私の絶望と、前世の記憶。
「葵は、ハロネル王国に召されることになった」
「…何を、言っているのですか。葵は、どこですか」
私が朝起きると、すぐにお父様に広間に呼び出された。
準備を手伝ってくれる小夜も、いつもより元気がなくてよそよそしかった。
「葵と話さなくては…っお父様、葵は、どこですか」
「葵は、子爵家に帰って明日ハロネル王国に出発するそうだ。もう彼は、ここにはいない」
お父様が切なく、そう言うと私は頭を鈍器でがん、と殴られたような気がした。
「葵のことは、諦めなさい。もう彼は神楽の騎士でも、何でもない。異国の王女様の騎士なんだ。
彼は、もう私たち伯爵家には関わることができない、選ばれし存在なんだ。彼の人生に、私たちは、もう関われない」
私は腰が抜けて、ぺたんと座り込み、絶望の淵を彷徨った。
私以外の女の子を守る、葵…?
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…!!!
私の騎士になるって言ったじゃない!私を守ると誓ったじゃない!
どこにもいかないと言ったじゃない!
私は、ぼうっとして、自室に帰った。
布団に潜り込み、普段着の着物と袴のまま、目を閉じた。
昨日の夜は、ここに葵がいた。いつも通りの笑顔で、いつも通りの息遣いで、ここにいた。
私は、無理やり意識を押し込めた。葵の居なくなってしまうという現実から目をそらしたかった。
『大丈夫だ。俺がいる』
天色の長い髪を下でまとめた、どこか懐かしい彼が微笑みながら言った。
あなたは誰だっただろうか。
『あなたを、心から尊敬しています。だけど、いつかどこかへ行ってしまわないかと、心配になる』
黒髪で、整った顔立ちをしている不安げに切なく笑う彼は誰だったろうか。
『馬鹿野郎。何度、変なところで寝るなと言ってるんだ』
困り顔で私に怒る、桃色の髪で白衣の彼女は誰だったろうか。
『僕はここにラボをつくりたい。僕たちだけの秘密の隠れ家を』
キラキラとした目で語った、緑髪で背の高い彼は誰だったろうか。
『師範!この魔法薬の調合を教えてください!』
私に魔術書を持って駆け寄ってくる、この橙色の髪色の少女は誰だったろうか。
『何で俺を呪ってくれないんだ…!お前は俺を呪うべきなのに…っ…本当は殺したくなんて、なかった』
うっすらと見える目でに映る、懺悔しながら涙を流す黒髪の彼は、誰だったろうか。
────思い出せ。炎のしるべの魔法使い。




