表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/99

6話 爺やは大抵、過去をばらす存在

「きゃっ!」


 ボフンッと音を立て、機械仕掛けの発生器から黒い煙が噴き出した。


「また失敗……」


 これで何度目だろうか。

 黒煙が出たり、魔法が漏れ出たり、勝手に魔法が作動したり。魔道具作りは難航を極めていた。

 咳き込みながら離れると、ダンが椅子を出してくれた。彼は何枚もの実験記録用紙がを持っている。


「初の試みなのですから、焦らず着実に調節していきましょう」

「そうですわね」


 ルミナスはようやく煙の止まった魔道具に目をやった。


「殿下がいてよかったですわ。だいたいの形は決まってきましたもの」

「そう言っていただけて嬉しいです。ルミナス様も魔法の出力調整が正確で、非常に助かります。安定した魔力供給は、安定した実験結果に繋がりますから」

「お褒めいただき、ありがとうございますわ」


 丁寧なお辞儀をすると、実験室の扉が開かれた。


「ルミナス様〜! 私、もう頭が痛いです〜!」


 ガバリと抱きついてきたセレナを受け止め、背中を撫でてやる。


「早朝からずっと、図書室にこもっていたものね。お疲れ様」

「ありがとうございます〜!」


 くすん、と鼻をすすり、セレナは離れた。疲れているのか、いつもより目が開いていない気がする。


(充血もしているし……そろそろ休ませた方がいいわね)


 ルミナスも疲れを感じていた。さっそくディランに休憩を提案してみよう。


(ただ、ディランは今、シュヴァルツ様に会いに行っているのよね。お土産を渡してくるって言っていたけど、スムーズに渡せたかしら?)


 帰ってくるまで待とうかと、ルミナスは椅子に座った。


(それにしても、本当にすごい実験室だわ)


 本棚も、机も、器具も年季が入っていることはもちろん、数が豊富だった。いったいどれほどの時間をかけたのだろう。欲しいものは大抵揃っていた。

 そして、取ってくれと言う前に、ダンが手渡してくれる。ディランは魔力の察知能力がピカイチのため、大きな事故は未然に防げる。セレナは原因予測を行ってくれているため、魔道具造りに集中できる。


(なかなかいいチームじゃないかしら?)


「戻った」

「おかえりなさ――」


 ルミナスは、実験室に入ってきたディランを見てギョッとした。

 ディランはシュヴァルツの元へ行く際、小さな箱を一つだけ持って行ったはずだ。それが今は、大きめの箱を三つほど持っているのだ。


「それは何かしら? なんだか甘い匂いもするのだけれど」

「菓子だ」

「お腹が空いたの?」

「いや、違う。いらないからと、兄貴に押し付けられたんだ」

「どういうこと?」

「さぁな」

「さぁなって、貴方ねぇ……」


 自分で買ったものを「いらない」と誰かに渡すことは、ほとんどない。イメージと違ったのならまだ分かるが、ディランが持っているものは、見るからに未開封。イメージ通りかどうか、確認することはできないはずだ。

 となれば、誰かから貰ったのだろう。それをディランに渡す理由もわからないが。


「ディランは紙と万年筆を渡したのよね?」

「ああ」

「なら、出て行く時より、増えたわね」

「そうだな」


 二個渡し、三個貰った。その差は一個である。


「あと茶葉も貰った」


 ディランは缶をどこからか出した。転がるからと、箱と胸板の間に挟んで持ってきたらしい。使用人に持って貰えばいいのでは。


「四つに増えたわね」

「彼奴は何故か、いろんな人間からプレゼントを貰うんだ。兄貴は甘いものを食べないし、今回もそれで俺に渡したのだろう」

「気持ちが大事とは言うけれど、プレゼントを送る相手の好みくらいは把握してから送るわよね。(嫌いだろうと、利害関係を結ぶことのある)貴族なら」

「俺もそう思う。まぁ、いつか戦うことになるかもしれない分、真剣に仲よくする気はないのだろう」

「サラッと闇のあることを……」


 ルミナスはため息をついた。


「爺や」

「はい」


 突然、壁が回転し、執事服の男性が現れた。驚いてしまい、セレナに抱きついてしまう。


(私ったら、恥ずか――離してくれない?!)


 すぐさま体を離そうとするも、屈強な腕力によって動けなくなってしまう。


(細腕のどこにそんな力があるのよ!)


「スパイみたいでかっこいいです!」

「ありがとうございます」


 笑顔で執事(爺や?)に話しかけるセレナに、ルミナスは諦めることを決めたのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ディランによって召喚された爺やは、到着初日にルミナスたちを出迎えた執事だった。

 どうやら、古くからヴァールハイト家に使えているらしい。今は慣れた手つきで焼き菓子をよそっている。


「あら、なかなかいい茶葉ね」

「東方から取り入れたらしい」

「帝国にも茶葉が採れる畑があったのね」


 セオドアの出身であるニフリート王国が、この大陸では最も茶葉の輸出が多い。穏やかな気候のおかげだろう。


(荒涼な気候の帝国で育つ茶葉……いったいどんな味かしら?)


 缶の裏を確認するディランの言葉を待つ。


「海を越えた東らしいな。見たことのない国名が書いてある」

「あら、そうなのね」

「それに、帝国産の茶葉は聞いたことがないな。爺やは?」

「私もありませんね。過去に生産を試みたことはありましたが、どれも不作に終わりました」

「その代わり、狩猟は盛んに行われているぞ。昨夜の鹿肉も兄う、兄貴が捕まえたらしい」


 そうだったのか。

 程よくしまっているが、臭みがなく、柔らかい肉の味を思い出す。


「お上手なのね」


 そう返すと、ディランは眉根をピクリと動かした。


「俺も獲れるぞ。クマだって、毎年獲っていた」

「クマは食べたことがないわ」

「なら、今から獲ってこよう」

「えっ? わざわざいいわよ。クマもかわいそうだし」


 ガタリと立ち上がったディランの肩を、ダンとセレナが掴んだ。


「魔道具はどうするんです?」

「まずは焼き菓子を食べませんか?」

「……」


 ジーっと見つめあった後、三人は椅子に座った。すると、爺やがクスリと笑った。


「ご友人ができたようで、爺やは嬉しく思います」

「やめろ。生温かい目を向けるな」


 ディランは嫌そうな顔をして、紅茶を飲んだ。


「カイルとは仲がいいと聞いたわ。他にはいなかったの?」

「ルミナス」

「いや?」


 それなら、深掘りしないが。

 振り向くと、ディランの顔は赤かった。


「その、人見知りだったんだ」

「今もじゃないですか」


 ダンの突っ込みが入り、ディランはグッと唇を噛んだ。

 普段から人にズケズケとモノを言っているのに、実は人見知りだったとは。意外である。ルミナスにも自分から話しかけてきたくせに。

 なんなら、勝手に同じ食堂の机にやってきていたくせに。


「だった、と言っただろう? 今は違う」

「変わるきっかけがあったの?」

「……」


 ディランは黙り込んでしまった。焼き菓子をつまみ、モグモグと食べている。


「俺のことはいい。休んで、さっさと作業に戻るぞ」


 途中まで話して終わるなんて、ずるい。

 そう言おうとしたが、やはり無理とに話させる気にはならなくて、ルミナスも焼き菓子を手に取ったのだった。


 少し小ぶりなチョコレートのマドレーヌは、しっとりとしていて、甘くて、じゅわりと溶けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