真実を暴く薬と、魔女の卵。
「真実を暴く薬ぃ?なんてヤバいもの使おうとしてんだ…!」
「はは、やっぱりお嬢も魔女ですねえ」
得意げに笑っている私を見て、信じられないかとでも言うように葵は青ざめた。
伊織はやっぱり面白がっている。
「まあ見てなさい。真実を暴く薬ってのは涼風家の専売特許で涼風家の人間にしか扱えないの。私もつい最近お父様にこの薬の存在を教えてもらえたわ。だから、こんな興味を惹くもの作らないわけないじゃない!」
私はそう熱く語りながら、木製の棚から大きな鍋を出す。
小夜に、水を鍋に量り入れてもらうために頼んで私は、棚の引き出しから必要な薬草など材料を取り出す。
「蜥蜴の尻尾に、金魚草の花びら、あと妖精の抜け羽に、山嵐の針ね…ふふふふ」
「あぁ…神楽が魔法に浸かってる…仮にも伯爵令嬢なのに…っ」
「もう仕方が無いのですよ、葵様。というか伯爵家のお嬢を魔法にハマらせた犯人はあなたもですからね」
後ろで失礼なことを言うお目付け役と幼馴染は放っておこう…今はこれの方が大切よ…
「じゃあ葵!手伝ってちょうだい!暗黒石を削るのよ!」
「まだやるとは言ってないけどな…まあ手伝うよ」
「ふふ、ありがとう葵!」
私が幼い頃と同じように葵に抱きつくと、葵は難なく私を受け止めてくれる。
知らないうちに私よりも肩幅も身長も大きくなってたのね…
「ちょっと、お嬢。距離が近いですよ。葵様、俺も手伝います」
葵の成長にしみじみしていると、冷静な伊織が私と葵をべりっと剥がした。
伊織が怖いほど黒い笑みだったので、何か言うのは止めて、作業を開始した。
葵が横で暗黒石を削っている間に私は、他の材料を煮込む。
私の優秀な侍女は鍋に水を入れて火にかけてくれていた。
私は、蜥蜴の尻尾と妖精の抜け羽を携帯していたナイフで鍋の中に切っていれる。
するとお湯の熱で溶けて液体と化し、禍々しい色になる。
他の薬草も溶けやすいように刻んだり、削ったり、切ったりしながら鍋にいれる。
「神楽、削り終わったぞ」
「葵も伊織もありがとう。すぐに使うわ」
私は大きめの乳鉢に入った暗黒石の粉末を受け取って、杖を帯から抜き取る。
そして乳鉢の中から大きめの匙で暗黒石の粉末をすくい取って、杖を反対の手で持って鍋にかざす。
「薰き染めし焔──火を以て闇を融かし水を以て連理となれ」
魔術書の通りの命令魔法を唱えながら、私は匙に入った暗黒石の粉末を入れる。
さっきまでは禍々しい色をしていた液体は術を唱えて暗黒石の粉末をいれると、赤色になったり青色になったり混ざったような紫色になったりしながら、最後は無色透明の液体になった。
「…ふう、思ったより魔力を注いだわね。無色透明だけれど完成かしら」
「魔術書にはなんて書いてあったんだ?」
「黒色、と書いてあったわ。失敗かしら…」
うーん、と唸っている私と葵に伊織は優しく声をかけた。
「まあ旦那様に聞いてみましょうか、何が失敗理由なのかを」
「そうね、伊織。そろそろ昼食の時間だもの。小夜も下階にいるはずよ」
今の時間は昼食の準備をしに厨房にいるはず、と言いながら私たちは出来上がった薬を蓋付きの白い徳利に入れて下階に行く。
広間にはお父様だけがいて、お母様はまだお部屋にいるそうだ。葵の席も1年前同様に準備されている。
私たちは軽く一礼して広間に入る。
「お父様、例の魔法薬を作ったのですが、魔術書にあるような色にならなかったのです」
「みせてごらん」
私は徳利に入れた魔法薬と確かめるために薬を出すように実験用のお猪口を差し出した。
お父様はお猪口に薬を出して、その瞳を以て魔力の動きを確認した。
お父様は数秒薬を見て、嬉しいような呆れたような目で私を見た。
「…神楽、薬は完成しているよ」
「そうなのですか?!でも、色は魔術書通りではありません」
「それはだな…神楽の炎の体質のおかげで不純物がほとんどなく、綺麗に魔力が隅々まで行き渡っているからなんだよ」
嬉しいことなんだろうけれど…伊織と葵の方を向くと、褒めるような感情が少し込もった呆れた目を向けられた。
伝えたいことは分かるわよ、魔法馬鹿にしてもこれはいかがなものでございましょうかってことでしょう?
だって代々受け継がれてきた薬をたった10歳の子ども(魔女候補)が作り上げたんだもの。それも良い状態のものを。
「遅れましたわ、あら陣一様も神楽ちゃんも葵くんもどうしたの?なんだか変な空気よ、ここ」
「奥様。お嬢様の魔法馬鹿っぷりが証明されただけです」
おいコラ伊織!とうとうお母様にまで私の悪口言い始めたわね!
私、もうあんたよりもイケメンで優しいお目付け役になってくれる子を探そうかしら…
「ごほん、この薬はいざというときに使いなさい、神楽」
「はい、お父様」
「では昼食にしようか」
お母様は相変わらず分かっていなかったけれど、とりあえず私の作ってしまったとんでもないものは置いておいて、久しぶりの家族団らんが始まった。




