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鬼追師の姫緒外伝 悪夢の降る町  作者: カンキリ


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降臨!あらま、何気に人気者!

「あら?今おかえりですか?随分遅かったですねー」

 旅館豊玉の若い仲居、美土里みどりが廊下をうろうろしているキッコを見つけて声をかける。

 旅館が仲居用に揃えた紫色の和服を着た美土里は、食膳を持ち、離れへ向かう途中の様だった。

「うん、源九浪のおばちゃんがスイカ切ってくれたから。歩夢くんと食べたよ!」

 そう言ってちょっと顔を赤らめる。

「あー!赤くなったあー!」

 美土里にからかわれると、キッコの顔が益々赤くなっていく。

「ち、ちがうよ!今、お風呂を借りたからだよ!お風呂から上がったばかりだから顔が赤いの!」

 なるほど、たしかに白いワンピースから出たキッコの肩や膝小僧が、日焼けとは別にほんのりと紅色に染まっているのがわかる。

 美土里はそれでも意地悪そうに笑ってキッコの反応を見て楽しんでいるようだった。

 そんな美土里の振る舞いに、キッコは、からかわれていると解っていてもスネた態度でぷいと横を向く。

「お風呂使うのはいいですけど、お風呂場で水着洗うと、また女将さんに怒られますよー」

 旅館に入って間がない若い美土里にとっては、相手がたとえ年の離れた女の子とでも、色恋沙汰の会話は楽しい物であった。

 が、不意に、今、目の前に居るキッコが旅館の女将の娘であることを思い出し、仕事中である自分の立場上、この行動をキッコが女将に世間話にでも話してしまったら――。

 それは客観的な見解から『さぼり』と言う判定を喰らってしまうのではないか?

 そんな懸念に襲われて、ショートカットのかぶりをフイと横に向けると、事の続きに戻ろうと歩き出した。

「ねぇ、美土里さん!」

 あろう事か、キッコが付いてくる。

「駄目ですよー、私これから『鮃の間』にお食事運ばなくちゃいけないんですからー!」

「あっ!やっぱり!」

 いそいそと先を急ごうとする美土里にキッコが食い下がる。

 その晴れやかな笑顔を見て、美土里はキッコの真意を見透かした。

「ダメですよー!付いて来ちゃー!」

 キッコの目当ては鮃の間に泊まっている退魔師、生川・ルークその人に違いなかった。

 離れに続くこの廊下をうろうろとしていたのは、配膳の者が通りかかるのを待っていたためであったのだろう。

 もしかしたら、係の者が自分と親しい美土里である事を知っての企みでもあったかも知れない。

「エーッ!」

 キッコが抗議の声をあげた。

「私、生川・ルークのお話し聞きたいなぁ。この間のは凄かったよぉ!竜宮町のあの病院のお話でね、『かごめかごめ』の謎解きしたの!」

「あっ!みたみた!竜宮町のお話だったからビデオ撮って観たよぉー!おもしろかったねぇ、あれ!続きはいつやるのかなぁー!って、あ――」

 照れ笑いをする美土里を、にやにやとキッコが見上げている。

「つづき。聞けるかも知れないよね?」

 キッコがそう囁くと、もはや、美土里の笑顔は共犯者のそれだった。

「ほんのちょっとだけですよー。私、ここで配膳は終わりですけど、すぐに戻らなくちゃいけないんですからー」

「うん、うん、だいじょぶ!大丈夫!」

 期待で心弾む二人の足取りは、自然と軽く早足になって行く。

「ねぇ、美土里さん、生川・ルークは部屋で何をしてるの?」

「面と向かって呼び捨てにしちゃだめですよー!ちゃんと生川さんってねー」

 そう言うと美土里はちょっと考える様に上を向き、話を続けた。

「えーと、生川さんずっとお部屋にこもりっきりで襖や畳に墨で絵描いてますよー。なんだか気味の悪い生き物がたくさんいる絵ー」

「墨の絵?」

「そう。なんて言ったっけなぁ。お昼ゴハンを特注されて持って行ったとき、聞いたんだけど忘れちゃったー。『ナントカ図』いや、『ナントカ絵』だったかなぁー」

「へーっ!」

 キッコが部屋の中に描かれていると言う墨絵に想いを馳せ、期待に瞳を輝かせる。

「『祭り』に使うんだって言ってましたから、多分、ものわけさんの大祭のイベントで呼ばれたんじゃないでしょうかねぇー?」

「源九浪のおばちゃん何にも言ってなかったけどなぁ」

 例年、ものわけさんの大祭は源九浪の人間が取り仕切る事になっていた。

「秘密のイベントなんですよー、きっと!生川さんからも、自分が泊まっているのはなるべく秘密にしてくれって言われてるんですからー」

 やがて、鮃の間と書かれた部屋の格子戸の前に着くと、美土里は止まって、キッコに言い聞かせるようにしゃべり出した。

「いいですかー?最初に私が入って、お話が聞けるかお願いしてみますからねー。ここでまってて下さいよー」

 美土里は、キッコが頷くのを確認すると、小さく息を整える。

「失礼致しますー」

 そう言って格子戸を開けると、手に持った食膳に気をつかいながら中へと進んでいった。

 期待に胸膨らませながら、キッコが廊下で待ちぼうけしていると、程なく、格子戸が再び開いて美土里がひょっこり顔を出す。

「キッコちゃんー。いいってよー。早くおいでー!」

 さもうれしそうに美土里が手招きした。

 部屋は十二畳の和室と、床が板敷の談話スペースの簡素な造りのものだったが、今は、二つの部屋を仕切ることが出来る障子戸が閉められ、談話スペース側にある唯一の窓も隠れてしまっており、仄暗い空間となっていた。

