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鬼追師の姫緒外伝 悪夢の降る町  作者: カンキリ


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乱舞!悪と正義のスーパー妖怪!

「ぐあー!貴様さっきから失礼な小娘でち!」

 生川はそう言うと、白い手袋をはめた手を、胸の前でクロスさせて何事かをつぶやき出す。

 すると、次の瞬間!

 「ぼんっ!」と言う鈍い破裂音とともに、白く濃い煙がもうもうと上がり、生川の姿がすっかり隠れてしまった。

 風小は、歩夢とハリガネが旅館の中に消えるのを横目で確認しながら、煙が晴れるのを待った。

 やがて、出現と同じくらい唐突に、まるで風で吹き消されたように煙が掻き消えると、そこには――。

「な、なんなのデスかあ!」

 何なのだろう――。

 強いて言うなら、それは「ゴキブリのかぶりもの」だった。

 テレビのコントや、殺虫剤のCMにありがちに出てくるあれである。

 やたらリアルな人間大のゴキブリのぬいぐるみ。

 そのゴキブリの頭の部分。

 コントのかぶりものならば、中から顔を出すために丸くくりぬかれている場所に、生川の顔が『貼り付いている』。

 足は両側に三本ずつ対になって六本ついていて、一番上の足は人の腕と手の形をしており、一番下は足の形をしていた。

 が――。真ん中の足は、リアルなゴキブリそのもので、左右とも飾り物のようにぶらぶらとしている。

 まさに、あれ。なのだった。

「はあーっはっは!」

 生川が、万歳するように一番上の足――。

 というより腕を上げ下げしながら笑い出す。

「恐れ入ったかでち!妖気を身体に取り入れることにより、超人化したスーパー妖怪人でち!私を怒らせた報いを受けるがいいでち!」

 そう言って再び高らかに笑う。

 その姿が、限りなく癪に障る。

 とことんむかつく!

「先手必勝ー!」

 風小の神速のストレートが――。

 空を切った。

「ええーっ!」

 よけられた。

「そんな亀のようにへろい、ノロノロパンチではワタチを捕らえることは出来ませんでちよ!」

 生川がそう言って、高らかに笑う。

「亀――。私のパンチが――。カメ」

 ショックのあまり茫然自失となっている風小に生川のパンチが襲う!

「し、しまったあ!」

 回避不可能!風小は生川のパンチをもろに頬に受ける!

ぺち!

「?」

 痛くない。

 と、言うより平手で頬を撫でられているような感触に、身震いした。

 あまりのことに、理解が追いつかなくて風小が動けずにいると、生川が唇を突き出し、得意げな顔をして続けて攻撃を仕掛けて来た。

ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち。

 まったく、痛くない。

 ただ、非常に――、鳥肌が立つほど不快なだけだ。

 何故か屈辱感が湧き上がる。

「いい加減にするデスよー!」

 会心のストレート!が、空を切った。

 速い!

 逃げ足が――、いや、逃げ足だけが特化している!

