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鬼追師の姫緒外伝 悪夢の降る町  作者: カンキリ


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問答!答えはここにあり!

 棒の先に付いた花火を、地面に立てた蝋燭に近づけ点火すると、花火の先からは柳の葉の様な色とりどりの火花が滝のように流れ落ちた。

 風小はそうやって次々に、合計4本の花火に点火すると、火が付いた先から空中に放り投げる。

 花火はクルクル回って火の輪になり、夜陰の空間に大輪の花を咲かせた。

 やがて、火の粉を散らしながら落ちてくる花火の輪を、風小が器用に受け止めて再び空中に放り出す。

 風小が伸び上がる度に、Tシャツのドクロのイラストは、彼女の胸で笑うように踊った。

 まるで、大道芸人のお手玉のように花火の輪が中を舞い、そして、輪の軌跡に、まあるい煙の跡を浮かび上げ、沢山の水玉模様を夜の闇に貼り付けて行く。

「水玉!火の玉!漆黒の夜色に映えて!夜涼の一興、感じて頂けましたら恐縮至極ー!」

 風小が口上を述べながら、『お手玉』のスピードを上げていく!

「すげえぇー!風小!!!!」

 縁側でレンレンの脇に座り、庭の真ん中で次々に風小が繰り出す人間離れした演技を観覧しながら、興奮気味に歩夢が身体を揺らして歓声を上げる。

 レンレンを挟んで反対側には老婆がちょこんと正座して彼女の方を向き、ゆっくりと団扇を振りながら、レンレンに風を送っていた。

「文字通り『神業』ねん」

 風小は人の形をしてはいるが人間ではない。

 鬼追師の姫緒が盟約を結ぶ『あやかし』。式神である。その正体は赤い扇の付喪神つくもがみ人の世の言う『神』とは多少違いはしたが、神の名を冠していることには違いない。

 レンレンは、冷酒の入ったグラスをあおりながら、何事かを風小に目配せすると、風小がそれに答えるように、にっこりと頷き、花火をすべて手に納め火を消した。

「さあさあ、歩夢さん!見ているばかりでは本当の醍醐味が御座いませんデスよ!一緒に、醍醐味ましょうデス!」

 そう言って、風小が花火の詰まったパックを差し出すと、待ちかねたように歩夢が走り寄り物色し始めた。

「ねえ」

 見計らったようにレンレンが、老婆に語りかける。

「ちょっと宿題の答えあわせをしたいんだけど」

 老婆はただ静かに微笑んで団扇を左右に振っている。

「私はねぇ、この町に何か秘密があるんだと思っていた。うート。そうじゃなくて、『知られてはいけないこと』ではなく、他の人が『知らないだけのこと』。て、ことは厳密に言えば秘密じゃないわねん」

 そう言ってグラスをあおる。

「とにかく。だから、私は鍵穴を探した。その秘密を知るための鍵穴。それはどこかに隠れているはずだった。病院、裏山、あるいは『ものわけさん』」

 庭では歩夢と風小が花火を始めた。

 歩夢の花火が彩りの火花を散らし出すと、彼はそれを誇らしげにレンレンに振って見せる。

「でも、違った」

 レンレンは、そう言って自嘲ぎみな笑いを浮かべた。

「それは、隠れていなかった。その鍵穴が見つからなかった理由は『大き過ぎた』から。あまりに大きくて気が付かなかった。この町すべてを飲み込むほど大きな鍵穴。つまり、この『秘密』は『あたりまえ』の事。子供から大人まで、生活する中で呼吸をする事のようにあたりまえにある日常」

 レンレンの瞳が小ずるく光る。

「この町には妖怪が住み、ここの子供は風を読む。それが当たり前の日常」

 レンレンがそう言うと、老婆は団扇を振る手を止め、その場に置いて座り直すと、口を開いた。

「ひとつ、年寄りが昔話をお聞かせするとしよう」

「?」

「あるところに、小さな漁村が有ったそうな。その漁村の土地は痩せて、作物も家畜も村を潤すほどの収穫が出来なんだ。村は海産物の収穫だけに頼らざるをえなんだが、それすらも、豊かというほどの物ではなかった。村人達は、わずかな収穫から、生きるためにギリギリの食いぶちを確保し、残った海産物をほかの町に行商することで、少々の金銭を手に入れておった」

