絶景!竜宮町バス巡り!
「封じた!荒石の力が封じられた!信じられませんデス!その巾着に強力な結界が施されているのですね!」
荒石はその強すぎる霊波のために、あらゆる自然の摂理に影響を及ぼす。
あまりに強くなれば人の命すら削ってしまうほどの力を持っていた。
ゆえに、劇薬のごとき扱いを受けることもある。
その荒石を管理するために施された結界――。
そんなものが存在している事を風小は知らなかった。
「ちょっと見してみ」
そう言ってレンレンが歩夢のウェストポーチの中を覗きこむ。
「おー!」
レンレンの驚く声につられる様に、風小も恐る恐るポーチを覗き込んだ。
「あえぇぇぇぇぇ!」
ポーチの中には、色とりどり――。
八種類の巾着袋が入っており、そのいずれもが大きく膨らんでいる。
一体どれほどの数の荒石があるものなのか予想もつかない。
「袋ごとに色分けされてるんだ。青い袋には青い石、緑の袋には緑。あと、その中で透き通ってたり、そうでなかったりで種類分けして37種類!粋珠、紅珠、碧珠――あと、えーと――」
「キミとハリガネが二人で集めたの?」
惚けたようにたたずむ風小を押しのけてレンレンが尋ねると、歩夢は大きく首を横に振った。
「俺のじいちゃんの、ずっと昔のじいちゃんの頃から少しずつ集めたんだ!」
『都で陰陽師との闘いに敗れ、落人となった退魔師の一族が追っ手を逃れて、その漁村へとたどり着いた』
レンレンの脳裏に歩夢の祖母の言葉が蘇る。
「それが――山の物」
『退魔師達は霊波的環境浄化を行う事を条件に、村へ受け入れてもらい、追っ手からかくまってもらう事ととなった』
「荒石を――、見つける。掘り出す。見立てて埋め直す?」
それが、退魔師達の環境浄化なのか?
ならば深山の者達は――。
やがて、その場の夏をかき消すような騒音を高らかにまき散らし、乾いた砂ぼこりを巻き上げながら、白い車体にブルーのラインが入った乗り合いバスがやって来て、バス停の前に止まった。
後部の扉が独りでに開くと、待っていたかのようにハリガネが乗り込む。
「いこう!」
歩夢が乗り込みながら、二人を呼ぶ。
「レンレンさん――」
風小が怯えるようにレンレン見つめた。
荒石の力を知っている風小だからこそ、踏み入れては行けない領域を、危ぶみ恐れているのが判る。
「行ってみましょ」
あっけらかんとレンレンが答えた。
「行かなきゃ宿題、終わらなそうだわよん」
そう言って、レンレンがバスに乗り込むと、覚悟を決めたように、風小も続いて飛び乗った。
バスの中、左右に列ぶ椅子の中ほど、二人がけの席に座り手招きする歩夢以外は、他の乗客の姿は無い。
見回すと、ハリガネが運転席の脇の床で丸くなっているのが目に止まったが、運転手は特に気にしている様子は無なかった。
レンレンは、ハリガネが歩夢の言うように『特別』なのだろうと納得する。
レンレンが、招かれるままに歩夢の座る席の通路側に座ると、風小はその後部座席の窓際に陣取った。
「ハリガネのお使いかい?」
運転手が振り向きもせずに尋ねる。
「そうだよ!お願いします!」
歩夢が答えると、バスはゆっくりと動き出す。
バスは進む。
蝉が鳴き立てる夏を照り返す日差しの下、白亜色に染まった竜宮町の田舎道を。
「あ、ほら!アレがキッコの家の旅館!」
空はどこまでも青く、その果てには――、さらに青い海原がさざ波立てている。
「あの岩場の裏には俺の秘密基地があるんだ!こんどつれてってやるよ!風小もな!」
まるで遠足ではしゃぐ子供のように、歩夢が、いつも見慣れた町並みをレンレンに説き明かす。
バスは、いつまでたっても客で一杯になることはなく、数人の客が乗っては降りてを繰り返し、ほとんど貸し切り状態のままだった。
乗ってきた客の中には、ハリガネを見てギョッとしたり、構ったりする者もいたが、大半は「おはよう、ハリガネ」といった挨拶を一言かけるだけだった。
「今は、朝が早いからな、海水浴客が動き出すと結構混むんだ!そうするとハリガネは乗せられなくなるからな!」
やがて、バスがあの病院の廃墟へ続く山道の入り口付近まで来ると、ハリガネがむくりと起き上がり、運転手に向かって『にゃあ』と鳴く。
「ここでいいのか?」
運転手はそう言って、バスをゆっくり停めた。
「タクシーみたいデスよ」
停留所の影も形も無い道ばたに停まったバスに、風小が目を丸くする。
バスの前側の扉が開き、ハリガネが駆け下りる。
「ありがとう!運転手さんじゃあね!」
歩夢がそう言って降りた後にレンレンが続いた。
「おいくらかしらん?」
そう言っておもむろに後ろを振り返り、風小が取り出した小銭入れを巻き上げる。
「あっ!レンレンさん!何するんデスかぁ!」
風小が慌てて取り返そうとレンレンに挑みかかった。
「うっさいわねぇ!小銭が無いのよん!」
料金箱の前で二人が戯れ合いを始めたその時、運転手が口を開いた。
「いらないザンスぅ」
固まるレンレンと風小。
ふたりで、ゆっくりと運転手の顔を覗き込む。
「あーーー!」
「タケちゃん!」
「ィッエース!あ、な、た、の!タケちゃん!ザンスー!」
そう言って、脱いだ帽子のその下は、青々としたスキンヘッドだった。




