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鬼追師の姫緒外伝 悪夢の降る町  作者: カンキリ


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出撃!町のおねぇちゃん!

 町のほぼ中央にある一番大きな公民館には、ゲンクロウズによって誘導されて避難してきた町民達がぞくぞくと押し寄せてきていた。

 ほとんどの町民達は無傷だったが、中にはだいぶ酷い怪我をしたものもおり、悲惨な状況がそこかしこにあった。

「あらよぉ!小学校の体育館はもう一杯なのかい?お医者さんはまだかい?」

 おばちゃん――。

 浪の物総代、鯨波お京が広場の真ん中に仁王立ちし、陣頭指揮を執る。

「医者の先生は、今、小学校の方に行ってます!妊婦さんが産気づきそうなんだそうです!」

 黒く日焼けした、ザンバラな茶髪の娘がおばちゃんに報告する。

「あらよぉ、そいつはめでたいねぇ!この騒動が終わったら、源九浪からもお祝いさせてもらうとするよ!とうちゃん!」

 おばちゃんがそう言うと角刈り頭で細身の親父が無愛想な顔を向けた。

「悪いんだけど医者が必要そうな人たちをあんちゃん達と小学校に運んでくれないかい。来ないものをいつまで待ったってしょうがないからねぇ」

「あいよ――」

 『とうちゃん』は小さく返事をすると、ぽんぽんと近くに居るゲンクローズ達の何人かの肩をたたいて集めながら、建物の中に消えて行った。

「なんか。とんでもないことになってるわねん」

 レンレンがおばちゃんに向かって歩いてくる。

「おお!終わったのかい?」

 おばちゃんがレンレンを出迎えるように両手を広げながらそう言うと、レンレンは短冊形の符札を一枚、おばちゃんの目の前にかざして見せた。

「小学校と、ここにも結界をはったわん。妖怪どもは近寄れない」

 そう言って周りを見渡す。

「もう少し、何とかしてあげたいけど。何せ、数がねぇ。半端じゃないし」

 レンレンがそういうと「それにしても――」と、おばちゃんが彼女の肩に手を回しながら言った。

「それにしても――お嬢ちゃんが立派な符術師様だったとはねぇ。まあ、おばちゃん、お嬢ちゃんはただ者じゃないと思ってたけどねぇ」

「リッバかどうかは知らないけどねー」

 そう言ってレンレンがおばちゃんと目を合わせ、どや顔を決める。

「最強よん」

 レンレンの言葉に、おばちゃんが「あー!頼もしいねぇ!」と言って大笑いしたその時。

 突然、聞きなれない携帯の着信音が鳴り出し、おばちゃんが前掛けのポケットから携帯を取り出した。

「あら?携帯なんて持ってたんだ?」

 意外だと言うようにレンレンが尋ねた。

「あらよぉ、この携帯は特別さ」

 そう言っておばちゃんが携帯を耳に当てる。

「もしもし、お京ちゃんか?儂だ!平沢だ!」

 携帯から音が漏れてくる。

 よほどあせっているらしく大声になっているのだ。

「あらよぉ!町長様かい!」

「えっ?」

 レンレンがギョッとする。

「どうすればいい?何か手伝うことはあるか?なんでも指示してくれ!」

「あらよぉー!それじゃ町長様――トシ坊ちゃん!すぐに防災無線で町内放送を掛けておくれ!困った事があったら浪の物に連絡しろと!総勢45人はとっくに持ち場の町内に待機済みだからね!うちのあんちゃん達も巡回してるから近くにいたら何なりと言い付けな!目印は『浜茶屋源九浪』のハッピだよぅ!」

「解った!それと、この物の怪達はどうすればいい?」

 レンレンが、おばちゃんから携帯を取り上げた。

「心配するほどの奴らじゃないわん。中には悪さする奴らも居るけれど、極々まれだから、逃げ回って怪我をするよりも、家に閉じこもって念仏でも唱えていた方が無難よん」

 そう言って再びおばちゃんへと携帯を戻す。

「今、お嬢ちゃんの言ったとおりに指示しておくれ!身元はアタシが保証するよ!」

「解った!役場の職員も公用車でスタンバイしておく!何か手伝える事があったらすぐ連絡してくれ!」

 おばちゃんが電話を切る。

 携帯をポケットにしまって顔を上げると、レンレンがどこかへ歩き去ろうとしているのが見えた。

「あらよぉ!お譲ちゃん!どこへ行くんだよぉ!」

 おばちゃんの問いかけに、レンレンが立ち止まり、振り向きもせず答える。

「ねぇ。私もこの町。好きになってあげてもいいわよん」

 短い沈黙。

 おばちゃんが嬉しそうに口をひらいた。

「あらよぉ!歓迎するよ!今からお譲ちゃんは、竜宮町のおねえちゃんだよ!」

 おばちゃんがそう言うと、レンレンは振り向き軽く手を振った。

「そう――。じゃ、お礼しなくちゃねぇ――この町に!」

 と、その時。

「あねさーん!」

 ヘルメットも被らずに、スクーターに乗った青年が真っ直ぐレンレンに向かって走ってくる。

「およ?」

 レンレンが、自分を呼んでいるので間違いないかと指をさして確認した。

「あねさーん!」

 嬉しそうに手を振っている。

 どうやら間違い無いらしい。

「あら?」

 ヘッドライトが明るくてよく見えなかったが、近づいて来るスクーターの運転手をよくよく見てみると、どうやらそれはしげちゃんらしかった。

 しげちゃんはレンレンの前にスクーターを横づけすると、シートを開けてメットインの中から白い服を取り出す。

「深山の婆ちゃんが、これをあねさんにって!」

 受け取って広げてみると、それは、レンレンがこの町に着いた時に着ていた真っ白なチャイナドレスだった。

 そういえば、夕立の一件以来、行方不明になっていた。

 服は、しっかりと汚れが落としてあり、糊付けまでしてあって、型崩れもしていない。

 突然、レンレンがその場で着ている浴衣を脱ぎだした!

「ぐはああああああ」

 うろたえ、吼えるしかないしげちゃんに、真っ裸になったレンレンが脱いだ浴衣を突きつける。

「鼻血やヨダレつけんじゃないわよん!ガキのお母さんの形見らしいからね!」

 そう言って、しげちゃんが浴衣を受け取ったのを確認すると、チャイナドレスを素早く素肌にまとう!

 タイトな白いチャイナドレスに浮かび上がる挑発的なボディライン。

 東洋的な透明さに輝く瞳に、セミロングの跳ねがかかったオレンジカラーの髪。

 そのナチュラルなメイクの醸し出す独特のエキゾチックさは、目元に入れられた紅系のアイラインの印象と相まって、紛れも無く『美女』と呼ぶにふさわしいそれであった。

 そう、それが――。

 隻眼の符術師!ネモ・レンレン!

「その浴衣、深山のババアに返しといて。お駄賃は――今!あげたのでいいでしょ?」

 レンレンがそう言うと、顔を真っ赤にしたしげちゃんが、まるでそう言う人形であるのかのように無機質に何度も何度も頭を上げ下げして頷いた。

「じゃ!行ってくるわよん!おばちゃん!」

 振り向き手を振ると、おばちゃんが手を振り返しながら叫んだ。

「あらよぉ!騒ぎが落ち着いたら、うちに遊びにおいで!ごちそうするよ!とうちゃんも一緒に飲みたがってる!黙ってたけどねぇ、うちのとおちゃん、あんたのファンだってさあ!」

 そう言っておばちゃんが親指を突き出す。

 レンレンは高らかに笑いながら、妖怪の徘徊する闇の中へと消えて行った。

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