神楽の前世の記憶と、名も無き少女の人生の始まり。
時は遡り、神楽が産まれてからちょうど1000年前のこと。
世界は、50以上もの国に分かれていた。
すべての国はほとんど同じ大きさで豊かさも平等だったそう。
だけれど、北の国の新しい王は世界を統一する権力を欲した。
そして、この美しいディストリア世界は人間の戦火で燃え上がった。
「痛いっ!離しなさいよ!」
「うるせえ、奴隷のくせに口答えすんじゃねえよ!」
闇市で売られる数千人の奴隷。その中に私はいた。
ちなみに名前はない。馬鹿とか塵とか出来損ないと、呼ばれることが多い。
私は、最低で最悪な両親に5つの時に売られた。
私の瞳は、綺麗な澄んだ緑色。そして、何より綺麗な長い赤髪を持っていたからすぐに買い手は見つかった。
けれど、類まれな魔法とやらの力でその時の主人を気絶させ、逃げて、捕まり、売られ、買われ、逃げて、捕まりを繰り返して早5年。10つになった。
今は娼館に入れられている。もの好きな殿方もいるもので、奴隷と過ごすためにお金を払うらしい。
寒気がする話だが、私はいつも幻影を見せる魔法で私の分身を見せ、私は部屋に戻る、を繰り返していた。
今日は太っ腹な貴族が10名ほど来るらしく、私たちは椅子に座らせられていた。
貴族が来る、ということで幻影が効かないかもしれないという絶対的なピンチに陥ってしまった私は、
力技で外に逃げ出そうとしたけれど、娼館の守衛に見つかり、腕をきつく握られて座らされた。
椅子に座らされると、もう貴族様たちが来ていて、守衛も愛想笑いを貼り付けていた。
私の目の前に来た殿方はこの国らしい黒色の髪で見目麗しい方だった。
彼は、貴族のお付き合いとして連れてこられたようで初めは乗り気じゃなかったものの、私を見た瞬間、
じぃっと私のことを見てきた。全てを見透かすような、真っ黒の瞳で。
すると彼は娼館の館主にお話したいことがあると、守衛に伝え、館主のところに行った。
そして館主と彼は私たちの前に、すぐ現れて言った。
「お前のことを買ってくださるそうだ。荷物をまとめてこい」
「…分かりました、館主様」
館主は彼にニコニコしながら、値段を決めていた。
どこまで図太いんだ、このおっさん。奴隷のためにそんな金額出すわけ無いだろう、と思っていたら、
彼は笑顔で提示された金額を了承した。正気か、この人。
私は低ランクの娼婦が使う部屋から少ない荷物を持ってきて、彼のところへ行った。
館主に笑顔で送られ、私は彼に馬車に乗せられる。
「…すまないね、手荒なまねをして悪かった。君には魔法の才能がある。それを見込んで君を買った」
「そう、なのですね」
「君には私の養子になってほしいと思っているんだ。十分な学問を受け、十分な食事を取れるようにこちらも努力をしよう」
「なぜ、なぜただの魔法が使えるだけの奴隷を選んだのですか。私以外にもいたはず、私よりも魔法を扱える奴隷が、いたはずです」
私が解せないという目で顔を上げると彼は子を見る親のような目で微笑んでいた。
「私が見つけたのは、君だ。そして私は君が何か偉大なことを成し遂げる魔術師になるような予感がある」
これでも勘が当たる方なんだよ、と魔術師らしく言う彼は、私の育て親になる王宮魔術師の侯爵様、
本宮傑、私たちは彼をマスターと呼んだ。




