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23話 のこしたものを拾い集めて 中

 国王の話によると、アカシアは魔道具造りが得意なようだった。そして、二人で魔道具を造り、それを学園のあちこちに隠したり、埋めたりしたそうだ。その中にはアカシアが一人でつくったものも多く存在し、その数は全体の約半数だとも。

 では、何故ここに魔道具が集められたのか。

 それは、アカシアが亡くなるよりずっと前、ラルフが産まれた数週間後に、彼女があることを国王に話していたからだ。

――もし自分に何かあったら、三十一個の魔道具をすべて集めてほしい。

 そう、こっそりとこれの耳元で、二人以外誰もいない部屋で伝えたらしい。

 だが、国王である彼が、魔道具を探しに学園へ頻繁に訪れることは難しい。学園へ承諾を受けるにしても理由がいる。そうすれば、アカシアが秘密裏に話した意味がない。どうにかして個人で集め切る必要があった。

 そこで、息子のダンが入学した際に、探すよう指示したらしい。そのような大事な落とし物を探していたとは、驚きである。

 ルミナスは箱にぎっしりと詰まった魔道具を見下ろした。たった四年でこれほどの精度のものを、三十一個もつくるとは、彼女が魔道具造りが得意であることは確からしい。

 ふと、国王がため息をついた。


「ここにある魔道具の数は三十。あと一つ足りない。だが、彼女と共に魔道具を隠した時の記憶では、その数は三十だったはずだ」

「では、学園を卒業した後に隠したということでしょうか?」

「それか、彼女一人で隠したか、だろうな」


 ふむ、と国王は顎髭を撫で付けた。

 その時、ジャスパーが魔道具の一つを取り出した。


「やっぱり」


 そう、静かに呟くジャスパーに、全員の視線が集まる。彼の眉間には微かにシワが寄っており、これから紡がれる言葉がルミナスたちにとってよいことでないことは、簡単に予想がついた。


「魔道具から、アカシア様の魔力が感じられません。恐らく、すべて壊されているかと」

「なんだと?」


 国王は自身が持っていた魔道具の側面を触り、起動スイッチを押した。何も起こらない。

 次いで本型の魔道具を取り、機械仕掛けの装飾を動かして中を開いた。やはり何も起こらない。ルミナスたちも他の魔道具を取り、同じように動かしてみるも何も起こらなかった。


「きゃっ!」


 突如バチリと光がほとばしった声を発したセレナへと視線を向けると、魔道具からバチバチと光の火花が散っていた。セレナはやってしまったという表情で、そっと指先を握っている。火花はすぐに消えたが痛そうだ。


「それを貸していただけませんか?」

「は、はい。どうぞ」


 ジャスパーはセレナから魔道具を受け取り、じっと中を物色した。次いで「ごめんなさい」とこぼした後、バキリと音を立てて勢いよく二つに折り割った。

 中からはヒビが入ったアメトリンが入っていた。持ち上げるとパラパラと破片が落ちていく。

 宝石は魔道具の核となる。これほど傷ついているのならば、使えなくて当然だ。


「他も同じでしょう」

「そうか」


 はぁ、と息を吐き、国王は再び椅子に座った。


「ビーシュが壊したものだと思われます。気付けず、申し訳ございません」

「いや、私も迂闊だった」


 ダンが国王へと体を折った。微かに見えた表情は悔しげに見えた。


「ビーシュさんも関与していたんですね」


 セレナが光のない目で問いかけた。ダンは静かに頷く。

 

「実は、僕が回収した魔道具をビーシュに王城へと届けてもらっていたのです。その時に破壊されたのでしょう」

「アカシアがどのような物をつくったのかまでは知らないが、何か裁判を有利に進められるのではないと思い、用意したのだが残念だ」

「裁判を?」


 ディランの問いに、今度は国王が答える。


「そうだ。魔物の裏取引とアカシアの殺害、もしかしたら経歴詐称の疑いもある。だが、取引以外に確固たる証拠が残っていなくてな」

「あ、あの!」


 突然ジャスパーが声を張り上げた。少しおどおどしながらも、ダンへと視線を向けている。いや、正確に言えば、ダンの腰辺りだろうか。


「どうした」

「その、気のせいかもしれませんが、殿下のポケットから彼女の魔力が感じられるのです」

「それは、この三十一個目の魔道具のことでしょう。予想ですが」


 そう言って、ダンはポケットへと手を入れた。取り出されたのはハンカチに包まれた何かの塊で、開くと中から鎖のないペンダントロケットが現れた。


「それは……!」


 ふと、女王が声を上げた。ダンへと駆け寄った。ダンが王女へと、ハンカチごと丁寧な手つきで手渡す。


「金細工のミモザと、シトリンの飾り……二人で買ったものだわ。デザイン違いのものなのよ」


 女王は彼女自身の首かは垂れる鎖を手に取り、グッと引っ張った。中からは似たような大きさのペンダントが。小さく光るアメジストの隣で、少し錆びれたバルーンフラワーの銀細工がきらめいた。


「そのようなものを買っていたのか」

「三人でお忍び旅行に行った時に」

「ではやはり、学園を卒業した後につくったのだな」

「そうみたいですわ」


 女王は頷き、魔道具を国王へと渡した。少し観察したのち国王は側面のスイッチを押した。劣化して固いのか、親指の爪先がじんわりと白くなっている。

 思いの外ペンダントは勢いよく開いた。しかし、何も起こらない。だが、何かを感じたのか、国王はジャスパーへとペンダントを差し出した。


「君とラルフの写真が入っている」

「えっ?」


 ジャスパーはバッとペンダントの中を見た。そこには、夜空の下、窓際でまだ赤子のラルフを抱えているジャスパーの姿があった。彼にとって死角になるであろう位置に、女性らしき影が写り込んでいる。

