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鬼追師の姫緒外伝 悪夢の降る町  作者: カンキリ


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インターミッション・某月某日放送TV録画『暴け!かごめかごめの怪!最強退魔師が挑む!』

「おおたぁあああああー!どうしたぁあ!おおたぁあああああー!」

 廃墟となって十数年以上は経っていると思われる病院の一室。

 背の高いメガネ面の男が、目の前での太田の急変に声を張り上げている!

『ヴ、ヴヴヴう――。ガぁあああああああー!』

 太田と呼ばれた若い男は、床材が剥がれ、埃の厚く積もった地べたに尻を着き、まるで、駄々をこねる子供が何者をも寄せ付けまいとするがの如く、狂ったように身体を振り回していた。

『ヴぅ゛ぅ゛ぅ゛ががががががが』

 そのおぞましい叫び声は、最早、人のものでも獣のものでもなかった!

 突然の成り行きに恐れおののき、後ずさる五人ほどの一団の中から、『すい』と、前に出る一人の大柄な人影があった。

大禍時おおまがときの黄金に輝く太陽の気配が私に力を与え始める」

 群青色の紋付き袴姿。

 退魔師。

 生川・ルークは太田の前まで来ると、彼を見下し、厳しい目つきでそう呟いた。

 只一人、この状況を正しくみつめているであろう彼の目に映るのは、迫る闇に心奪われ浮かれ出た、禍々しき魔物達の蠢きだす姿か。

 漂う何者かの気配を読み取ろうかと言うかのように、時折目を伏せ、何事かを唱えるように呟きながら――。

 白いサテンの手袋を着けた左手のてのひらを前に突き出し、辺りを探るように巡らせると、手袋の甲に金糸で刺繍された生川の家紋『輝かす六芒星』が彼の眼前をさ迷うように異動する。

 同じく白い手袋を着けた右手には、乳飲み子程の大きさの、赤い和装の球体間接人形が抱かれていた。

「あうろいやろれんめれりそわか」

 少しの間黙り込んでいた生川が、意を決したように切れ長の瞳で宙を睨み、短いヒゲをたくわえた口を開いて静かに呪文を唱え、人形の額のあたりに印を切り出す。

「タルト!覚醒!」

 生川が叫ぶと、生前は中世ヨーロッパの貴族『タルト姫』だった少女の霊が宿るという、球体関節人形『タルト』の瞳に怪しい光が宿り出し、廃墟の一室が――、真夏だと言うのに急激に冷たい空気で満ちていくのが感じられた。

 この人形タルトは、生川が作った和装の球体関節人形に、彼が注ぎこんだ神にも等しい霊力に魅せられたタルト姫の霊が精霊となって宿り、その見返りとして生川の退魔師としての仕事を手伝う式神となったものだと言う。

「あうろいやろれんめれりそわか・あうろいやろれんめれりそわか!」

 タルトの前で印を切りつづける生川の指の動きが、速さを増して行く!

『ぅヴぅ゛ぅ゛ががが、ぎぎぎぎぎ』

 咽喉を掻きむしり、憎憎しげに生川を睨みつけながら太田が悶え苦しみ出す。

「見たか!見たか!見たか!高貴なる我が魂、逃れられぬ、逃れられぬ!人を呪わば転生七代遅れ、人を殺めれば輪廻のみちは無し!癒しはタルトにあり!懺悔し、悔い改めよ!癒しはタルトにあり!救いはタルトにあり!」

 生川はそう言うと「えいっ!」とばかりに手刀を太田の首筋に叩き込んだ!

 太田は驚いたように跳ね上がり、辺りをきょろきょろと眺めていたが、唐突に、ばったりと床に倒れてしまった。

 その様子を見ていたスタッフが、口々に太田の名前を叫びながら、倒れている彼に駆け寄って行く。

 揺り動かしたり、介抱しようと抱き上げたりしている一団の中から、先ほどのメガネ面の男が立ち上がると、静かにたたずみ、労をねぎらうかのように人形をみつめる生川に歩み寄った。

「これは、いったい」

 男がひどくやつれた表情で生川に尋ねる。

「悪霊です」

 静かに、目を閉じながら生川が呟いた言葉を聞いて、スタッフ達がざわめき出した。

「今のは、もとより此処に居た、戦国時代の武士の悪霊に取り憑かれて暴漢になった男に殺された妊婦の霊です。悪霊に殺された彼女もまた、悪霊になってしまったのです。この恐ろしい祟りの連鎖を断ち切らなければなりません」

 生川は、重々しい口調でそう言い放つと続けた。

「この廃墟は、長い間のうちに『そういうもの』を引き寄せるようになってしまっています。ここに居る怨霊を払い、ここに他の霊を引き寄せないようにしなくてはなりません」

 そう言って、つかつかと部屋の奥の壁に近づいて行ったかと思うと、懐より一枚の短冊形の御符ふだを出し、それを壁紙が剥がれ、コンクリートが剥き出しになっている壁にぴしゃりと貼り付けた。

「もう大丈夫です。この御符より霊界への聖門が開かれ、悪霊は浄化されます」

 生川の堂々とした終結宣言に、スタッフの間から大きな歓声が上がった!


 その時、確かに。

 確かに。

 生川に抱えられた腕の中で、タルトが無邪気に笑ったのである。


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