12話 成功からのトラブル発生
「できたな」
「できたわね」
「できましたね」
実験室にて、ルミナスたちは完成した魔道具を見つめていた。全員の顔には安堵と疑心暗鬼、両方の色が見える。
それもそのはず。何週間かけてもなし得なかったことが、たった三日でできたのだから。
「運用がうまくいけば、小型もつくりたいな。アクセサリーのように身につけられて、持ち歩けるようなデザインがいい」
「いつでもどこでも、魔物に対処できますね」
「なら、デザインは数カラー展開した方がよさそうね」
「スタイリッシュなデザインと、キュートなデザイン、タイプもいろいろ用意したらいいと思います!」
「あら、いいわね。楽しみになってきたわ」
四人でこくこくと頷く。
「他へ広めるためには、実際に使ってみる必要がある。俺とルミナスでは闇魔法の力が混ざってしまうかもしれないから、セレナとダンに行ってほしい。俺たちは近くで見守り、記録をつけるから。いいか?」
「はい! お任せください!」
「実用化が待ち遠しいですね」
「だが、その前に……」
ディランは魔道具を見て気持ち幸せそうに微笑んだ後、ドサリと椅子へ座った。
「眠りたい」
「賛成」
三人の声が重なった。
実はこの三日間、ろくに寝ていないのだ。一日のほぼ全てを魔道具造りに費やしたと言っても過言ではない。急いだ理由は、ジャスパーの傷が癒えるまでに完成させたかったからだ。癒えれば、彼からの助言が受けられなくなってしまう。
(まぁ、軽度だとしても骨が折れていることに変わりはないから、あと二週間は時間がかかるでしょうけれど)
おぼつかない足取りで、開発に使った材料を片付ける。可能な限り、気持ちよく寝たいのだ。
「まさか、こんなに早くできるとは思いませんでしたね〜」
「そうね。本当に早くできてよかったわ」
これでやっと、本国へ帰ることができる。そのことがどれほど嬉しいか。どんな場所であれ、家から離れれば緊張してしまうのである。
(ディランとシュヴァルツ様の今後が心配ではあるけれど……二人の仲を上手く取り持つ方法が浮かばないし、仲良くなることが今よりいいことだとは言い切れない部分があるのよね。ディランがシュヴァルツ様にとっての、より明らかな弱点になる可能性があるもの)
最後の書物を本棚に戻す手を止め、ルミナスは少し思案した。
その時、城の遥か遠くから、ドドドドと何かが近づいてくる音が聞こえてきた。
「ねぇ、何か来ていない?」
「ああ。どんどん城へと近づいてきているな」
「心配ですね。様子を見に行きますか」
「そうね。魔物だったらいけないもの」
ルミナスたちは頷き、部屋から出た。その内にも足音は大きく、激しくなっていく。何かが迫ってくる感覚が、ルミナスの不安を煽る。
外へ出ると、ディランがはっと息を呑んだ。そこにシュヴァルツがいたからだ。彼も森の奥を見据えている。
「兄貴、どうしてここにいるんだ」
「お前こそ、何故でてきた?」
「何かが聞こえてくる音が聞こえてきたからだ」
「ふん」
シュヴァルツに鼻で笑われ、ディランの眉間に皺が刻まれた。わなわなと手を震わせ、ルミナスの元へと戻ってくる。むっと寄せられた口がへの字になっている。
怒りを露わにしているが、ディランの瞳はどこか悲しげに見えた。
(やっぱり、ディランは子供じゃないのだから、シュヴァルツ様と話し合った方が――)
「ルミナス様!」
「きゃっ!」
突然、ダンがルミナスを引き寄せた。近づいたダンの顔にドキリと胸が高鳴る。
だが、すぐに恐怖へと変わった。
ルミナスが元いた場所に、一本の木が落ちていたからだ。
(森から飛んできたというの?!)
ダンが助けてくれなかったら。頭に浮かんだ自身の姿に、ルミナスは身震いをした。
「ありがとうございます、殿下」
「いえ。ご無事で何よりです」
ルミナスはダンから離れた。程なくして、使用人の悲鳴が聞こえてきた。
顔を上げた先、森から、魔物の大群が現れたのだ。
ガルム、ゴブリン、スライム、オーク、ガーゴイル、まだまだやってくる。
(数が多すぎるわ!)
闇魔法で語りかけるも、何故か効かない。聞く耳を持ってもらえない。
魔法と剣の同時使いで応戦するも、森の奥から魔物は際限なく溢れてくる。
押しては引いてを繰り返していると、ディランがルミナスの背についた。少し囲まれてしまったらしい。
「ルミナスは右、俺は左を」
「わかったわ」
「いくぞ」
魔力を剣に込め、二人して深く踏み込んだ。そして、大きく振り下ろした。
闇魔法をのせた波動が、扇状に魔物を薙ぎ倒す。
場が開け、ルミナスはほんの少し息を整えた。
「いつもこれだけの数に襲われているの?」
「いや、こんなことは初めてだ」
おかしいと、そう言い残してディランは別の場所へと走って行った。
(何が起こっているの?)
ここに来て、トラブルに巻き込まれてばかりである。魔物が多いとは聞いていたが、ディランからしてもこの状況は異常らしい。
ジャスパーの話から考えてもやはりおかしい。ここは鉱山ではないのだから。
(今のところ怪我人はいなさそうね)
辺りを見渡すと、使用人たちも暗器で戦っていた。中には恐怖で動けなくなった者もいるようだが、彼らはシュヴァルツとダンが場内へ避難させたため、今はいない。籠城戦になった時に備えるためか、城内を駆け回っている。
魔物の大群へと視線を戻すと、光魔法を手に宿したダンの姿が見えた。出しては消してを繰り返している。
「殿下! また防壁を張ってくださいませんか?」
「それが、張る隙がないのです。常に防壁を張るライン上に魔物がいますから」
(なら、どうにかして魔物を退けるしかないけれど……お城を覆うことのできるサイズとなると、かなり範囲が広いわね。それに今は、目の前に迫ってくる魔物の対処でいっぱいだわ!)
しかし、やるしかないのかもしれない。相談しようかと、ルミナスは再びダンに視線を向けた。
彼は何かを考えていた。眉間に皺を寄せている。
「いかがなさったんです?」
「……まだ成功したことがないのですが」
彼の聖剣に光魔法が宿った。それは眩しい光を放ち――
「えっ?」
「ルミナス様!」
突然、ルミナスの体が空へと持ち上がった。咄嗟に伸ばされたダンの手が、指先を掠めて遠ざかっていく。
腹部に圧迫感を感じ、ルミナスは顔を上げた。
「ドラゴン?!」
ルミナスを持ち上げたのは、始業式の日に学園を襲ったドラゴンだった。闇魔法を使って語りかけるも、やはり何も返ってこない。
「久しぶりだね、兄さん。会いたかったよ」