 深い皺の表情を変えることもなく、とつとつと語り続ける老婆。

「年に一度。大切な海の幸を恵んで下さる海の神様に、村を挙げて大祭を開いた。その祭りのために大切に育てた家畜――。陸の恵みを生け贄として捧げ、感謝の意を表したと言うことじゃ」

「この町の話?」

 老婆は答えない。

「そんなある時。都で陰陽師との闘いに敗れ、落人となった退魔師の一族が追っ手を逃れて、その漁村へとたどり着いた」

「!」

「一族はその土地の山奥に落人部落をつくり住みついたが、すぐにその土地が、霊的にも貧弱で、そのうえ、誤った大祭による不浄化により、死滅しようとしていることを突き止めたのじゃ」

「……」

 老婆は話を続ける。

 

 退魔師の代表と村の代表が話し合い、取引をした。

 「その結果。退魔師達は霊波的環境浄化を行う事を条件に、村へ受け入れてもらい、追っ手からかくまってもらう事ととなった」

 二つの種族が共同の営みを行うに当たって、退魔師の妖術を恐れた村人と、村人の無知を恐れた退魔師達との間に約束事が取り交わされた。

 それが『なかれ』の戒め。

『汝、侵スなかれ、疎ムなかれ』……。

 互いに干渉せず、互いに忌み嫌うべからず。

 霊力によって町を護る者と、退魔師達をかくまう者がそれぞれ退魔師と村人の中から選び出され、その役割を果たす者達の役職を『物』と称して『者』と区別した。退魔師をかくまう物達は『浪ノ物』と呼ばれ、村を浄化する物達を『山ノ物』と呼んだ。

 『者』を『物』に分けたこの契りを『者分ものわけ』と呼び、霊場は新たに『ものわけ』の名で呼ばわれる事となる。

 

 老婆の話が終わったようだった。

 ニコニコと笑いながら立ち上がると、難儀そうに庭へと降りる。

「ちょっとまちなさいよん!その退魔師の一族って、ひょっとして――」

 そこまで言って、レンレンが視線をやった老婆の後姿のその先に、見たことがある、やせっぽちで背が高い女の子が竹編みの大きなザルを持って立っているのが見えた。

「キッコかい?何かお使いかい?」

 老婆がそう言ってゆっくりとキッコに近づいていくと、キッコも、茶色く焼けたロングヘアーを揺らしながら走りより、歩夢と風小が花火で遊ぶ脇を抜け、縁側からあまり離れない所で老婆の前に立った。

