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鬼追師の姫緒外伝 悪夢の降る町  作者: カンキリ


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決着!紡まれた想い!

 歩夢がゼッケン2番の選手、会場のしげちゃんを指差して叫ぶ。

 場内からどよめきが起こった。

「!」

 しげちゃんは机の前に立っていた。

 その足下には、明らかに故意に落とされたと解るかき氷の器が、うつ伏せになって転がっている。

 タケちゃんが近づいていき、落ちている器を確認する。

 どけた器の下には一口ほどの氷。

「審議!」

 タケちゃんが右手を挙げて叫ぶと、数人のゲンクロウズの面々が彼の基へと駆けて集まった。

「……」

 パイプ椅子に座っていたおばちゃんも、無言のまま立ち上がると、タケちゃんの基へと歩み出す。

 それを見送るレンレン。

 歩夢が興奮気味に口を開いた。

「俺、観てたんだ!」

 レンレンが、ぴくりと小さく眉を跳ね上げて、そんな歩夢に視線を移す。

「しげちゃんが器を放り投げたのは、ホイッスルが鳴る前だ!試合は終了していなかった!だから――」

 大きなハウリングに歩夢の声がかき消された。

 会場の真ん中を陣取り、源九郎のおばちゃんが仁王立ちする。

 隣にはタケちゃんがマイクを握りしめて立ち、二人の後ろに、ゲンクロウズが6人横並びに控えていた。

 おばちゃんがマイクよりも大きく通る声を張り上げた。

「大会代表者よりただいまの審議について説明させていただきます!しげちゃんの6杯目ロストのタイミングが、競技終了前か後か。このことについて、慎重に協議が必要であると申し出がありましたので、審議したところ、審判役6名の内4名が競技終了前のロストであると確認しておりました。よって――」

 おばちゃんがタケちゃんに目配せをすると、一つ頷いて、タケちゃんが割って入った。

「しげちゃん6杯目を競技中にロストザンス!よってペナルティ発動!完食数は4杯!優勝は――」

「納得出来ませんでございますデスねぇ!」

 がっくりと膝を落としていた風小は、そう叫ぶと立ち上がり、険しい表情でゆっくりしげちゃんに向かって歩き出した。

「競技に負けたのであれば、私が腹を切れば済む事でございますデスが、このようなお情けで勝たせていただいたのでは姫さまにあわせる顔さえございませんデスよ!」

 しげちゃんは近づいてくる風小を見ながら何事かをタケちゃんに耳打ちした。

 小さく頷いていたタケちゃんが、マイクを握りなおして口を開いた。

「ちょっとまってくれ。スク水番長」

 そこにはあのテンションの高いタケちゃんはいなかった。

 思わず風小が足を止める。

「うちのしげが番長に話があるそうだ。会場のみんなも聞いてやってくれ。つーか、俺も聞きてー!聞かなきゃ納得できねぇだろ!こんな結末はよ!」

 そう言うとタケちゃんは、睨むように、そして荒っぽく突きつけるように、しげちゃんにマイクを渡した。

「聞いてほしいッス――」

 しげちゃんが言葉をしぼり出す。

「俺は、この大会が大好きッス。人によってはばかばかしいかも知れないスけど、俺はこの大会のチャンピオンであることに誇りを持っているッス。いや、誇れるチャンピオンであろうと思っているッス!その大会において俺は――、勝負の中で勝負を忘れたッス。誇りを忘れちまったッス!」

 誰もが思い出していた。

 レンレンの口車に乗って野生化したしげちゃんの姿を。

 そして、まさかのペナルティー。

 そこにチャンピオンの風格は無かった。

 ヒーローの下衆な姿に、がっかりした自分達を思いだしていた。

「風小ちゃん。あんたは最後まで勝負を諦めなかったッス。俺の好きなこの勝負を最後まで真剣に闘ってくれたッス!そのおかげでこの大会の誇りは護られたッス!」

 しげちゃんが静かに目を閉じる。

「俺はチャンピオンとして、今回の勝負に勝つわけにはいかねぇッス――」

「そんな身勝手な!」

 風小が怒り出す。

「勝負は俺の勝ちッス!」

 しげちゃんがそう言って目を開いた。

「誰の目からもそれは明らかッス!この競技は運だって実力の内ッス!」

「そこまで解ってらっしゃるなら!なぜ、私に恥を晒させるような真似をなさるのデスか!」

 風小が詰め寄ると、しげちゃんは、転がっている器を指差して静かに語り出した。

「これは、俺からの風小ちゃんへの挑戦状ッス!」

「挑戦状?」

 風小が、復唱するように静かにつぶやく。

「そうッス!勝負は俺の勝ちッス!だけど、俺の気持ちはこのどんぶりのようにひっくり返っちまってるッス!だから――。だから!もし、『今日、勝ったのが悔しい』なら!」

 そう言って左手を差し出す。

「また来てほしいッス!一年後!この竜宮町へ!そして、俺ともう一度戦ってほしいッス!スク水番長!」

 シン。

 と、静かな空気が辺りを包んだ。

 風小が頭を掻きながら口を開く。

「あー、まぁ、挑戦ならば受けざるをえませんデスよねー」

 そう言ってにやりと笑い、風小がひでちゃんの差し出した手を握り握手する。

「次は負けませんデスよ!」

「俺も負けねぇッスよ!次はチャンピオンとしてふさわしく勝ってみせるッス!」

 会場からぱらぱらと拍手が起こり出し、やがてそれが広がっていき、割れんばかりの拍手となり、大きく波打つように砂浜に響き渡った。

「勝者!ゼッケン4番!風小ちゃーんザンス!」

 入道雲の湧き出る蒼穹に、高らかにタケちゃんが宣言する!

「あらよぉー!いい試合見せてもらったよぉ!」

 何時の間にか、風小の脇におばちゃんとレンレン――、それに歩夢が立っている。

 風小が、レンレンの前に進み出て、嬉しそうに小首を傾げて口を開いた。

「レンレンさん!勝ちましたデスよ!」

「ばーか」

 レンレンは無表情で答える。

「こんな営業に引っかかってどうすんのよん。また来年来なくちゃならないじゃないよん!あんた独りで来なさいよ!私は知らないからね!」

「ネモは風小が勝つって知ってたよ!」

 歩夢が風小の手を引きながらしゃべり出す。

「風小だから絶対勝つって言ってたぞ!」

「あらよぉ!今日はきぶんがいいねぇ!おばちゃんからのプレゼントだよぉ!本日只今より、海の家源九浪の全商品当日限りの半額セールだよ!みんな!とことんやっつけてっておくれよー!」

 おばちゃんは、そう言うと風小と歩夢の肩に手を回し、愛しそうに代わる代わる引き寄せて、頬を近づけた。

 くすぐったそうに風小と歩夢が微笑む。

「さて――と。それじゃあ、遠慮なしに呑むわよん!」

 そう言うとレンレンは踵を返し、スタスタと源九浪へ向かっていく。

 誰にも見せないその顔に笑みを浮かべながら。

「へんな奴らねん」

 押さえようとする微笑が次から次からこぼれてしまう。

「でもぉ。キライじゃないわよん」

「あらよぉ!あんちゃん達!もう一踏ん張り頼んだよう!」

 ゲンクローズは力一杯叫んだが、その声は、観客達の声援でかき消されてしまった。

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