「このやろー!」

 風小が追いかけるが、まるで瞬間移動の如く逃げ回る。

「ははははははは。かーめ!かーめ!ノロマなかーめ!」

「わーん!」

 べそを掻きながら風小が生川を追いまわしつづけた。



 旅館の中は明かりが点いては居なかったが、真っ暗と言うわけではなかった。

 壁や、廊下のところどころがぼんやりと青白い光を放っている。

 よくよく目を凝らしてみると、それは、いたずら描きのようなデッサンの人物画の線が光っているのだと気がついた。

 それが、多分、キッコの言っていた『墨絵』なのだろうと思われたが、青白い光を放つそれは、蛍光塗料で描かれた落書きにしか今は見えなかった。

 旅館のいたるところでその落書きが光っている。

 かなりの数だ。

「(旅館の従業員)(客)(全部)(絵にされたようだね)」

 霊狩蟲を身に纏わせながら、辺りを見回していたハリガネが言った。

 耳鳴りのような音がする。

 いや、違う。

 それは人の呻き声だった。

 沢山の呻き声が重なり合い、不協和音を奏でている。

「(恐怖に)(囚われるな)(妖怪に)(取り憑かれるぞ)」

 ハリガネの言葉に歩夢が頷いた。

 ふと、歩夢が、誰かに呼ばれたような気がして足下を見る。

「キッコのおばさん!」

 一瞬では誰かを判断できなかったが、良く見れば、見慣れたキッコの母親の面影がその絵にはあった。

「絶対助けるからね!」

 動くはずの無い落書きが、小さく微笑んだように見えた。

「急ごう!離れの『鮃の間』だ!」

 歩夢が走りだすと、ハリガネが後に続く。

 旅館の中は、まんざら知らないわけでは無かったが、勝手が違いすぎた。

 妙な唸り声、光る落書き達がいつもとは違う影を落とし、部屋の数や建物の奥行きまでも目眩ます。

 本当にここは豊玉旅館の中なのだろうか?

 どこか違う次元に繋がる曲がり角を知らぬ間に曲がってしまい、今、自分はあの風小のように外に向かって走っているのでは無いだろうか?

 そんな、疑心暗鬼になり始めた頃、歩夢達の目の前に『鮃の間』の表札が写った。

 ゆっくりと、音も立てずに格子戸を開けて中を覗きこむ。

 部屋の畳に描かれた方陣が、両側の襖に描かれた落書き達の放つ、ぼんやりとした青白い光に浮かびあがっている。

 方陣は妙な唸りを上げており、上に張られた荒縄が、その唸りに合わせるようにぶるぶると小刻みに震えていた。

 ハリガネが先になり、方陣の側に近づいて様子を探る。

「(これは)(隧道の結界だ)」

「ずいどう?」

「(ただのトンネルだ)(生川が)(どこかから)(妖怪になる力を)(ここに呼び寄せ)(百鬼夜行図で)(縛り付けて)(実体化させたんだ)(つまり――)」

 そう言うとハリガネはにゃあと鳴いた。

「(つまり)(妖怪は種切れだ)(もう増えない)」

「でも消さなきゃ!」

「(そうだ)(そのとおりだ)(歩夢)」

 そう言うと、ハリガネは暫く方陣を見つめていた。

「(なかなか良く出来た方陣だ)」

 ハリガネの周りをまわっていた霊狩蟲達の動きが活発になる!

「(この)(方陣を利用しよう)」

「えっ?」

 ハリガネを見ていた歩夢が、方陣に目を移した。

「(霊波的な力を)(呼び寄せることが出来るらしい)(これを使って)(『河』を)(呼び寄せる)」

「えー!だってあれこないだ失敗したじゃんか!」

 とことん嫌そうな表情で歩夢が抵抗した。

「(不幸な事故だった)」

 ハリガネはそう言って歩夢の顔を見上げる。

 そして、そのまま見つめ続けた。

「(どうする)(次期総代)」

 ハリガネにそう言われ、歩夢は険しい表情になって方陣を睨む。

「読み取りは終わってる?」

「(おんでもない)(ちょろいものだ)」

 ハリガネが前に進み出る。

「よし、やろう!」

 歩夢がポーチの蓋を開けた。

「(渇切の石)(烈火)(生生)(停鍵)」

 方陣の上を跳ね回り、ハリガネが指示を出す。

 次々に何の迷いも無く石を置いていく歩夢!

「(止まるな)(取り込まれぞ)」

「雪花、鶺鴒、ト角!火難!」

「(もう少しだ)(立花)(欄理)(奈落)」

 歩夢と、ハリガネの動きが止まった。

「取り込み完了!」

「(開け)(我の声に答えよ)(ソラミミ)(召喚)」

 方陣一杯の光が溢れ出し、光の柱となり、その威力で歩夢とハリガネが巻き上げられて、部屋の隅に放り投げられた。

 光は霊狩蟲達の大群だった!部屋の中が昼間のように明るくなる。

「(命)(じ)(ろ)(歩)」

 ハリガネの言葉を伝えていた霊狩蟲達が、その大群に取り込まれてしまい、もはや、ハリガネは言葉を伝える術を失いかけていた。

「わが敵をかこめ!我は鬼追師!鬼追師の歩夢!」

 霊狩蟲達の大群が部屋に溢れ、部屋から溢れていく!

「さあ!妖怪退治だ!」

 そう言って歩夢は走り出していた。

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