第26話 海老の串焼き1
日の出を迎え、私は仕入れのために朝の市場に足を運んだ。
所狭しと肉、魚、野菜が並び、大勢の人で賑わっている。
いつものように、うちの定番メニューである黒毛牛、黒長豚、赤羽鶏の肉を購入した。
「ルマートさん! おはようございます!」
「おはようございます、ベルガーさん」
顔見知りの漁師ベルガーが声をかけてきた。
市場に通うようになって知り合ったベルガーは、腕のいいベテラン漁師だ。
「ルマートさん。今日はいい短剣海老が揚がりましたよ」
「ほう、これは大きいですね」
私の屋台は肉がメインだが、時折海鮮も扱っていた。
ヴァルシアは国内でも有数の水揚げ量を誇るヴァルシア港があり、海の幸が豊富だからだ。
「この短剣海老は息子が獲ったんです」
「息子さんが? おいくつですか?」
「十八になりました」
「十八歳で漁ですか。それは凄いですね」
「あいつは筋がいい。いい漁師になりますよ。ははは」
ベルガーが誇らしげに笑う。
私に家族はいないが、ベルガーの気持ちは分かる。
弟子たちが偉業を成し遂げた時と同じ気持ちだろう。
「では、お祝いもかねて短剣海老を二十匹いただきましょう」
「ありがとうございます!」
私はそのまま屋台に向かい、仕込みを始めた。
肉の串焼きは、一口大に切り分けた肉を四つ使用する。
慣れた手つきで肉を切り串に刺す。
「さて、短剣海老の仕込みだ」
短剣海老は肉と違い、贅沢に一匹丸々串焼きにする。
その分価格は上がるが、見た目が重要だ。
短剣海老の殻を剥き、背わたを取る。
頭と尻尾はそのまま残す。
短剣海老は焼くと背が丸まるので、一直線になるように尻尾から串を通す。
そして、一本ずつ刷毛でオリーブオイルを塗っていく。
こうすることで焦げ付かず、綺麗な焼き色がつく。
最後に塩と特製ハーブをまぶす。
「試しに一本焼いてみるか」
焼き台に置くと、透明がかった青い身が徐々に白くなっていく。
頭と尻尾に残した甲殻は赤く変色し、海老特有の香ばしさが広がる。
「これは……旨そうだな」
自分で焼きながら、その見た目に感動してしまった。
白煙に乗った海老の香りが裏路地を漂う。
「うわ! めっちゃいい匂い!」
「海老の匂いだ!」
「これから仕事なのに! 食べたい!」
通行人が屋台を見ていく。
なんだか申し訳ない気持ちになってしまう。
「そろそろ焼き上がったかな」
私は焼き上がった短剣海老を口に運ぶ。
弾力のある食感、口に広がる海老の肉汁、私の特製ハーブとの相性は抜群だ。
「これは旨い。もっと仕入れてもよかったかな。はは」
自信を持ってお勧めできる味だ。
なにせ、私自身食べる手が止まらない。
「これは定番メニューにしてもよさそうだ」
私は短剣海老の串焼きを、メニューに加えることにした。
***
翌日の早朝、私は市場へ向かった。
今日は短剣海老を多めに仕入れるつもりだ。
「おはようございます、ベルガーさん」
「お、ルマートさん。昨日の短剣海老はどうでした?」
「それが、営業開始直後に売り切れてしまったほど人気でした」
「そうですか!」
「メニューに加えることにしたので、定期的に購入しますね」
「ありがとうございます!」
今日は四十匹の短剣海老を仕入れた。
そして、屋台へ移動し仕込みを開始した。
「あの、すみません……」
仕込みを始めてしばらくすると、十代の男子が声をかけてきた。
視線を向けると、妙に緊張した面持ちだ。
客という感じではない。
「ルマートさんですか?」
「そうですが?」
「あ、あの、自分はハンスと言います。漁師ベルガーの息子です」
そういえば、ベルガーは息子がいると言っていた。
しかも漁に連れていっているとの話だ。
「ベルガーさんの息子さんか。じゃあ、この短剣海老は君が獲ったのかい?」
私は仕込み中の短剣海老を見せた。
「は、はい、そうです」
「それは凄いね。短剣海老の串焼きはとても好評なんだ」
「あ、ありがとうございます」
言葉とは裏腹に、表情は硬い。
「あ、あの、突然申し訳ございません」
「どうしたんだい?」
「じ、実はお話を聞いていただきたくて……」
「話?」
「はい。ルマートさんは騎士様だったと聞いて、相談させていただきたいと……」
「仕込みをしながらでもいいかい?」
「は、はい!」
「そのベンチに座りなさい」
「ありがとうございます!」
私は温かい麦茶を出した。
ハンスはうつむいたまま動かない。
「僕は今、父の漁を手伝っているんです」
「ああ、ベルガーさんは腕がいいと褒めていたよ」
「僕は……その……、ゆ、夢がありまして……」
「夢? 漁師ではないのかい?」
「はい。漁師ではなく、その……。き、騎士になりたくて……。スヴェロイ騎士団に入団したいんです」
「騎士? そうか、騎士か」
私の時代と違い、今の時代に騎士になるには王都の王立騎士学校へ通う必要がある。
十五歳から二十五歳まで入学可能で、二年間の訓練を経て騎士となる。
「ベルガーさんには言ったのかい?」
「いえ、まだです……」
「しかし、騎士になるには学校へ通うことになる。親の承認が必要だし、入学金もかかる」
「はい。でも、どうしても言えなくて……」
漁師として期待されている中で、騎士になりたいとはなかなか言い出せないだろう。
だが、こればかりは自分で乗り越えなければならない。
言葉は悪いが、こんなことで悩むような精神では訓練についていけない。




