第20話 手作り串と弟子3
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ルマートが訓練場の中心に立ち、久しぶりに自宅から持ち出した剣を抜く。
その所作に、歴戦の騎士たちすら圧倒されていた。
先ほどのルディの緊張感とは違う。
剣を抜いただけなのに、全員がルマートと一対一で対峙しているような錯覚を受けていた。
ルマートが騎士たちを見渡す。
「まずは剣のコントロールです。狙った位置を寸分の狂いなく斬るための訓練になります」
木の台に、串の素材となる丸太が置かれている。
本来は厚刃のナイフや鉈で切れ込みを入れて、ゆっくりと刃を叩きながら裂くように割って薄い板を作っていく。
ルマートはそれを剣で一気に斬るつもりだ。
それは剣先の僅かなブレも許さない。
剣筋は美しい直線を描く必要がある。
「剣と腕と肩が全て一体化したイメージを持ちます。そのためには下半身の安定が重要です。大地に根付く大木のようにどっしりと構え――」
ルマートが剣を振り上げると、そこで動きを止めた。
本来はこの状態で止めてしまうと剣先がブレる。
だがルマートには関係ない。
「狙った場所へ、一気に振り下ろします」
そう言った直後、すでに剣は振り下ろされていた。
丸太は斬られたことに気づかないが如く元の形状を保っている。
ルマートが剣を僅かに斜めに傾けると、薄い板が一枚倒れた。
「丸太を板状に斬りましたが、ここで重要なのは土台を一切傷つけないことです。止めるべきところで止める。これが大切です」
ルマートの剣は隊長クラスにしか見えていない。
ほとんどの騎士にとっては、気づいたら剣が振り下ろされていただけだ。
見習いたちに至っては、ルマートの言っている意味すら分からない。
「ルディ、見えたか?」
「はい。ですが、真似はできませんけどね。僕でも板の厚さが僅かに変わってしまいます」
「そうだな。俺は土台まで斬っちまうよ」
ジルベールとルディは、背筋が凍る思いでルマートの剣を見つめていた。
ルマートは構わず全員を見渡した。
ルマートも騎士たちの理解度は把握している。
だが、ここで分からなくても、鍛練すれば必ず習得できると信じている。
続いてルマートは、先ほど斬った薄い板を慎重に立てた。
息を吹きかければ倒れるほどではあるが、ルマートには意図がある。
「次はスピードです。これほど薄い板であれば、僅かな風でも倒れるでしょう」
ルマートがルディに視線を向けた。
「ルディ将軍。どうすればいいか、お分かりですか?」
「はい。倒れる前に斬る、です」
「その通りです」
ルマートが板に息を吹きかけるとパタンと倒れた。
「先ほどのコントロールを忘れずに、スピードと手数を加えます。ただし、剣のスピードを上げて手数を増やしても、剣筋は一切変えてはいけません」
もう一度板を立て、即座に剣を振るルマート。
幾重もの残像が発生した。
見習いの目には、ルマートの剣は完全に消えて見えただろう。
「す、凄い……」
「本当に……お師匠は……」
思わず声を漏らすルディとジルベール。
薄い板が倒れると同時に、三十本の串に分かれた。
寸分違わず、同じ太さの串だ。
「まずは板を斬ってみましょう。板を斬ったら、次は串を斬り出します。最初は串を二本から。それから徐々に増やしていきます」
騎士たちが剣を振り始めた。
その様子を見て回るルマート。
「少しずつで大丈夫です。とにかくできるまで繰り返しましょう」
ルマートの教え方は丁寧で、時折実演も見せていた。
その様子を眺めるルディとジルベール。
「懐かしいな。これが地獄の始まりなんですよね」
「そうだな。俺たちは必死についていったよ」
ルマートの訓練は、できるまで延々とやる。
一万回やってもできなければ十万回、それでもできなければ百万回と繰り返す。
そうしてようやくできるようになると、次は再現性を重視する。
二回連続できても、それは偶然だと言う。
十回、百回、千回連続とできるようになるまで、ただひたすら繰り返す。
ルマートの訓練は、ほとんどの者が途中で根を上げる。
だが、四騎士たちだけは諦めなかった。
巷では天才剣士と呼ばれている四騎士たちだが、本当の姿は努力だ。
手の皮が剥け、肉が削げ落ち、骨が見えようが剣を振った。
泣きながら剣を振った。
もちろんその隣で、弟子を鼓舞しながらルマートも一緒に剣を振った。
「ルマート様って、弟子と同じ回数、剣を振るんですもの。追いつけるわけがありません」
「そうだな。お師匠がやめないから、俺たちもやめられない。根気比べだったよ」
「そんな生易しいものではありませんよ。あれは本当に地獄だったなあ」
ルディの言葉を聞いたジルベールは、「お前は余裕でついていっていただろ」と心の中で突っ込んでいた。
最も苦労したのはサーシャだ。
「サーシャは大変だったよな」
「そうですね。サーシャさんは、それこそ血の涙を流しながら百万回剣を振りましたからね」
サーシャは身を以てルマートの優しい厳しさを知っている。
だからこそ、サーシャが剣を教える時は一切の妥協をしない。
現在の騎士団で、最も厳しい訓練を行うのはサーシャだ。
死人が出るとも言われるほど厳しい訓練だった。
***
朝から始まった訓練は、夕方まで続けられた。
騎士たちのモチベーションは高く、全員が必死で剣を振っている。
手が血だらけになろうとも、誰一人として弱音を吐かない。
ルマートの意思を継いだ四騎士たちが、今の騎士に叩き込んだ精神だ。
その姿を見て感極まるルマート。
「年を取ると、涙もろくて敵わないな。はは」
ルマートの肩をルディが叩いた。
「ルマート様。感動するのは早いです」
「ん? どういうことだい?」
ルディの隣に、ジルベールが並んだ。
「お師匠、最後にアレをやっていただけませんか? せっかく俺とルディが揃ったのでね」
「い、いや、君たちの立場もあるだろう?」
「今さら何を仰いますか。団員たちはすでに、お師匠の奇跡のような剣を見ているんです」
「そうか……。分かったよ。じゃあ、久々にやろうか」
「はい! お願いします!」
ルディの指示で木剣が四本用意された。
ルディとジルベールが一本ずつ、ルマートが二本持った。




