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41話 必ず見つけ出すから

 ノック音と共に、エミリーがルミナスの部屋に入ってきた。自身の髪を結う侍女の手が止まる。


「お嬢様、セレナ様からお手紙です」

「ありがとう。今読むわ」


 エミリーが手渡しで手紙を受け取り、ルミナスはペーパーナイフで封を切った。ふんわりと花の香りがする。

 ノアの作った最新式の香水でも使っているのだろう。自分だけができる何かを見つけたいと、彼が最近発明したのだ。今までと比べてより自然で、品のある香りが楽しめる。

 今日は……ファルバラローズだろうか。清純なピンク色の便箋にぴったりだ。


 再び髪を結われながら、手紙に目を通す。

 今日はオムライスを食べたとか、新しい魔法を考えついたとか、町で美味しそうなカフェを見つけただとか。毎日毎日、よく話題がなくならないなと思う。それほど彼女の感性が優れているということだろう。


「毎日来ますね」

「そうね。約束通りだわ」

「手紙のやりとりのお約束をされたのですね」

「ええ。最近は忙しくて返せていないけど」


 そう言うと、エミリーはクスリと笑った。すぐに真顔に戻ったが、微笑ましそうな表情はバッチリ目に入った。


「何か言いたげね」

「いえ? ただ、お嬢様にもご友人ができたのだなと思っただけです」

「まぁ、入学前はいなかったものね……」


 遠い日の、孤独な日々を思い出す。エミリー達が遊んでくれたので、時間的には寂しくなかったが、やはり侍女達とは本当の友達にはなれない。身分が邪魔をするからだ。お互いどこか遠慮がある。

 セレナも身分が違うことに変わりはないが、彼女は良くも悪くもそれを超えてくる一種の変人だ。

 彼女からの手紙を置き、冷えたテーブルの上で両手を重ねる。


――恐らくだが、ループが終わった。


 お陰で今の生活がある。それは喜ばしいことだ。しかし、ルミナスの心に引っかかるものが一つあった。

 綺麗な姿へとめかしこむ自身の姿を見て、ため息をつく。


「あまり乗り気ではなさそうですね」

「お眼鏡にはかないませんでしたか?」

「こんなにプレゼントを下さったではありませんか」


 侍女達の言葉を聞き、ルミナスはチラリと視線を横へ逸らした。

 そこには、大小さまざまなプレゼントボックスが小さな山を形成していた。ドレスに宝石、見たことのない貿易品の数々を一瞥し、また視線を鏡に戻す。

 学園を卒業し、宣言通りお見合いが始まった。父は大事な仕事で忙しいらしく、事前にリストアップされた候補者達と毎日のようにお茶を飲んだり、お話をしたりしている。プレゼントは全て、彼等から贈られたものだ。

 多くの令嬢達が舞い上がるであろう状況なのに、やはり気分は上がらない。今日だって、一段とルミナスに熱をあげている令息が来ると言うのに。


「どこがご不満なんですか?」

「あの方は顔がいい」

「足が長い」

「地位もいい」

「羽振りもいい」

「歳もあまり離れていない」

「なかなかいい殿方だと思いますよ」

「……はぁ」


 厳禁な。もう一度深くため息を吐き、そのまま頬杖をつく。


「化粧が崩れます」

「……」


 ルミナスは無言で体を起こした。

 確かに、今日来る令息は他国の伯爵家第二子で、歳は自身の四つ上。優秀で物腰は穏やか。話していて特に違和感もない。


(でも……)


 ルミナスは手紙の最後の文に目をやった。

 そこには、ダンの情報を掴めなかったとの旨が書かれている。

 彼は舞踏会の後、家の事情で学園から去ったらしい。何日かしてやっと教師が教えてくれたようだ。しかし、詳細は教えてくれず、自身を含む六人は違和感を感じダンを探すことにしたのだ。

 しかし、彼は近隣の町にはおらず、目撃証言すらなかった。まるで彼だけがこの世界から切り離されたようで、怖かった。日常へと戻っても、彼のことが気がかりだった。それは今も変わらない。

 仮に説明しにくい事情があったとして、なら、ルミナスに意味深な言葉を残す必要はあったのだろうか。また明日など、嘘をつく必要はあったのだろうか。ないはずだ。


「できましたよ」

「ありがとう」


 立ち上がり、鏡の前で全身をくまなく確認する。表情以外は完璧だ。


「ルミナス、準備はできたかい?」

「お父様」


 今日は珍しく時間があるらしく、父が扉越しに声をかけてきた。反応すれば、扉が開かれる。

 なかなか相手を決めない娘に痺れを切らしたのかもしれない。


「応接室で彼が待っているよ。行ってきなさい」

「えぇ、わかり」

「キャーー!」


 コンッと何かが窓にぶつかる音がしたかと思うと、侍女が悲鳴を上げた。

 顔を向けると、揺れたカーテンの隙間から黒い物体がのそりと出てきた。


「ガルム?」

「お嬢様危険です!」

「ルミナス!」


 父達の静止をものともせず、ガルムへと近付いた。どうやらディランが飼っているガルムのようで、彼の首には首輪が着けられていた。衛兵達が見張っているはずなのに、よくもまぁここまで無事に来れたものだ。


「久しぶりね。元気だった?」

 周りを怖がらせないようにするためか、ガルムは声を立てずに頷いた。

「あら?」


 ふと、首輪に紙が括られていることに気付く。


「失礼するわね」


 解いてみると、ディランからの手紙だった。何かの切れ端に殴り書きしたようだ。


『見つけたかもしれない。皆も呼ぶから来い』


「まさか……!」


 手紙を懐に入れ、ルミナスはガルムに跨った。


「ルミナス。どこに行くんだ」


 見合い相手を放っていくのか。そう言いたいのだろう。

 でも――


「ごめんなさいお父様。私、どうしても行かないといけないんです」

「ルミナス!」

「行って」


 そう告げると、ガルムは窓から飛び出した。

 稲光のように黒く、速く、森を駆けていく。

 今行かないと、絶対に後悔する。分からないが、そう確信してならなかった。


――例えループが終わったのだとしても、全員が揃っていない未来なんて、私は望んでいない

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