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7話 だから離れようとした

 サンドウィッチを分け合い、私たちはしばらくの間町の景色を眺めていた。たまにはこんな時間の潰し方もいいかもしれない。

 時計を見ればもう夕方前。そろそろ帰らねば、出かけることを話しているとはいえ、使用人たちが心配してしまうだろう。最初より気にかけられなくなったとはいえ、仮にも自分は王妃なのだから。

 ふと視線を彷徨わせると、先ほどのサンドウィッチ屋に焼き菓子が売っていることに気が付いた。

 専属のメイド、執事、付き人たちにはいつも世話になっている。私が森へ行こうが、馬を走らせようが、斧を片手に森へ篭ろうが、小屋に入り浸っていようが、何も言わずにいてくれるのは、本当にありがたい。そのため、出かけた際はいつも、何かを買って帰っていた。


「少し待っていてくれ。家の者たちに土産を買ってくる」

「俺も行きます」

「いや、あの店に行くだけだから大丈夫だ。君はここで待っていてくれ」


 立ち上がろうとしたジャスパーを止め、私は再び店へと向かった。



 カヌレにクッキー、フロランタン、おまけにリーフパイまで。数々のお菓子が入った箱を見つめる。

 サンドウィッチは美味しかったし、これなら、口が肥えてきた使用人たちを満足させることができそうだ。最近「前食べたマフィンの方が美味しかった」とか言ってくる彼らを。

 舐められているというより、信頼されているからこそ言える感じなので、咎めるつもりはない。しかし、お礼を渡すなら、心から喜んでもらえる物を渡したいのだ。


(まぁ、これもお礼というか、勉強を頑張っているご褒美というか……!)


 手首にかけた小さな紙袋をチラ見した。中には、かわいらしい骨型クッキーが入っている。

 喜んでくれるかな、とどこか期待してしまうのは、初めてプレゼントを渡すからだろう。誰が相手でも初めて渡す時は緊張するものだ。


(さて、ジャスパーは大人しく)


 顔を上げた私は、足を止めた。

 その場に貼り付けられたように動けなくなる。


 視線の先には、可憐な少女たちが二、三人、黒髪の青年を囲んで、楽しげに何かを話していた。


 乙女らしい長い絹髪からはリボンが揺れ、ピンクや水色のパステルカラーのドレスは、華奢な体を誇張している。太陽のように眩しい笑顔が向けられているのは、他でもない、ジャスパーだ。

 彼は後ろを向いていて、どんな表情を浮かべているのかはわからない。


(あれ? なんで、私、息が)


 呼吸が早まっていく。胸が痛くて、苦しい。

 鼓動のリズムは変わっていないはずなのに。


(深呼吸しろ、落ち着け、呼吸を乱す理由なんて、何も――!)


 鋭い痛みが、胸を刺した。


「つっ」


 ほんの一度だけ息を吸って、駆け出した。

 こちらへ振り向いた彼の顔を見ることもせず。


「アカシア様!」


 彼のミスを指摘することはできなかった。

 ただ、訳のわからない苦しみから逃げたくて、一人になりたくて、町の側に預けていた馬へ飛び乗った。

 こんな感情、初めてだ。


「ごめんなさい」


 そう手短に伝え、いつもより速く馬を走らせた。

 でないと、優しい彼に、捕まってしまいそうだったから。

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