挑戦!雷神(再)チャレンジ!
「よし!」
レンレンがそう言って仁王立ちした。
「雷神の御符!」
レンレンの前に、短冊形の雷神の御符が静かに出現する。
「おー!」
風小が驚愕の声を上げた!
「やったのですね!ついに!ついに雷神の試練に打ち克ったのですね!」
風小はキラキラと瞳を輝かせ、全身全霊の尊敬の念をレンレンに込めているのがわかる。
「試練?」
レンレンが尋ね返す。
「そうです!」
そう言って風小が空中に浮かぶ雷神の御符を指差すと、険しい顔をして続ける。
「雷神の御符こそは、『試練の御符』!この御符を発動させようとしたものに御符の結界が発動し、己の心を晒されてしまうのです!『己の心に克つ!』これ無くして雷神の御符は使えないのです!そして、克つべき心の壁は、自尊心の強い者ほど超えられないものなのです!未熟な者には作れない。プライドの強い達人には使えない!」
「それが――。雷神の御符の秘密だったのねぇん」
「へ?」
風小の顔が青ざめる。
「あのー、レンレンさん――?」
「使ったこと無いわよん。雷神の御符なんて。いや、ほら。今の勢いならなんとなく使えるかなぁー、なんて――。ノリよん!ノリ!姫緒も使ったって言ってたしぃ」
レンレンが高らかに笑う!
「あえぇぇぇぇぇぇ!」
風小は頭を抱えて、その場に力無くしゃがみ込んでしまった。
「やっちまったデスぅ」
「おい!キミ!」
レンレンが歩夢に声をかける。
「安心しなさい!町は私が守ってあげるわよん!」
レンレンはそう言うと歩夢の返事を待たずに、御符と向き合った。
「ソノチカラ!我ガ前ニ示セ!」
それは来た!
今までは、そこはかとない漠然としたプレッシャーだったものが、その理由を知ってしまった今は、その意味のままレンレンに襲い掛かってくるのが感じられた。
その意味を知ったからと言ってそれを回避することは不可能――。
いや、知ったことによってそのプレッシャーは大きく跳ね上がった。
ソレハ、ジブンノ、シニタクナルホドノ、シラレタクナイ恥部。
御符の力が、レンレンの心の中に侵入し、その劣等部を蛇のように探っている。
人に見られているわけではない。
捨て置けばよい事。
だが、そうではない。
『思い出したくないこと』『無かったことにしたいこと』御符はそんな記憶と向かい合わせようとしているのだ。
『私の魔眼の力は天よりの授かり物。
知識の集積で組み上げられた物でもなければ、努力とか、訓練とかで習得した物でもない。
私の力ではあるが、私には生み出すことの出来ない力。いずれ――。
消滅してしまうかもしれない力』
自分の力ではない。
そして、自分の力ではない。
自分の――。
では誰の力だ?
自分の力ではない力しか、人に誇れない自分とは何者だ?
明日消え去るかも知れない力。
そんな力しかない自分は一体何者なのだ?
力を失えば自分の存在意義がなくなる。
ならば、自分は明日、自分を捨てなくてはならないかもしれない。
魔眼を使って負けるわけにはいかない。
敗北は自分の死を意味する。
私は、役立たずになってしまう。
私は努力しても魔眼以上の力をつけられない。
なぜなら、私の魔眼は偶然が私に授けたものだから。
この力を授かる者は私でなくとも良かった(!)
ならば――、私は何者だ?
なぜここにいる?
「レンレンさん!」
風小が叫ぶ!
すぐ前に立つレンレンからは返事が無い。
それどころか、自虐的な薄笑いすら浮かべ、瞳の光はその焦点を失おうとしている。
「やばいデス!このままでは御符に取り込まれてしまいます!」
「え!」
緊迫した風小の声に、ただならぬ物を感じて、歩夢が心配そうにレンレンに寄り添う。
「雷神の御符からの問いかけに、答えなど無いのデスよ!もし、答えを探そうとしたりしたら、精神がループして心の中に閉じ込められてしまいますデスよ!やばいデス!非常にヤバイデス!」
「ネモ!」
歩夢の呼びかけにレンレンがピクリと反応する。
「ワタシハ――。ネモ(誰でもない)」
レンレンがそう言って小さく笑う。
意を決したように風小が叫んだ!
「レンレンさん!聞こえますか?いいえ!聞こえてくださいマセ!何故、私が、レンレンさんが、雷神の試練を解いたと思ったか!」
風小はそう言ってレンレンの右手を両手で握った。
「レンレンさんは『答えを知っていた』のデスよ!思い出してください!レンレンさん!姫さまの言葉を!私の大好きな姫さまは、レンレンさんを煽ったわけでも、嘘をついたわけでも無いのデスよ!」
『姫さま』とは誰だったか。
レンレンがそう思った時。
雷神の御符は、レンレンの記憶の中から、『姫さま』のキーワードを探り、あまりに悔しい。
あまりにはずかしい記憶を引きずり出した。
あり得ない、そんなことはあってはならない。
もし、もしもあったとしたら――。
そんなことが、そんなことは――。
『ゆるせない』!
「教えてあげましょうか?」
唐突にレンレンの耳元で囁く声がした。
聞き覚えのある女性の声。
間違えるハズもない。
その声の主は××(だれ?)!
「教えてあげましょうか?ネモ・レンレン。『雷神の御符』の使い方」
信じられない囁きの内容を意識が認識できず、思考が真っ白になる。
振り向くことも出来ずに囁きに耳を傾け、続きを期待している情けない自分に怒りがこみ上げる。
「オシエテアゲル」
熱い吐息のような囁き。
『私で無ければ駄目』――よ
「姫緒!」
レンレンが叫ぶ!
瞳が光を取り戻した。
ふと見ると、呆気にとられてたたずむ風小と歩夢。
「なあ~んだ」
レンレンが微笑む。
「そんなことだったんだ」
レンレンの言葉に風小が小さく頷いた。