「深山のおばあちゃん、こんばんわ」

 キッコはそう言って挨拶すると、手に持ったざるを老婆に差し出した。

 ざるには、トウモロコシが6本盛られており、つやつやと大きな黄色い粒から、まだうっすらと湯気を立ている。

「お母さんが、深山のおばあちゃんのところにお客さんが来てるから持っていけって!朝もぎしたとうもろこし!」

「おやおや、ありがたいねぇ。ほらほら、歩夢、風小、暖かい内にいただきなさい」

 老婆がキッコからザルを受け取りながら二人に声をかけた。

「あとで!」

 歩夢は花火に夢中な様だ。

「あ――」

 風小は一瞬、物欲しげな顔つきをしたが、レンレンの様子を伺い、まだ自分の役目が終わっていないようだと感じて歩夢に付き合うことにした。

「わ、わたくしも、あとで――」

 老婆があきれ果てた顔をする。

「暑かったろ。サイダーでも飲んで行きなさい」

 老婆はキッコにそう言って、とうもろこしの入ったザルをレンレンの脇に置くと、縁側に上り、そのまま振り向きもせず家の奥へと消える。

「一緒に花火でもやれば?」

 レンレンがいつまでも突っ立ったままのキッコに声をかけた。

「ネモさん――」

 キッコがおずおずと口を開く。

「ネモでいいのよん」

 やぶにらみしながらグラスを口に運び、レンレンが答える。

 キッコが戸惑うような表情を見せた。

「誰でも私を呼ぶときは、ネモでいいのよん」

 キッコの表情が明るくなる。

「ネモ。私、横にすわってもいい?」

 レンレンは親しげな笑顔でキッコに小さく頷くと、花火に興じる風小達へ視線を移した。

 キッコは縁側に腰掛け、そんなレンレンを、そわそわと、そして、ためらうようにしばらく眺めていたが。

 小さな声で囁いた。

「ネモ――」

「ナニ?」

 突然目を合わせて来たレンレンに、気後れするようにキッコは下を向いた。

「ネモ。アノネ私、同じクラスの子の中で一番背が高いの――」

 キッコがレンレンと目を合わせる。

「男子よりも大きいんだよ。一年上のクラスの人たちとでも大きいほうなの」

「ふーん」

 と、なれば、キッコは年上ではなく、やはり歩夢と同じ歳くらいなのだろう。

「でもね」

 キッコが浮かない顔になり下を向いた。

「わたし。クラスで一番――」

 聞き取れない声で何かを言っている。

「?」

 言葉を聞き取ろうとレンレンが顔を近づけると、それに気づいたキッコは彼女の耳元に口を寄せてささやいた。

「クラスで一番――、胸ガちいさいノ――」

 そう言って恨めしげにレンレンの一点を凝視する。

 その視線の先は、浴衣からこぼれ出しそうなレンレンの胸だった。

「およ?」

 レンレンが自分の両胸を持ち上げて見せて、これで間違いないか確認する。

 キッコは小さく頷いた。

 必死に笑いを堪えるレンレン。

 キッコの顔が真っ赤になり、口をへの字にする。

「真っ黒で、やせっぽちで、ひょろ長くって――。男子がね、マッチの燃えカスみたいだっていうんだよ」

「あのガキもそう言ったの?」

 レンレンが庭先の歩夢を指差して尋ねた。

「ううううん」

 キッコが激しく首を振る。

「歩夢くんは言わない。他の男子も歩夢くんの前では言わない」

「かばってくれるの?」

 レンレンがそう言うと、キッコが小さく頷いた。

「やさしいんだ?」

「歩夢くんはみんなにやさしいよ!」

 あたふたと弁解するようにキッコが答えた。

「ねぇ――。ネモ」

「なぁーにぃ?」

 意地悪い微笑を浮かべて返事をするレンレンの、視線を避けるようにして、キッコが口を開いた。

「どうしたら。おっきくなる?ムネ」

 キッコの表情はこの上も無いほど真剣だった。

「かってに大きくなるわよん。『女』になればね」

「わ、わたし、女だよ!」

 キッコは真剣に怒っているようだった。

「『女の子』でしょ?」

「大人になればってこと?お母さんもそう言ったケド――」

 そう言ってキッコはそっと胸に手を当てた。

「違うわよん」

 レンレンがキッコのアゴを掴み自分の方へと顔を向かせる。

「『女』よん!おんな!ガキでも大人でも関係ないわ!ここに――」

 自分の胸を叩く。

「世の中のいろんな事を、これでもかっ!ってくらい詰めて、詰めて、詰め込こむのよん!そうするとね、胸を張らなきゃいられないほど苦しくなるの、そんで、胸の奥のほうが飛び出して来るほど熱くなるのよん!いてもたってもいられなくなるからね!その気持ちをもって外へ出るの!そんで、見つけるの!」

「何を?」

「自分の胸をもっと熱くしてくれるもの」

「?」

「わかるわよ。女になれば」

「わたし。なれる?」

「女の子はいつか必ず女になるのよん」

 キッコの顔が輝いた。

「キッコー!線香花火で誰が一番長く出来るか競争しようぜ!」

 歩夢がそう言って花火の束を振りかざす。

「ほら!詰め込んで来い!」

 そう言ってレンレンがキッコの背中をポーンと叩くと、キッコは一瞬、驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑み、頷くと、歩夢達のもとへと駆けて行った。

「さあて!」

 レンレンは、脇に置いてあるザルからトウモロコシを一本鷲づかみにすると、リンゴでも丸かじりするようにかぶりつき、食い千切る。

「まずは、あの『粗品』に一泡吹かせてからってことよん!」

 そう言って、レンレンはさも満足そうに手の甲で口を拭った。

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