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鬼追師の姫緒外伝 悪夢の降る町  作者: カンキリ


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和解!とことん付き合うわよ!

「私はその時、姫さまに言ってやりましたのデスよ!『姫さま。まさかとは思いますが。まさか、すっごい危険な目に遭いそうで面白そうだ、とか思って引き受けるワケじゃないですよね!』って!ええ!そりゃあもう、思いっきり問いたださせていただきましたデスよ!」

 海の家源九浪の小上がり。

 早番で仕事を上がった組の、しげちゃんを含めたゲンクロウズの面々数人をはべらかし、コップ酒をぐいぐいとあおり合いながら、風小が武勇伝に華を咲かせている。

 風小達の周りにごろごろと転がる日本酒『海亀』の一升瓶は、一体、何本開けたのか。

 誰がどれほど呑んだのか。

 何もかもがぐだぐだな、非常に見苦しい宴が盛大に盛り上がっていた。

 その脇では、驚いたことに、歩夢が喧噪を物ともせずに寝息を立てているのだった。

「私は思いましたのデスよ!新宿鈴屋のとんかつ茶漬けを所望したいと!それで三杯おかわりしたいと!だって姫さま、みっともないからって、二杯までしかおかわりさせて下さらないのデスよ」

 風小の武勇伝は、いつの間にか愚痴話に変わっている。

 日はとっくに暮れていた。

 海岸には、もはや源九浪の灯り以外は灯っておらず、人影も無い。

 その場に聞こえる音と言えば、静かに繰り返す潮騒の音に混じって、時折、誘蛾灯に飛び込む虫の弾ける音が聞こえる以外は、小上がりに陣取る、風小達の乱痴気騒ぎのみだった。

「とんかつ茶漬けは三杯食べてこそ本分だと思いますのデスよ!」

 ついさっきまで源九浪の中は、大会に出た参加者とその応援者、ただ見学していた者達等々の大打ち上げ大会となり、手もつけられないような大騒ぎになっていた。

 本来、ゲンクロウズの面々は、早番や、遅番、臨時や常駐、見習いと、5~6人が交代で海の家の仕事に従事しているらしかったが、今回、大会のためにそのほとんどのメンバーが一堂に揃っているにもかかわらず、その混乱をさばききるのは至難の業だったようだ。

 店の中は、まるで一つの大宴会のように、誰それ関係無しに酒を酌み交わし、語り合い、歌い。

 その混雑するお客の隙間を縫うようにオレンジのハッピ姿が飛び回った。

 やがて、お客は一人減り、二人減り、一組が減り、五組が帰っていき――。

 結果、小上がりに陣取る戯けた連中と、いつもの席に座るレンレンが最後に残ったのだった。

 そろそろ、潮時かとも思われたその時。

 レンレンの視界に片づけ物をするおばちゃんの姿が映った。

「ねえ、おばちゃん」

 聞こえなければそれで構わない、そんなつもりで呼んでみる。

「あらよぉ」

 まるで待っていたかのようにおばちゃんが振り向いた。

「一緒にどう?」

 ホントにそうしたかったのかは解らなかった。

 ただ、そうしても良いような気がして、レンレンはおばちゃんに向かって、持っている冷酒の入ったビールコップをかざして見せた。

「あらよぉ、お嬢ちゃんのお誘いじゃあ、おばちゃん断るわけにはいかないねぇ」

 そう言うと、おばちゃんは前掛けのポケットから同じビールコップを取り出し、レンレンの座っている机の上に置くと、正面の椅子に腰掛けて向かい合った。

「ははははははははははは」

 一瞬、キョトンとしていたレンレンが、声を立てて笑い出し、おばちゃんのコップに一升瓶から直接酒を酌む。

「あんた達って、変!」

 レンレンがそう言って再びコップを掲げると、おばちゃんもコップを掲げ、二人のコップがぶつかり合いカチンと小さく音を立てた。

「あらよぉ。竜宮町へようこそ」

 おばちゃんが小さく呟き、コップの酒を一息で飲み干す。

「乾杯」

 おばちゃんに続くように、レンレンもコップを干した。

「あらよぉ、ほんとにいい飲みっぷりだねぇ」

 おばちゃんが、レンレンにお酌しながらそう言って続けた。

「どうだい、竜宮町は?好きになってくれたかい?」

「変な言い方ね」

 注がれた酒に口を付けながらレンレンが応えた。

「まるで街が自分の物みたいな言い方よん」

 そう言ってまた酒をあおると、意地悪い笑いを浮かべる。

 おばちゃんは何事かを推し量っているかのように暫く沈黙していたが、やがて、静かに口を開いた。

「この町は私たちの町だよ。でもね、私達の物じゃないよ。私たちの都合の良いようには出来てないんだ。解るかい?」

「?」

「人が住まなければ土地は町にならない。人がその土地で生きるために町を作る。土地は、町になると人を護ってくれる命を持つようになるんだ。町は生きているのさ」

 そう言って、おばちゃんは酒をあおってふうとため息をつくと、再び話し始める。

「でもねぇ、町は人が手を入れて創った物だからねぇ。町だけでは生きられ無いんだよ。だから、町を生んだ住民達は町が生きていけるように、町が町として人を生かしてくれるように手をかけてやらなければならない。増えすぎたり伸びすぎたりした森の木の手入れをするようにねぇ。人は町が無ければ生きていけないんだからねぇ」

「私は街に手をかけたことや、守った事なんて一度もないわよ。でも、私の住んでる街は街のままだわ」

「町の世話を焼くのは町が好きな人達さ。誰に頼まれたわけではない。誰に頼む物でもない。町が好きだから世話を焼く」

 おばちゃんがそう言うとレンレンは「フン」と鼻を鳴らす。

「私が街を嫌っているってわけ?」

「そうなのかい?」

 おばちゃんがそう言って空になったコップに手酌した。

「べつに。好きでも嫌いでもないわん」

「それでいいんだよ。そんな人がいてもいいんだ。人がいなくちゃ町は生まれないんだからね。お嬢ちゃんはその町に好かれてるんだよ。でもね、町が好きな人がいなくなれば、育たない。町は死んじまうんだよ」

 おばちゃんがレンレンのコップが空なのに気づいてお酌した。

「町を好きになる。それが、町で生きるための町への礼儀というわけさ」

「ねぇ」

 レンレンが静かに口を開く。

「あなた。浪の物?それとも、山の物かしらん?」

「あらよぉ。いい夜だねぇ――」

 おばちゃんは酒を飲み干し、大きく息をつく。

「トコトン付き合うわよん」

 そう言うとレンレンが再び乾杯した。

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