士になりたいとはなかなか言い出せないだろう。

 だが、こればかりは自分で乗り越えなければならない。

 言葉は悪いが、こんなことで悩むような精神では訓練についていけない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。