第12話 串焼きルマート
私は六百万リアを現金で支払った。
貯金は大きく減ったが、一人で暮らしてきたし、それほど金を使わない生活だったため問題ない。
仮に屋台の収益がなくとも、しばらくはやっていける資金がある。
とはいえ、そうなったら私の老後は終わりだ。
必死に頑張るしかない。
私は屋台の改修を開始した。
元々野菜の販売店だったため、キッチンを設置し、カウンター席を増設。
キッチンなどの専門的な部分は業者に依頼したが、それ以外は自分で行った。
慣れない建築作業は大変だったが、自分の店になるということで充実感を持って作業ができた。
「ふう。剣と違って金槌はいいものだな。物が残るのだから」
私は剣しか振ってこなかった。
人を斬ることが仕事だ。
それは守ることでもあったが、破壊することでもあった。
もちろん自分の剣に誇りを持っているし、後悔など微塵もない。
だが、作るという行為はとても楽しかった。
「これからは料理を作り、お客さんに喜んでもらう。楽しみだ。はは」
***
作業開始から約二週間が経過し、ついに屋台が完成した。
「ルマート様! 看板をかけてください!」
手伝いに来てくれたルディが、店の看板を手渡してくれた。
私が自分で彫った木彫りの看板だ。
『串焼きルマート』
看板を屋台の壁に吊るす。
文字は不格好だし、細かく見ると歪んでいる。
それでも心を込めて彫った看板を見ると、込み上げるものがあった。
「私の……店だ」
不格好な看板が、さらに歪んで見える。
年を取ると涙もろくて仕方がない。
だが、騎士時代からの夢が叶ったのだ。
五十歳を超えて引退が現実のものとして迫った時に、私は自分自身の人生を振り返った。
騎士団の改革という目標を実現し、後世に道を残すことができたと自負している。
また、次世代の騎士団を率いる四騎士を育てた。
彼らのおかげで、騎士を目指す者は年々増えている。
一昔前は、騎士に未来はないとまで言われていたが、よくここまで持ち直したものだ。
騎士として私はやりきった。
だから第二の人生は、自分のやりたい道へ進んでみたい。
「好奇心と探究心か……。はは」
私は自分自身の言葉を思い出した。
いくつになっても挑戦はできる。
「ルマート様、おめでとうございます! いよいよ開店ですね!」
「ルディ、わざわざ来てくれてありがとう」
「とんでもないです!」
私の最後の弟子であるルディ。
若き天才剣士が満面の笑みを見せてくれた。
将軍という役職で忙しい中、騎士団を退団した私のために、こうして会いに来てくれるなんて感謝しかない。
「師のお店なんですから当然です。他のお三方が残念がってましたよ」
「みんなにいつでも来てほしいと伝えてもらえるかな」
「はい!」
「さて、せっかく来たんだ。ルディ、食べていきなさい」
「え? よろしいのですか?」
「もちろんだ。フヴィオさんが新鮮な野菜をたくさんくださったからね。野菜も焼くよ。素焼きでも旨いんだぞ」
「楽しみです!」
さっそく焼くと、旨そうに串焼きを頬張るルディ。
「こ、これは……」
突然、ルディの表情が曇った。
もしかして、不味かったのだろうか。
それとも、何か調理でミスをしたのかもしれない。
「ルマート様、大変申し訳ないのですが……」
「ど、どうした?」
「あと、五本食べてもいいですか?」
バツの悪そうな笑みを浮かべるルディ。
「あっはっは! もちろんだ。若者はたくさん食べなさい」
「ありがとうございます! サーシャさんに自慢します!」
遠慮なく食べるルディを見て、嬉しさが込み上げる。
「この道を選んでよかった」
私が騎士団に残した未来は明るい。
思い残すことなく、次の道へ進むことができる。
第二の人生の始まりだ。




