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伝説の老騎士、定年退職して裏路地で屋台を始める  作者: 犬斗


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第21話 手作り串と弟子4

「ルマート様。少し準備運動してもいいですか?」

「ん? 構わないよ」

「ありがとうございます!」


 ルディが指示を出すと、五人の小隊長が木剣を手にした。

 試合場の中心で、ルディと小隊長五人が向かい合い、互いに礼をする。


「ルディの五人試合か。久しぶりに見るな」


 ジルベールが呟いた。

 ルディほどの剣士になると、一対一では相手にならない。

 そのため、複数人と同時に試合をする。


「しかし、小隊長五人とはね。あいつも腕を上げたな」


 スヴェロイ騎士団の小隊長ともなれば、一般騎士の十人分に相当すると言われている。

 それを準備運動と言い切るルディは異常だった。


 これまで何度もルディと試合を行っている小隊長たちは、対ルディのフォーメーションを取る。

 左利きのルディから見て、左側に二人、右側に三人が立つ。

 弱点となる右側を攻めるのはセオリーだ。


 右側の三人が呼吸を合わせ、剣を振り上げた。

 しかし、安易に同時攻撃はしない。

 ルディは三人の同時攻撃など、たった一振りで対処してしまうからだ。


 雷剣の名の通り、ルディの剣は自在に剣筋を変える。

 あまりのスピードに、攻撃を受けた者は目の前で落雷を見ると言われていた。


 右側の三人が時差を作り、剣を振り下ろす。

 これでルディは一振りで対処はできず、利き腕とは反対側で三回剣を弾かなければならない。

 それと同時に左側の一人が中段に突きを放ち、もう一人が下段から斬り上げていく。

 五人はルディに対し最も有効な連撃を放った。


「これ以上ない攻撃ですね」

「そうだな。ルディに対し、よく考えられているよ」


 ジルベールとルマートも、小隊長たちの攻撃を褒めた。

 とはいえ、それが勝敗に繋がるわけではないことも二人は理解している。


 本来なら五回剣を振る必要がある。

 それでは間に合わないのだが、ルディは右左右左右と、まるで稲妻のように軌道を変化させながら剣を振った。

 あまりの速さに、木剣がぶつかる音は一回しか発生していない。


 五本の木剣が宙に浮く。

 ルディは小隊長たちが持つ剣を弾き飛ばしていた。

 その実力差は圧倒的だ。


「お師匠、俺もいいですか?」

「ジルベールもかい?」

「はい、ルディが本気を出そうとしているので、俺も身体を準備します」


 弟弟子の本気に気づいたジルベールも、小隊長五人を相手に試合をした。

 ジルベールはルディと違い、五人の木剣を同時にへし折っていた。


「うむ、ヒビはない」


 五人の剣を折っても、ジルベールの剣は無傷だった。

 それはジルベールの技術の高さを証明している。


「ルディ、準備はいいか?」

「はい、ジルベールさん」


 ルディが試合場に入る。


「こんな老人に本気になってくれて嬉しいよ」


 弟子たちの剣技に感心しながら、ルマートも試合場に入った。

 三人が対峙すると、試合場から猛烈な圧力が放たれる。

 数百人の騎士が呼吸もできないほどの緊張感だ。


 そう、ルマートはジルベールとルディを相手に同時に戦う。

 そのために剣を二本握っていた。


「昔はよくやったものだ」


 四騎士(クトゥルテス)に剣を教えていた頃は、四人まとめて相手をしたこともあった。

 それが今や騎士団最強の四人にまで成長したことに、改めて感動するルマートだった。


「お師匠、感傷に浸るのはまだ早いですよ」

「我々の成長を見てからにしてくださいね」


 ルマートから見て、ジルベールが左側、ルディが右側に立つ。


 時が止まったかのように静寂に包まれた試合場に、轟音を響かせ落雷が発生した。

 そう錯覚するほどの速度で、ルディが稲妻のような強烈な突きを放つ。

 だが、ルマートは右手の木剣を斜めに構え、華麗に受け流した。

 体勢を崩すルディ。


「ルディ。初撃で全力は素晴らしいよ。スピードに目が慣れてないからね」


 同時にジルベールがルマートの頭を砕かんと、上段斬りを繰り出していた。

 その威力は木剣の周囲の空気を巻き込み、竜巻が発生するほどだった。


「ジルベールも全力か。スピードと力は申し分ない。狙いも的確だ」


 ルマートは左手の木剣を斜めに構える。

