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伝説の老騎士、定年退職して裏路地で屋台を始める  作者: 犬斗


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第19話 手作り串と弟子2

「ほら、ルディ。座りなさい」

「はい! ルマート様! 失礼します!」


 ルディがベンチに座った。

 騎士団の将軍二人が屋台に並んで座っている。

 配下の騎士が見たら、驚くなんてものではないだろう。

 だが二人は兄弟弟子でもあり、気心の知れた仲だ。


「ルディも食べるだろう?」

「はい、お願いします!」


 ルディは騎士の中では小柄な体型だが、食べる量は多い。

 私は焼き台の上に肉を並べた。


「お師匠、俺ももう少しいただきます」


 ルディが来たことで、ジルベールもさらに肉を追加していた。

 まさしく鉄の胃袋だ。

 肉を頬張りながら、串を見つめているジルベール。


「お師匠。さっきの話ですが、お願いできませんか? 串作りを剣の稽古に取り入れるってやつです」

「ふむ……」

「一日だけでいいんで、騎士たちを指導してもらえませんかね?」


 騎士や弟子たちはこうして店に来てくれている。

 それなのに、私だけ拒否するなんて不義理はできない。

 協力できることはするべきだ。


「分かったよ。剣のコントロールとスピード、手数と安定性。これらを向上させる稽古として考えよう」

「ありがとうございます!」

「ジルベールはいつまでヴァルシアにいるんだい?」

「一週間滞在します。その間、ヴァルシア支部の騎士たちに稽古をつけます」

「私は明後日が休みなんだ。その日でいいかな?」

「はい! ありがとうございます! おい、ルディ!」


 ジルベールがルディの背中を叩いた。

 ルディは少しむせながらも、ジルベールに対し頷いている。


「ルマート様、予算を組みます!」

「予算? なんのだい?」

「ルマート様の講師料です」

「はは、それは大丈夫。不要だよ。気遣いありがとう」

「し、しかし、サーシャさんやグランツォ総帥に知られたら、僕……殺されます……」


 ルディの顔色が再度悪くなった。

 剣士としては天才だが、四騎士(クトゥルテス)としてはもっとも後輩だ。

 サーシャたちには逆らえないだろう。


「では、こうしよう。訓練で使う材木を騎士団に購入してもらって、出来上がった串を私がいただく。これでどうだい?」

「そ、そんなものでいいのですか?」

「私にとっては大助かりだよ」

「分かりました。では、さっそく事務局に注文させますね」


 こうして私は久しぶりに、騎士団の指導をすることになった。


「ふう、食ったぞ」

「旨かったですね」


 満足そうな表情を浮かべる二人。

 結局二人が食べた串焼きの数は、ジルベールが三十本、ルディが二十本だった。


「二人で五十本か……」


 騎士団最強格の二人は、食事でも最強だった。

 なお、ジルベールの三十本は、この屋台で一人で食べた量としては最高記録だ。


 ***


 訓練の日を迎え、私は騎士団の城へ向かった。


「お師匠! お待ちしてました!」

「ルマート様、朝からありがとうございます!」


 ジルベールとルディが、城門まで迎えに来てくれていた。


「二人がお出迎えとはね。申し訳ないよ」

「お師匠の出迎えは当然ですよ。がははは」


 豪快に笑うジルベールだった。


「まさか退団後に城門をくぐるとは思わなかったな……」


 二人に案内され城の廊下を進む。

 騎士団の城に入るのは退団以来だ。

 まだ数か月しか経っていないのに、もう懐かしさを感じる。


「ルマート様。さっそくですが、訓練場へ向かってもよろしいですか?」

「もちろんさ。今日一日みっちりやるよ」

「わ、分かりました。お願いします」


 ルディは笑みを浮かべながらも、額に汗をかいていた。

 私としては、せっかく指導するのだから時間を有効に使いたい。


 一礼して訓練場へ入ると、数百人の騎士が集まっていることに驚いた。

 私が姿を見せると同時に、騎士たちが一斉に敬礼する。

 私も敬礼で返す。

 そして、ルディに視線を向けた。


「ルディ。今日は何人集まっているんだ?」

「手が空いている者は全員集まっています」

「さすがに規模が大きくないか?」


 私は多くても二十人程度だと思っていた。

 それが数百人だ。

 予想に反して規模が大きくなってしまった。


「いえ、グランツォ総帥に報告したら、時間があれば全騎士を集めたかったと悔しがっておられました」

「そ、そうか……」


 しかも、よく見ると訓練に使用する丸太が山積みされている。

 もしあれを全て串にするなら、もう今後作る必要ない量だ。

 それどころか、私が屋台を引退するまで使いきれない量だろう。


「お師匠、実は……」

「ん? どうしたんだい?」


 私の隣で、ジルベールが申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「このことを知ったサーシャが激怒していましてね……。お師匠、申し訳ないのですが、今度王都でもこの訓練を行ってもらえませんか? あいつ、怒ると本当に手がつけられないので……」

「サーシャさん、ジルベールさんにだけは容赦しないですからね……」


 隣でルディも苦笑いしていた。


「わ、分かったよ」

「ありがとうございます!」


 ジルベールが安堵の表情を浮かべていた。

 ジルベールのためにも、いつか王都へ行こうと思う。


「さて、ではさっそく始めます」


 ルディが訓練場の中心に立ち、全員を見渡す。

 私にとっては愛弟子だが、この城の責任者たる将軍で、四騎士(クトゥルテス)の一人だ。

 緊張感が一気に高まった。

 張りつめた空気をひしひしと感じる。


「本日はルマート様が特別に稽古をつけてくださる! 必ず技術を会得しろ!」

「「「はっ!」」」


 一斉に敬礼をする騎士たち。

 みんな意欲は高いようだ。

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