神楽と葵。②
「葵、よく来たね」
「まあ葵くん、また男前になったわねぇ」
「ご無沙汰しております、奥様、旦那様!」
屋敷の中では、お父様とお母様が待っていた。その後ろに伊織と小夜も。
「お母様、お父様!お昼までに広間に戻ってきますから、部屋に行ってきます!伊織も小夜も行くわよ」
「はい、お嬢様」
にこやかに見送ってくれる両親を背に、私は葵と繋いだ手を離さないで2階に上がる。
伊織と小夜も後ろを静かに着いてきてくれる。おかしいわね、いつも両親の近くをすぎると、小競り合いをしているはずなのに…
私は一応伯爵令嬢なので、お客様の前に出る時は黒色に椿の大輪が描かれた着物をよく着ているけれど、
今は葵の前だから紗綾形文様の赤色の着物に黒色の袴という、動きやすさ重視の服装だ。
時々、伊織や葵に服装について、もっと伯爵令嬢の自覚を持て!と叱咤されることもあるけれど、家の中にいるし、お客様と言っても家族同然の葵よ。
部屋の襖を開けて、葵に入ってもらう。
魔法薬を調合する机と、流し台、そして木製の棚に大きな窓。
殺風景に見えるけれど、私はこの部屋が好き。
「神楽、また床で寝ただろ。布団使えって何度も言ってるよな」
「うっ、調合に夢中になってたら眠くなって寝てしまったのよ…私って炎の体質だから基本体温は高くて風邪も滅多にひかないし…」
「今ばかりは葵様に賛同しますよ、お嬢。俺も言ってますよね、布団で寝ろって」
「そうですよ、お嬢様。昨日も私、お布団を敷いたはずなのですが…」
小夜や伊織も私へのお説教モードに入ってる…まあこればかりは調合に夢中になっていた私も悪いのだけれど。
「…わかった、気をつけるわ。あ、伊織と小夜、昨日準備した物を持ってきてちょうだい」
2人は無言で頷き、私の部屋をあとにした。
昨日、アサナギの裏山で面白い物を見つけたから今日使おうと、倉庫の方に持っていっていたのよね。
「葵、私たちも2月後には、魔法学園に入学ね」
「そうだな。叔父様も俺の進路は自分で決めれば良いとおっしゃってくれているからな」
「でも、不知火王国の魔法学園で良かったの?留学や、近衛師団付属の学園もあったじゃない。あなたは
私に縛られなくても良いのよ」
私は、幼い頃から魔女になりたかったから、お父様から母校である魔法学園のお話を聞いたときには、とてもワクワクしたのを覚えている。私もそこに通いたい、と。
それを葵は小さい頃から知っていた。だから、私の魔法の練習にも付き合うようになってくれた。
葵に魔法の才があったのは、私が見込んだわけじゃないけれど、一緒に競い合って高め合うのは楽しかった。
でも、葵は騎士様に憧れていた。魔術師ではなく、異国の騎士に。
葵はいつでも私についてきてくれた。
泳げない私が海を見たいと言ったときも、神楽がもし落ちたらどうするんだ、と言って剣のお稽古を休んでついてきてくれた。
私が都にお父様と行く、となったときも俺が神楽の騎士の代わりをします、とついてきてくれた。
彼は、私のために自分の気持を無自覚に制限している節があるのだ。
「…何言ってるんだ、神楽。俺は神楽とならどこでも良いんだよ」
少し考えるように黙っていた葵は、私の目を見て心底分からないという目で言った。
その目は、私を安心させるには十分だった。
「お嬢ー、例の物とってきましたよー」
「ちょっと伊織!お嬢様の部屋の襖を乱暴に開けるんじゃありません!壊れたら、どうなさるの?!」
スパァァンと軽快な音を立てて襖を開けて入ってきた伊織と、襖を乱暴に開けたことに対して可愛く怒る小夜。
私、思うのよね。小夜、絶対伊織のことが好きよね。
もう伊織を見つめる目が恋する乙女だもの。
「ありがとう、2人とも」
「何を取りに行ってたんだ?」
私はふっふっふと魔女らしく笑うと、葵の方に、その石をかざした。
「暗黒石よ!これはね、1種類だけの魔法に使うの。そう、真実を暴く魔法よ」
きっと私は今、ものすごく悪い顔をしているだろう。