 そしてジルベールの一撃を受けた瞬間、手首、肘、肩で衝撃を吸収し相殺した。

 そのまま剣先を回転させ、ジルベールの剣を絡める。

 ジルベールは重心を崩し、前のめりに倒れそうになった。


「二人とも見事な初撃だったよ」


 ルマートが左右の木剣を同時に振り下ろし、二人の喉元に突きつけた。


「くっ、あの突きがかわされるとは……」

「し、信じられん。俺の上段を軽々といなすなんて……」


 騎士団最強の将軍二人が同時に全力の一撃を放つも、ルマートは完璧な対処を見せた。


「退団して身体がなまったのかな。私も危なかったよ。はは」


 ルマートは笑いながら二人の喉元から剣を引く。


「これで、なまったって……」

「俺たち二人がかりで何もできないとは……」


 ルディもジルベールも、冷たい汗が止まらない。

 二人は立ち上がり姿勢を正した。


「ルマート様、もう一戦いいですか?」

「お師匠、お願いします!」

「もちろんさ」


 今度はルマートが攻めていく。


「ルディ、スピードにスピードで対抗してはいけないよ。君の剣は速いけど、それを超える速度で叩き込まれたら後手に回ることになる」

「くっ、速い!」


 ルマートは右手でルディの速度を超える剣撃を放つ。

 ルディには、いくつもの稲妻が発生しているかのように見えているだろう。


「そういう時は力であったり、タイミングで対抗するんだ」

「はい!」


 それと同時に、ルマートは左手でジルベールの威力を越える剣撃を放っていた。


「くそっ、重すぎる!」

「ジルベール。君の剣は強烈だが、剣の質は僅かに軽い。もっと体重を乗せるといい」


 ジルベールは堪らず両手で剣を握る。

 それでも腕は痺れていた。


「剣を破壊するのではなく、相手の腕を破壊するんだ」

「はい!」


 ルマートの右手はルディの速度を凌駕し、左手はジルベールの威力を圧倒していた。


「くっ、捌ききれない」

「ぐぅぅ、腕がもたん」


 ルマートは右手で剣を巧みに巻き上げ、左手で強烈な上段斬りを放つ。

 ルディの木剣は宙に浮き、ジルベールの木剣は地面に叩きつけられた。


「「参りました……」」


 剣士が剣を落とす、それはすなわち死だ。

 素直に負けを認めた二人は、姿勢を正し深く頭を下げた。


「二人とも本当に強くなったね」

「何を仰いますか。お師匠に手も足も出ませんでしたよ。がははは」


 ジルベールが豪快に笑う。

 負けたことは悔しいが、師匠の強さが健在だったことが嬉しい。


「ルマート様、我々はもっと強くなります」

「期待しているよ」


 ルディもジルベールも、剣士の深淵を覗くほどの領域に到達している。


 だが――。


 強くなればなるほど、ルマートの実力を知る。

 知れば知るほど、ルマートの存在の遠さを痛感する。

 超えるべき存在は、天空の遥か彼方にあることを改めて実感した。


 今日の試合は、騎士団に語り継がれる伝説になるだろう。

 訓練場には、割れんばかりの拍手が鳴り響いていた。


 訓練を終えたルマートを、ルディとジルベールが城門まで見送る。


「ルマート様、本日は本当にありがとうございました」

「こちらこそ、久しぶりの訓練は楽しかったよ」

「串に関しては、こちらで仕上げて後日お送りします」

「ああ、ありがとう、ルディ。助かるよ」


 ルディと握手を交わすルマート。

 続いてジルベールと握手を交わし、その太い腕を軽く叩いた。


「ジルベール。滞在中はまた食べに来なさい」

「はい! 毎日伺います!」

「はは、無理しないようにね。待っているよ」


 二人に別れを告げ、ルマートは帰路についた。

 自宅へ帰る途中、自分の掌を見つめるルマート。


「僅かに痺れたか。二人とも本当に成長したな。私もうかうかしていられな――」


 言いかけて、ルマートは苦笑いを浮かべた。


「はは。これからは剣の腕ではなく、串焼きの技術を磨かねば。串もいただけることだしな」


 四十五年の騎士人生を送ったルマートは、剣士としての習慣がなかなか抜けない。

 それでも少しずつ、生活は串焼き中心に向かっていた。


 ***


 後日、ルマートの自宅に大量の串が届いた。

 どれも均一な形状で、丁寧に仕上げられている。

 ルディの指示によって、騎士団総出で仕上げ作業が行われたことは言うまでもない。


「嬉しいが、どうすればいいのだろう……」


 山のような串を眺め、頭を悩ませるルマートだった。


 ◇◇◇

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