 その中央に、紫色の紋付き袴姿の生川・ルークが、アルカイックな薄笑いを浮かべて正座している。

 キッコは思わず気後れしてしまい、部屋の上がり口にたたずんだ。

「ああ、すいませんね。気が付きませんで――」

 そう言って生川は立ち上がり、頭上の蛍光灯の紐に、白手袋をはめた手を伸ばし引っ張った。

 蛍光灯が数回瞬いた後、辺りが明るくなると、部屋の中は異様な全貌を浮かびあがらせた。

 和室の畳一面には、不気味な記号と漢数字の列ぶ魔法陣が太い墨の線で描かれ、生川はその中心に突っ立っている。

 彼の足下には、人形用に特注したと思われる、革張りで堂々とした造りの、肘掛付きの独り掛け用ソファーが据え置かれ、そこに赤い和装の球体間接人形、タルトが優雅に腰を掛けてこちらを見ていた。

 法陣の外側には、部屋の出入り口付近以外、まるで、針の山のように、大小高さや形の違う真鍮の蝋燭立てが乱立し、蝋燭立てには、これもまた太さが不揃いな赤、白、黒色の、火を着けた形跡のない蝋燭が備え付けられていて、まるで、キッコと美土里を品定めでもしているように列んでいる。

 タルトの前には、広げた新聞紙大の緋毛氈が無造作に敷かれ、その上に太さの違う筆が、きちんと揃えられて20本以上は列んでいた。

 筆は、鉛筆ほどの太さのものから、野球のバット程のものと、色々あったが、大きい物はキッコのウェスト程も太さがあり。

 亜鉛加工されたバケツに並々と満たされた墨の中に突き立てられて、部屋の右隅奥に安置されていた。

 多分、床の魔法陣はこの筆で書かれた物であろう。

 四方の梁に備え付けられたフックには、荒縄が差し渡しされ、生川の頭の高さほどの中空に、四角い境界を作り出していた。

 だが、やはり、一番異様だったのは、部屋の左右に二枚づつ、計4枚の襖に描かれた墨絵だろう。

 そこには、この世には決して存在しないであろう、鬼、大首、6本の手を持つ魚、狸の顔をした花嫁行列、お歯黒の大口が顔一面を占める日本髪の女、胴体よりも長い首を持つ物等々――。

 沢山の異形の物達が、いずこかへと向かおうというのか、里山を背景に行列を作り、腕や足を振り上げて部屋の奥から手前に向かって進む姿が描かれていた。

 一筆書きにも似たデッサンで、彩色の施されない墨一色で描かれたそれは、しかし、生き生きと、楽しげに、そして、おどろおどろしく表現されていた。

 絵は、異形ゆえにはっきりとは言えないが、手足がまだ描かれていなかったり、顔がまだ描きかけであろうと思われる異形もおり、未完成で有ることが推し量れる。

「ささ、どうぞ、どうぞ」

 そう言って生川は、その異形が描かれた襖を開けて中から座布団を人数分取り出すと、部屋の中央に自分用と、入り口付近に二人の分を並べて配置した。

「し、しつれいします」

 美土里とキッコはどちらからとも無くそう言うと、勧められた座布団の上に腰を下ろしてかしこまった。

 生川は、二人が座るのを確認するように小さく頷き、自分も中央に据え置いた座布団に正座する。

「さてさて、何やら私の話が聞きたいとのこと。一体何をお話すればよろしいですかな?かわいいお譲ちゃん」

 生川がそう言ってキッコにやさしく微笑みかけた。

「あ、あのおー」

 おずおずと美土里が口を開く。

「あのー、こないだの竜宮町の病院のテレビ見ましたー。すごかったですよー。凄くかっこよかったですー。今回は、あの続きでいらっしゃったのですかー?」

 顔を上気させながら、興奮気味にそう言って、美土里が生川ににじり寄る。

「あはははははははは」

 生川が頭を掻きながら大声を上げて笑った。

「面と向かって誉められてしまうと、世辞とは解っていても、なんとも、お恥ずかしい」

 そう言って右手の甲を、二人の方へけれんみたっぷりに向けて見せた。

 其処には、退魔師、生川・ルークのトレードマークとも言える白い手袋に金糸で刺繍された彼の家紋『輝かす六芒星』が、燦然と輝いていた。

「うあー、ほんものだぁ!」

 キッコと美土里が手を取り合ってはしゃぎ出す。

「我が家紋、この『輝かす六芒星』の名に負うて!魔の蔓延はびこことわり無し!」

「きゃー!!!!」

 生川・ルーク必殺の極めゼリフに、キッコも美土里もすっかりミーハーと化していた。

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