 彼の顔がぐしゃりと歪んだ。


「……写真は撮らないと、そう約束したのに」


 呆れたように、愛おしむように、嘆くように、彼は微笑んだ。涙が一筋だけ頬を伝う。細められた瞳の境界と、ペンダントを持つその手は震えていた。

 そこへディランがやって来た。ジッとペンダントを見つめ、次いで、頭を傾けて体を起こした。


「確かに、ここにいる人間以外の魔力を感じる」

「開いただけでは何も起こらなかったわね。他に何かスイッチがあるのかしら?」

「迂闊に解体することはできませんし……」


 ディラン、ルミナス、ダンの三人の視線がペンダントへと集中する。


「あら?」


 ふと女王のペンダントへと視線を移したその時、ほんの少しの違和感が。失礼を承知で女王とアカシアのペンダントを見比べる。アカシアの方が分厚い気がする。魔道具として改良されたからだろうが、なんとなく、それだけではないような。


「何か気になることでもありましたか?」


 ダンがルミナスの顔を覗き込んだ。視線をペンダントに向けたまま小さく唸る。


「魔道具の核をこの表面にはめ込まれたシトリンだとするならば、ここまで分厚く改良されるとは思えないのですわ」

「なるほど……中は軽いですね」


 ダンはアカシアのペンダントを軽く振った。


「もう一つ開け方があったりして」


 ルミナスは小さな声で呟いた。

 話を聞く限りこの魔道具は訳ありだ。なら、念には念をということで、特殊な開け方があってもおかしくはないだろう。

 ダンと共にペンダントを見つめていると、誰かが袖をくんと引いた。二人して振り向くと、ラルフがこちらを見ていた。


「ぼくも見ていい?」

「ああ、もちろんだよ」


 差し出されたペンダントを、ラルフは恐る恐るといった手で受け取った。表情が固い。

 しかし、すぐさま瞳がキラキラとしだした。


「『母は空の海となりて』の中に入っちゃったみたい」


 そう、嘆息混じりにラルフはペンダントを掲げた。


「初めて聞きましたわ。王家に伝わる子守唄ですか?」

「いえ、僕も初めて聞きました」

「母上が毎日、眠る前に歌ってくれていたんです」


 ラルフは二パーッと太陽のように笑った。


「そういえば、アカシア様は詩も上手でしたわ」


 女王の昔を懐かしむような物言いに、国王が「はて」と首を傾げた。


「学園ではそのような噂、流れていなかったように思うが」

「ファンは私一人でしたもの」

「私も一度聞けばファンになっただろうに」

「あなたとはバカをやりたかったのでしょう」

「フッ、アカシアらしいな。だが、もう聞いてもいいだろう。ラルフ、どうか歌ってみてくれないか?」

「わ、わかりました」


 ラルフはコクンと頷き、恥じらいながらも小さな口を開いた。鋭い犬歯が薄い唇の隙間から覗く。


「わたしの愛しい人 どうして泣いているの

 わたしの愛しい人 どうして困っているの

 夜空を見て 夜空はわたし

 部屋からわたしへ風が吹き

 あなたの悲しみを さらってあげる」


 ラルフはふぅ、と小さく息を吐いた。そわそわと地面を見ながら揺れている。


「これが子守唄か」


 細められた二人の目が、哀愁の色を滲み出した。セレナは泣いている。ディランは船を漕いでいる。

 対するルミナスとダンはというと、納得のいかない表情をしていた。


(最後のフレーズに違和感があるのよね)


 歌の流れでいくのなら、悲しみをさらうのは風のはずだ。「あなたの悲しみがさらわれる」と表記した方が自然なように思える。わたしである夜空がさらうわけではないのだから。


「ペンダントをもう一度見てもいいかしら?」

「うん、どうぞ」

「ありがとう」


 受け取り、隅から隅まで観察してみる。すると、ほんの少し夜空に穴が空いているような気がした。いくつもの星の部分に重なっている。

 ルミナスはダンへと夜空を見せた。


「殿下」

「はい、なんでしょう?……なるほど、ラルフ。もう一度歌を歌ってくれるかな?」

「いいけど、どうしたの?」

「やってみてごらん。あと、最後に思いを込めて、写真へと息を吹き込んでみるんだ」

「それなら、ジャスパー様も一緒に吹き込まれた方がよろしいのでは? 文脈と写真から『愛しい人』は二人のはずですわ」

「そうですね。では、ジャスパー様もお願いします」


 ラルフはルミナスからペンダントを受け取った。頭を傾けながらも、再度口を開いた。

 優しく穏やかな歌声が部屋へ響く。


 そして、最期のフレーズが紡がれた。

 腰をかがんだジャスパーと、ラルフが目を合わせた。そっと息を吹き込む。


「うわっ!」

「きゃっ!」


 途端、激しい突風が花の香りをのせてペンダントから飛び出した。あまりの勢いに、スカートやら髪やらカーテンやらが暴れ、はためく。

 風は一瞬にして収まり、ルミナスは思わず閉じていた目を開けた。


「(黄色い花が舞ってる)……アカシアの花弁?」

「あっ!」


 突如ラルフの声が響き、ルミナスたちは彼の方へと一斉に目を向けた。

 衝撃でペンダントが飛んでしまったのか、彼は先ほどいた場所から離れた位置で床に膝をつき、ペンダントを見ていた。つぶらな瞳と小さな口がこれでもかというくらい開いている。


「母上?!」

「えっ?!」


 部屋の中に、全員分の大きな声が響いた。

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