悲報!つまんない答え!
「(荒石を探す)(そして)(掘って)(見立てた場所に)(また埋める)」
霊狩蟲が漂い舞う中、レンレンと風小がハリガネの言葉に耳を傾ける。
「(そうして)(気の流れを整える)」
『気』はどこにでも存在するエネルギーの流れ。
そのエネルギーはあらゆるものに存在し、そして影響しあう。
その影響の関係を良いものにしようとする考えが、風水を含む一連の術である。
個々の存在する物体同士の影響を調整するのは非常に難しいが、それらを囲む地形的規模の気の流れを調整することが出来れば、その大きな良い気の流れに影響され、いずれは小さな流れも、その運気や、固体特有のコンデションに至るまで、良い方向へと修正することが出来る。
理屈ではそうなのだが、これは大変な困難を伴う。
手っ取り早いのは、『良い場所』を探し出し、そこに街を造ること。
これが基本。
だが、竜宮町の地形、そして、この環境のどこを見立ててみても、その『最良』となるべき要素は見当たらない。
そこで――。
「(この)(霊的な環境浄化を)(鬼追師達は)(何百年も)(繰り返してきた)」
誤った大祭により不浄の血を流し、土地を汚し続けた竜宮町は、この鬼追師たちの新しい環境浄化により土地の気を蘇らせたのだった。
ゆえに、今の竜宮町の気の流れは『最良』と言えた。
海から吹きつける浄化された強い陽の気を、余すところ無く街が受け治め、錆び付いた影の如く張り付く陰の気と混ざり合い、均衡の取れた気の流れをつくり、調律するように地形のバランスを正しながら街の中を吹き抜けて、ものわけさんに張られた結界によって戻され、海に戻っていく――。
「(でも)(これは危険な事だった)(荒石は)(それを扱う)(鬼追師たちの)(寿命を)(削った)(鬼追師たちは)(どんどんと)(その数を減らしていった)」
ハリガネがチラリと歩夢の方を見てつづけた。
「(歩夢のお母さんも)(荒石の力で)(寿命を縮めた)」
「えっ?」
レンレンが声を上げる。
「婆は、産後の肥立ちだって――」
「(荒石に命を削られ)(歩夢の出産に)(耐えられなかった)(解っていた事だった)(でも)(お母さんは)(歩夢を生んだ)(それは奇跡だった)(でも)(奇跡は)(二度は起こらなかった)」
「おとうちゃんはもう石に触るなって言うんだ!でも、俺、約束したんだ!じいちゃんと!大きくなったら竜宮町を護るって!」
歩夢がそう言ってひとさし指の甲で鼻の下を擦って見せた。
「俺は平気さ!おかあちゃんも、じいちゃんも、町を護ってきたんだからな!おとうちゃんだってほんとは町を護りたいんだ!でも、俺のために山の物を止めたんだ」
「(歩夢が生まれてすぐ)(ボクは)(じいちゃんに拾われた)(そして)(じいちゃんを手伝いながら)(勉強した)(荒石の使い方を覚え)(霊狩蟲の使い方を覚えた)」
ハリガネが目を閉じる。
「(やがて)(歩夢が『大きくなったら』)(歩夢を)(お手伝いできるように)(じいちゃんが護ったこの町を)(一緒にまもれるように)」
ハリガネがゆっくりと歩夢の足下へ移動すると、歩夢はハリガネを抱き上げた。
ハリガネは「くぅ」と息を吐くと歩夢の頬を舌でぺろぺろとなめ回す。
「霊狩蟲による精神交換で動物と会話するなんて――。こんな方法があったこと、私、初めて知りましたデスよ」
風小が目を丸くしてそう言った。
だがそれは、勿論、言葉の意味を極めた『言霊使い』鬼追師の丙五郎だからこそ出来た技であることはいうまでも無いことだった。
風小は傍らに立って話を聞いていたレンレンに視線を向ける。
「なんか、結構つまんない話ねん」
レンレンが言いながら歩き出す。
「ネモ!何処に行くんだ!」
歩夢が尋ねると、レンレンは振り返りもせずに答える。
「源九浪行って呑んでくる。夜には帰るわん」
軽く手を上げてそう言うと、そのまま止まろうともせずに行ってしまった。
「ネモ!!」
慌てて後を追おうとした歩夢の肩を、風小が捕まえて止める。
「そっとしておいてあげて下さいませ。色々と複雑なのだと思いますデスよ」
「?」
腑に落ちないような顔をする歩夢に風小が続けた。
「山の物が鬼追師の末裔と知ってしまったのです。本来、レンレンさんと鬼追師は敵同士なのデスよ」
「え!?」
歩夢は驚きの表情で風小を見たが、すぐにレンレンの消えた方角に視線を移す。
「あっ、でも、でも。勘違いなさらないで下さいませ」
そう言って風小は、後ろから歩夢の両肩に手を置くと歩夢と同じ方角に目を向けた。
「レンレンさんは、鬼追師のことが嫌いでは無いのデスよ」




